【本編完結】僕は魔王になりたくない、好きな人と仲良く暮らしたいだけ。

ume-gummy

文字の大きさ
12 / 44
魔王討伐隊

進むしかない

しおりを挟む

 フィオがいなくなってから数日後。
 僕たちは岩山を上る準備を終え、移動を始めた。


 専門家の話だと、生贄は複数を集め、儀式で一度に命を捧げる必要があるらしく、それならば誘拐された者もまだ無事だろう。
 フィオも魔王復活の場にいるのだろうか。
 とにかく早く魔王復活の場へ辿り着かなくては。
 偵察に出た者たちの話では、その場所は今向かっている場所で間違いないようだ。

 実は少し思い当たる事が無かった訳ではない。
 前世の記憶の中のある物語ゲーム

 創造者からしたら、マッサーリ村と言う存在そのものが魔王を復活させる為に作ったのだろう。
 だから、あの物語で僕が最速で魔王になったのはマッサーリ村を全滅させたからだと思う。
 もしも、この世界に意思があるとして、シナリオを元に戻そうとするならば、いま残っているマッサーリ村の存在は邪魔なのかもしれない。
 魔王復活に村人が使われる可能性は高いだろう。
  
 それに勇者が愛する姫を魔物に誘拐されるイベントもあったよな……ん?
 姫なんか出てきたか?
 
 これが本当にあの話なら、主人公は一緒に魔王の住処へ向かう騎士団員のランベルトだ。
 今のランベルト、王宮騎士団じゃなくて、只の騎士団員だが、どこかで姫と接点があるのか?
 そういえば、この国の姫はあのクソ王子の妹で、兄と似てかなり腹黒い……。
 
 それよりもっと気になるのが、もしかしてフィオが姫枠になってるんじゃないかと言う事だ。
 このままランベルトに助けられて、ほ、惚れちゃうとかだったらどうするんだよ!
 僕は隣を歩くランベルトをギっと音がするくらい睨みつけた。

「な、何なんですか?」
 それに気付いたランベルトが狼狽えている。
 じっと睨み続けると「もしかしてオレ、ディガッタ様に嫌われてますか?」と、小さく震えた。

「はいはい、ジルヴァーノ。若い子を虐めるんじゃないの」
「どうか仲良くしてやってくれないか」
 僕とランベルトの間にガリエナとフォーレが同時に割って入る。
「チッ」

 ランベルトめ。
 フィオは絶対に渡さないぞ。


 
「では、ここから先の道のりは更に熾烈を極めると思う。命を大事に、無理だと思ったら安全地帯まで退くように」
 
 この先、力不足の者が入っても逆に足手纏いになると言う事で、岩山への登頂は精鋭が選ばれた。
 頂上近くになると、更に怪我をした者、先に進むのを躊躇う者などが段々と脱落し、結局、偵察から戻って来た案内の兵士数名と物語の通りにフォーレ、ランベルト、ガリエナ、ロルフォ、そして僕で先に魔王城へ侵入する事になったのだ。

 
 只、この人数だけで切り込むとか無謀な話ではなく、取り合えず僕たちが先に行って浄化しながら進み、後から運搬係を任された辺境伯たちが人員と物資を持って来ると言う手筈である。
 そうすれば滞在が長引いても大丈夫だろうと言う事らしい、あの物語と違ってちゃんと計画がされている。
 だが、僕としては長引かせる気は無いのでさっさと進みたい。
 

 暫く歩くと中心が近いらしく、前方にさらに濃い瘴気が溜まった場所があった。
 
 身体に纏わり付くような感覚を感じるほど濃い瘴気の中では、魔力の少ないフォーレなど直ぐに正気を失ってしまうだろうが、そこは僕がいる。
 神力のかけらも無く、魔力も少ないフォーレは勿論、念のため全員に瘴気を吸い込まないように浄化の魔石を付けた、前世で言うところのハーフフェイス型の防毒マスクに似た魔道具を全員に付けて起動してやった。
「おお、これは良いな。苦しさが半減したぞ」
「本当です、ジルヴァーノ様は凄いですね!」
「今度、神殿の方にも卸して下さい」
「流石は魔術師団魔道具開発部副責任者」
「ふっ……、当然だ」
 くぐもった声が少々聞きづらいが、大丈夫そうだ。
 そうして僕たちはその瘴気の中へ入っていった。


「瘴気を払いに行くと、大抵は魔物の群れに遭遇するのですが何もいませんね」
 ロルフォの言う通り、異常な瘴気の濃さなのに魔物の気配さえない。
 ロルフォは神官なので日常的に瘴気を払いに行くからこそ、この魔物の少なさは異常に感じたのだろう、彼は更に辺りを警戒する。
 暫くの間、草むらの中に人ひとり通れるくらいの狭い道が続いたが、突然に視界が開けた。

 そこには王国の北部によくある小さな集落があった。
 
 尤も瘴気が濃いので、視界が黒い靄に覆われて視界が悪いのだが、周りには靴や農作業道具が散らばって落ちていて畑の農作物も枯れ、すでに屋根が落ちている家もうっすら見える。
 住民は逃げたのだろうか、人の姿は見えないようだ。
 
「こんなところに集落があるなんて、住民はどこへ行ったのでしょう。無事に逃げられたなら良いのですが……」
 辺りを伺いながらロルフォが戸惑っている。
「取り合えず、瘴気を払います。すみませんが増幅器を」
 広範囲を一気に浄化するには、チート級の神力の持ち主のロルフォでもきついらしい。
 僕は頷いて腰に付けている何でも入るマジックバッグから増幅器を取り出した。
 こう言った、バッグより明らかに大きい物を取り出すとき、僕は魔法は便利だなぁと改めて思う。
 でも、中に入る物の量は魔力量次第なので、一般人には使い勝手が悪い。
 
