15 / 34
夢
――ここはどこかな?
ぼんやりした頭で辺りを見回すと真っ暗だった。
ガタガタと揺れている。
ここは馬車の中だろうか?
暫くすると誰かがやって来て、またあの花のような匂いがした。
そして再びサシャの意識は深く沈んだ。
――次に気が付くと人が大勢で騒がしくしている場所だった。
身体の下が固いのは多分石だ。
「……が、……とちがう」
「そう……だから……」
転がされた位置からは足が二人分見えていて、その二人が言い合っているのは分かったが、何を言っているのかまではよく理解できなかった。
けれど、服を剥かれて下腹部を見られたのは分かった。
抵抗しようとしたけれど、身体が動かず、また意識が闇に中へ沈んでいった。
……
……
……あんたってば、なかなか優秀じゃない♪
すぐに男にヤラれて死んじゃうかと思ったのに、良く生き残ったよねぇ。
ホント、人間にして置くの勿体無い。
竜族の精気なんて初めて吸ったしぃ。
竜族をタラシ込むなんて見込みあるね♡
このまま淫夢の仲間になっちゃいなよ♡
(うう、やだ…… そんなの知らなかったよ。
アルバは僕の為にあんな事をしてくれているのに、それがサキュバスの為になってるなんて知ったら怒るかもしれない。
本当に嫌われてどこかにいっちゃうかも。
そんなの嫌だよ、オレはアルバを誑してなんかいない!)
夢に現れたのは、あの日サシャの腹に淫紋を描いていったサキュバスたちだった。
どうやらアルバがサシャの中に放った精は、淫紋の効力によってこのサキュバスたちの糧になっているらしい。
以前、こうやって他人の夢に侵入して、その人物に干渉すると言うのは淫夢族の特殊能力だとアルバに教わった。
魔力が高い竜族の夢にはさすがに入れない様だが。
むしろこうやって夢を介して性的な事をして放たれた精気を吸うのが普通らしく、サシャのように実体に出会うことは稀なのだそう。
あの時は運が悪かったのだ。
早く目覚めたいのに身体が言う事をきかなかった。
サキュバスは散々サシャをからかったり、罵倒したりしてから、自身の支配下にいる者から精気を搾り取っても糧にならないからと言ってやっと解放してくれた。
最悪な気分で夢から覚めたサシャはせめてアルバに触れて慰められたくて、温もりを求めて隣に手を延ばした。
だが、そこには誰もいない。
さらさらの冷たいシーツを握って、サシャは飛び起きた。
「……ここ、どこ?」
目覚めて最初に目に入ったのは、薄いレースのカーテンだった。
それから美しい夜空の星座が描かれた、天蓋の内側。
今まで使った事のない、ふかふかな掛布団に柔らかなベッド。
しかも、自分は光沢のある絹で織られた布を使った夜着を着ている。
何処にいるのか分からなくてパニックになったサシャは、慌ててレースのカーテンを捲って外を見たが、とたんに息を飲んだ。
見えたのは見たこともないくらい豪奢な調度品が飾られた広い部屋だったのだ。
青ざめて泣きそうになっていると「お目覚めですか、おはようございます」と、見ているのと反対側から声を掛けられる。
「ひゃあ!」
びっくりしてそちらを向くと、侍従の制服らしいものをきっちりと着こなした、灰色の髪の地味な男が立っていた。
感情の読めないブルーグレーの瞳がサシャから視線を外さない。
「私はこの家のご子息、ヴェルナー様に仕えるバルドゥルと申します。
只今、ヴェルナー様をお連れしますので少々お待ちください」
そう言うと、バルドゥルはローテーブルにお茶の用意をしてどこかへ行ってしまった。
「なんだ、せっかく奴隷商人から救ってやったと言うのに随分な態度じゃないか?」
すぐに現れたヴェルナーと言う男は白銀の髪に深い青の瞳、痩身で背の高い、身なりの良い男だった。
立派な身なりで優雅にお茶を飲む姿は誰もが見惚れる美青年だが、どこか胡散臭さがあって信用ならない。
サシャは終始睨みつけていた。
彼によると、奴隷商人に攫われたサシャが、知らないうちにオークションに掛けられそうになっている所に偶々居合わせて先に買って助けてくれたのだそう。
どうやらサシャが街中で発情した時に淫紋の輝きを奴隷商人にしっかり見られてしまい、それが珍しいと付け狙われていたらしい。
最後に嗅いだ匂いを思い出し、きっと大聖堂で一人になったところで薬品を嗅がせ気絶させられて攫われたのだろうとサシャは思った。
「それで何が目的なんですか? やっぱり、このまま帰してもらえないですよね。
ええと、オレやっぱり奴隷……とかになるんですか?」
「ふふ、そうだね。
奴隷はこの国では禁止されているから、君の事はちゃんと扱うよ」
(奴隷が禁止されている……と言う事はまだエアトベーレンの国内なのかな?)
サシャは国内ならばアルバが助けに来てくれるかもしれないと、淡い期待を持った。
そんな事を考えているのに気付いたのか、ヴェルナーはお茶のカップをローテーブルに置くと、今だにベッドの端に座っているサシャへずいっと近付いた。
「ところで君、妊娠できるって本当なの?」
長い指でサシャの下腹部を指し示す。
「ここの魔方陣を調べさせてもらったんだけれど、これは発情と受胎って描いてあるんだろう?」
「……」
余計な事を知られたくないのでサシャは黙っている事にする。
そんなサシャをじーっと観察していたヴェルナーが、とんでもない事を言った。
「うん、君は可愛いね。
君なら僕でも抱けるかもね」
「はぁ?」
ヴェルナーは含みのある笑みを浮かべた。
あなたにおすすめの小説
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
世間に秘された名門男子校・平坂学園体育科
空手の名選手であった高尾雄一は、新任教師として赴任する
高潔な人格と鋼のように鍛えられた肉体
それは、学園にとって最高の生贄の候補に他ならなかった
至高の筋肉を持つ、精神を削られ意志をなくした青年を太古の神に捧げるため、“水”、“風”、“土”の信奉者達が暗躍する
意志をなくし筋肉の操り人形と化した“デク”
消える教師
山奥の男子校で繰り広げられるダークファンタジー
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
人気アイドルの俺、なぜかメンバー全員に好かれてます
七瀬
BL
デビュー4年目の人気アイドルグループ「ECLIPSE(エクリプス)」に所属する芹沢 美澄(せりざわみすみ)は、昔からどこか抜けていてマイペースな性格。
歌もダンスも決して一番ではないはずなのに、なぜかファンからもメンバーからも目を離されない存在だった。
世話焼きな幼なじみ、明るく距離の近い同い年、しっかり者で面倒見のいい年上、掴みどころのない自由人、そして無言で隣にいるリーダー——。
気づけば、美澄の周りにはいつも誰かがいて、当たり前のように甘やかされていく。
悪役令息の七日間
リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。
気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。