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大聖殿の聖女

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 朝、目覚めるとサシャは全裸でアルバに抱きしめられて眠っていた。
 身動ぎすると、アルバも目を開ける。
「おはよう……ございます?」
「ああ」

 何故だかアルバの様子がおかしい。
 思い当たるのは昨日発情した事だ。
 最中はうろ覚えだが何かやらかしたのだろうと思い、サシャは起き上がり、ベッドの上で土下座した。
「昨日はごめんなさい! あんな風に発情しちゃうなんてオレもびっくりで」
「それは全然構わないんだが、その」
「?」

 サシャは突然、アルバの胸に抱き込まれ、額に口付けされる。
 発情の時以外はこんな事して来ないのに、素面でされてサシャはびっくりしてしまった。
「アルバ」
「もう少しだけいいか?」
 嫌ではなかったので返事の代わりにサシャもアルバの背中へと腕を回し、大好きな胸にそっと顔を押し付けてみた。


 *****


 数日後、アルバとサシャは王都に到着していた。
 そして今、聖女に会う為に大聖堂に来ている。

 神官に本でいっぱいの部屋に案内され、暫く待っていると聖女だと言う女性が現れた。

「あの、初めまして……ではないんです。
 以前、リーズ村に来て頂いた時はありがとうございました」
 思っていた通り、彼女は3年前にリーズに来て村の神殿に癒しの魔法陣を描いて行った聖女だった。
 憧れの聖女様と対面出来たのが嬉しくて、サシャは勢いよくお玉を下げた。
「あら、貴方リーズの方なのね」
「はい、あの時描いて頂いた魔法陣は今でも皆を癒してくれています!」
「そうなのね、良かったわ」

 にっこり笑う、緩いウェーブの輝く金髪に明るい青い瞳の美女。
 5年前に魔獣を倒し、国を救った聖女コーディアル。

 席に着いて、お茶を勧められ飲んでいると、ふとある事が頭を過った。
(ん? 5年前? アルバと聖女様は仲間だったって言ってた。 もしかして!)

「ア……」
 サシャはアルバに聖女との冒険譚を聞こうと口を開きかけたが、止めてしまった。
 何故なら目の前で仲睦まじくアルバと聖女が話していたからだ。
 聖女が笑い、アルバが言い返している。
 サシャはあんな風に感情を表して話すアルバを初めて見た。

 それに、気が付いてしまったのだ。
 今でも仲が良いなら一緒に冒険者をしていた頃は想い合っていたのではないのだろうかと。
 美男美女の二人はどう見てもお似合いだ。

 二人を見て、このサキュバスに付けられた淫紋が消えて呪いが解けたら、アルバとは確実にお別れだろうとサシャは思った。
 頭では無理と分かっているが、本当は別れたくない、ずっと一緒にいたい。
 実のところ、サシャはお礼をするとかしないとか言っている間はアルバと頻繁に会えるんじゃないかと期待していた。

(でも、これじゃどう見てもオレは邪魔者だ)
 これ以上アルバを困らせたくないのに、モヤモヤと嫌な気持ちが胸の奥からせり上がってきて、サシャはここに居たくないと思った。

「サシャ、どうした? また気分が悪いのか?」
 アルバはそんなサシャの異変に直ぐに気が付いた。
「あら、大変。 横になって。
 今、診察を」
 聖女もサシャに気を使ってくれる。

 美しい人は心も美しいのだ。
 この人を差し置いて、少しでも自分を見て欲しいなんて思ったのが馬鹿らしく思えた。
「いえ、あの……お手洗いに」
 この場から離れて平常心に戻りたくて、サシャは口から出まかせを言った。
「お手洗いね。
 ここを出て、突き当りを左に二回曲がったところよ」
 場所を教えてもらうと、サシャは速足でそちらへ向かう。

 でも、いつも付いてくるはずのアルバがいない事に気付いて、左に二回曲がらず突き当りから来た道を戻って大聖堂のホールへ出た。
 そのままたくさんの参拝者がいるホールを抜けて、サシャは出ていく人達に紛れて表へ出た。
 とにかく外の空気が吸いたかった。

(オレ、バカみたい)
 サシャはアルバが付いて来てくれなかった事にショックを受けて、大聖堂の前の階段に蹲ってしまった。
 そして自分と同じくらいの年の男女が肩を寄せ合っているのを見て羨ましいと思う。
 ふと、自分がアルバと肩を寄せ合っているのを想像してしまった。

 サキュバスに淫紋を描かれなかったら、あそこに偶々アルバが現れなかったら、きっと二人が出会う事は無かっただろう。
 自分とアルバでは釣り合わなすぎる。
(優しくしてもらって、好かれてるんじゃないかって、ちょっと調子に乗っていた。
 男同士だし、あれは応急処置だし。)

 でも、気付いてしまった。
 サシャは自分がアルバが好きな事を。
 友情ではなくて、恋愛の、それも肉欲を伴っての好きだ。
(オレって最低)

 そうしてどのくらい経っただろうか。
 影が差して、いつの間にか隣に見知らぬ男が腰掛けているのに気付いた。

 その男からふわりと何かの花の匂いがしたと思った瞬間、サシャの記憶が途切れたのだった。


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