 神殿側から託された増幅器は大きくて重い魔石がはめ込まれており、マジックバッグから出すと一気に荷重が掛かるので、ガリエナやランベルトに手伝ってもらって設置する。
 こんなに嵩張るのは使いにくいだろうに。
 帰ったら改良していいか神殿に聞いてみようと思った。
 
 設置し終わると、ロルフォが増幅器の魔石に掌を当てる。
 すると、増幅器の四方に空いた穴から白い光が出て辺りを包んだ。
 

 
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

魔王の求める白い冬

猫宮乾
BL
 僕は交通事故に遭い、別の世界に魔王として転生した。最強の力を貰って。だから何度勇者が訪れても、僕は死なない。その内に、魔王はやはり勇者に倒されるべきだと思うようになる。初めはそうではなかった、僕は現代知識で内政をし、魔族の国を治めていた。けれど皆、今は亡い。早く僕は倒されたい。そう考えていたある日、今回もまた勇者パーティがやってきたのだが、聖剣を抜いたその青年は、同胞に騙されていた。※異世界ファンタジーBLです。全85話、完結まで書いてあるものを、確認しながら投稿します。勇者×魔王です。

寄るな。触るな。近付くな。

きっせつ
BL
ある日、ハースト伯爵家の次男、であるシュネーは前世の記憶を取り戻した。 頭を打って? 病気で生死を彷徨って? いいえ、でもそれはある意味衝撃な出来事。人の情事を目撃して、衝撃のあまり思い出したのだ。しかも、男と男の情事で…。 見たくもないものを見せられて。その上、シュネーだった筈の今世の自身は情事を見た衝撃で何処かへ行ってしまったのだ。 シュネーは何処かに行ってしまった今世の自身の代わりにシュネーを変態から守りつつ、貴族や騎士がいるフェルメルン王国で生きていく。 しかし問題は山積みで、情事を目撃した事でエリアスという侯爵家嫡男にも目を付けられてしまう。シュネーは今世の自身が帰ってくるまで自身を守りきれるのか。 ーーーーーーーーーーー 初めての投稿です。 結構ノリに任せて書いているのでかなり読み辛いし、分かり辛いかもしれませんがよろしくお願いします。主人公がボーイズでラブするのはかなり先になる予定です。 ※ストックが切れ次第緩やかに投稿していきます。

婚約破棄されて森に捨てられたら、フェンリルの長に一目惚れされたよ

ミクリ21 (新)
BL
婚約破棄されて森に捨てられてしまったバジル・ハラルド。 バジルはフェンリルの長ルディガー・シュヴァに一目惚れされて、フェンリルの村で暮らすことになった。

令嬢に転生したと思ったけどちょっと違った

しそみょうが
BL
前世男子大学生だったが今世では公爵令嬢に転生したアシュリー8歳は、王城の廊下で4歳年下の第2王子イーライに一目惚れされて婚約者になる。なんやかんやで両想いだった2人だが、イーライの留学中にアシュリーに成長期が訪れ立派な青年に成長してしまう。アシュリーが転生したのは女性ではなくカントボーイだったのだ。泣く泣く婚約者を辞するアシュリーは名前を変えて王城の近衛騎士となる。婚約者にフラれて隣国でグレたと噂の殿下が5年ぶりに帰国してーー? という、婚約者大好き年下王子☓元令嬢のカントボーイ騎士のお話です。前半3話目までは子ども時代で、成長した後半にR18がちょこっとあります♡  短編コメディです

雪解けに愛を囁く

ノルねこ
BL
平民のアルベルトに試験で負け続けて伯爵家を廃嫡になったルイス。 しかしその試験結果は歪められたものだった。 実はアルベルトは自分の配偶者と配下を探すため、身分を偽って学園に通っていたこの国の第三王子。自分のせいでルイスが廃嫡になってしまったと後悔するアルベルトは、同級生だったニコラスと共にルイスを探しはじめる。 好きな態度を隠さない王子様×元伯爵令息(現在は酒場の店員) 前・中・後プラスイチャイチャ回の、全4話で終了です。 別作品(俺様BL声優)の登場人物と名前は同じですが別人です! 紛らわしくてすみません。 小説家になろうでも公開中。

記憶を失くしたはずの元夫が、どうか自分と結婚してくれと求婚してくるのですが。

鷲井戸リミカ
BL
メルヴィンは夫レスターと結婚し幸せの絶頂にいた。しかしレスターが勇者に選ばれ、魔王討伐の旅に出る。やがて勇者レスターが魔王を討ち取ったものの、メルヴィンは夫が自分と離婚し、聖女との再婚を望んでいると知らされる。 死を望まれたメルヴィンだったが、不思議な魔石の力により脱出に成功する。国境を越え、小さな町で暮らし始めたメルヴィン。ある日、ならず者に絡まれたメルヴィンを助けてくれたのは、元夫だった。なんと彼は記憶を失くしているらしい。 君を幸せにしたいと求婚され、メルヴィンの心は揺れる。しかし、メルヴィンは元夫がとある目的のために自分に近づいたのだと知り、慌てて逃げ出そうとするが……。 ハッピーエンドです。 この作品は他サイトにも投稿しております。

いきなり有能になった俺の主人は、人生を何度も繰り返しているらしい

一花みえる
BL
ベルリアンの次期当主、ノア・セシル・キャンベルの従者ジョシュアは頭を抱えていた。自堕落でわがままだったノアがいきなり有能になってしまった。なんでも「この世界を繰り返している」らしい。ついに気が狂ったかと思ったけど、なぜか事態はノアの言葉通りに進んでいって……?

処理中です...