オレと竜族の事情~淫紋ってどうやって消すんですか?~

ume-gummy

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竜族とキマイラ

 

「グオオオォ!!!」

 耳を劈く獣の咆哮と土埃と共にキマイラが地面に降り立った。
 どうやらサシャに目を付けたようだ。

 爬虫類の翼を持ち、ネコ科の猛獣の頭にヤギのような胴体、毒蛇の尾を持つそれは有名ではあるが、この辺りでは見た事が無い魔物だ。
 キマイラは目の前で動けないでいるサシャへ鼻先をくっ付けると、クンクンと匂いを嗅いできた。
 恐怖で動けないままのサシャはされるがままだ。
 暫く匂いを嗅がれるとキマイラはサシャに向かって口を開けた。

 その時、サシャは見た。
 キマイラの喉の奥に火球があるのを。
 キマイラの口の中がどんどん明るくなって辺りの気温が上がるのを感じる。
 眩しさで目を瞑り、そのままサシャは死を覚悟した。




 ―― どの位、経っただろうか?

 今だサシャには身構えていた熱さも、苦しみも感じない。

(いつの間にか死んで、天国の入り口にいるのかもしれない)
 そう思ったサシャが恐る恐る目を開くと、そこは元の草の生えた地面で、少し先に黒いブーツを履いた足が目に入る。

 それから徐々に視線を上げていくと、爬虫類のような尻尾、ブーツと同ような黒い胸当てをした逞しい体、光の加減で銀色にも見える滑らかな美しい肌、つやつやとした長い黒髪、見上げるような長身に、頭には一対の羊のように巻いた黒い角が見えた。


(竜族だ)

 キマイラ以上に珍しい竜族の登場にサシャは目を瞠った。


 横顔を見詰めていると、竜族の男が目だけ動かしてサシャを見た。
 その顔は人間と変らない造りだったが、目が金色で、瞳は爬虫類のものである。
 普通は恐怖に思うだろうその目が、サシャは美しいと思った。

 男は暫くサシャを見ていたが、片手で無理やり閉じていたキマイラの口から燻った煙が漏れているのに気付いてそちらへ向き直った。
 碌に息もできない苦しさからか、キマイラはヤギのような蹄を竜族に向かって突き出そうとするが、それも反対の手に持った長剣で止められてしまう。
 次に翼を開いて無理に飛び立とうとしたが、男は蹄を止めていた長剣を軽々と回転させると、喉元を下から脳天に向かって思い切り突いた。
「ゴファ」
 男がキマイラの喉から剣を引き抜くと、その開いた場所から血と煙が噴出する。
 そして竜族が止めとばかりに苦しそうに仰け反ったキマイラの心臓を目掛けて剣を突き立てれば、キマイラは大きな地響きと共に地面に沈んだのだった。

 それはあっという間の出来事であった。
(助かった……のかな?)
 サシャはその場で放心していた。



「大丈夫か?」

 竜族の男はキマイラが絶命しているのを確認すると、直ぐにアイテムボックスになっているカバンにキマイラの死体をしまった。
 アイテムボックスとは主に冒険者や荷運び、貴族の侍従などが持っていもので、魔法で大きさに関係なく物が入る上に中の時間が止まっているので、荷物が劣化しない優れものだ。
 只、もの凄く値の張るものらしく、村には持っている者がいないので、サシャもこの時初めて見た。

 サシャが何をするでもなくそれを眺めていると、竜族の男が近付いて来た。

「あ、あの、助けて下さってありがとうございました」
 取り合えず助けてもらったお礼をいうべきだと思ってサシャは慌てて頭を下げたが、反応がなかったので、ちらっと目線を上げて男を見る。
 すると男も黙ってこちらを見ていたので、二人の視線が絡み合った。

 正面から見た男は血まみれだったがとても整った容姿をしていた。
 それに、上位種の竜族だから魔力が高いのか、圧があってサシャは妙に緊張してしまう。
 じっと自分を見る強い視線も気恥ずかしくて、サシャは目を反らせてしまった。
「気にするな。俺の方は仕事だから」
 男はやはり冒険者のようだ。
 数少ない言葉から推測するに、どうやらキマイラを退治して欲しいと言う依頼を受け、かなり離れた場所でキマイラを見つけたが飛んで逃げられてしまい、ここまで追いかけて来てしまったらしい。


 その後、男は血だまりに土を掛け地面を慣らすと、今度は湖へ向かい胸当てとその下のシャツ、ブーツを脱いで湖の水で洗い始めた。
 それを見てサシャも自分がキマイラの返り血を浴びてるのに気付く。
「うへぇ」一気に気持ちが悪くなり、自分も湖へ入って体を洗う事にした。


 サシャはいつものように男同士だから構わないと考え、湖の中で上半身裸になった。
 自分と服を洗いながら、少し離れた場所にいる男の方を見れば、その鍛えられた肉体に目を奪われてしまう。

(うわぁ、格好いいなぁ。
 俺も鍛えればあのくらい……にはなれなくても、もう少しマシになるかな?)と、サシャは水面に映る色白でそばかす、赤褐色の髪の細っこい自分を眺める。
 それから順に髪、顔、首、腕、胸、下半身と洗って行き、最後に下腹部を洗おうと腹を見た。

「あっ!」
 キマイラの騒動で忘れていたが、自分の腹の下の方にくっきりとサキュバス達が書いた魔法陣が残っている。
 と、サシャは動揺して足を滑らせてしまった。


 バシャン!
 大きな音と共に水没してしまう。
 慌ててしまって立ち上がれないでいると、竜族の男が後ろから引っ張り上げてくれた。


「!!!」
 触れられた瞬間、魔法陣の下の腹の中にピリッとした痛みが走った。
 そして魔法陣が赤く輝き出し、再び腹の中が熱くなる。
 だが、サシャはさっきと違ってとても変な気分になって来た。

「ぷはぁ」
 水の中から顔を出すと、竜族の男が支えてくれたまま至近距離でじっとサシャを見ていた。

 その金色の瞳を見たとたん、サシャは鼓動が早くなり胸が苦しくなって、腹の奥がキュンと掴まれたように蠢く。
 もっと触って欲しくて、男の方へ手を伸ばした……と、
「おい、お前。
 この匂いとその腹の魔法陣はなんだ?」
 男はサシャの腹の魔法陣に気付き、伸ばされた手を掴んだ。
「これは……さっき、サキュバスに描かれて」
「よく見せてみろ!」
 そう言うと、男はサシャを抱え上げて湖から上がった。


 ~~~~~~~~~~~~
  

 この世界には亜人種がたくさんいて、魔力が高いものほど上位種とされている。
 上位種ほど長命で繁殖率が低く、人口が少ない。

 魔力:どの種族も多少は持っている。
 魔力によって便利な道具が動く世界なので、魔力がないと困る。
 ある程度魔力がある者は練習すれば魔法が使える。

 魔法陣は呪いや封印、魔法を持続させる為に利用される。
 古代文字を理解できる知識が必要。

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