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提案
「男なのに本当に妊娠できるのかな?
折角だから試してみようか」
男はククッと喉で笑いながら、指先でサシャの薄い腹を撫でた。
「やっ!」
サシャが反射的に足を振り上げたが避けられてしまう。
「ねぇ、バルド。
この子と子供が作れたら、僕はもう誰にも何も言われなくなるかな。
あの香水臭い女達と二度と会わなくて良くなると思う?」
「……」
ヴェルナーの問いにバルドゥルは無言で睨み返した。
「僕はね、ちょっと色々あって女性がが苦手でね。
それでもこの歳になると回りが煩くて困ってたんだよ。
本当は僕が子供を産めたら良かったんだけどね、僕はこう見えても男なんだよ」
(いや、どう見ても男なんですけど……)
サシャが混乱していると、ヴェルナーは窓際に立ち遠くを見た。
「僕には愛する人がちゃんといるから愛はあげられないけれど、僕の子供を産んでくれたら他の願いは何でも叶えてあげるよ。
子供もちゃんと可愛がってあげる」
本心なのだろう、振り向いたヴェルナーは初めて自然な笑みを浮かべた。
だが、いくら頼まれても無理なものは無理であると、サシャは首を横に振る。
アルバ以外とそういう事をするなら死んだ方がマシだと思う。
早くアルバに会いたくなった。
「助けて頂いてありがとうございました。
オレ、何とかしてお金を返しますから、一旦帰らせてください」
サシャは床に降りて頭を下げる。
「どこに? 君、どこか地方の出身でしょ?
5000万ドーブなんて返せる?」
「ご、5000万……」
サシャは思わず言葉を失ってしまった。
5000万ドーブもあれば、リーズ村なら家畜も畑も家も持てて、一生そこそこの生活ができるんじゃないだろうか?
アルバにも貸りがあるし、そんな大金返せる気がしない。
「流石に奴隷になれとは言わないよ。
僕と契約してくれれば全部無しにしてあげるって事」
最初からそれが目的だったのだろう。
絶対に逃してもらえない雰囲気にサシャは焦った。
ちらっと暖炉の上の暦を見る。
暦は日めくりだったので、間違いでなければ大聖堂から攫われて、もう3日は経っている。
アルバのいない今、発情してしまったらどうなってしまうだろうか。
本当に妊娠できるならまだ良いが、この二人を巻き込んで、最悪死ぬまで回されてしまうんじゃないかとサシャは焦った。
これは、もう二度とアルバに会えないんじゃないか……と思ったら涙が溢れてきた。
「ああ、泣かせてしまった」
とヴェルナーが言うと、バルドゥルがハンカチを差し出してくる。
「大丈夫、君の事は公に公表したりしないから。
僕も上になるのは初めてだけど、優しくするって約束するよ。
バルドも手伝ってくれるし、三人で仲良くしよう」
「?? そうではなくて」
良く分からなかったが、ヴェルナーは間違いなく怖い事を言っている。
二人に囲まれてそっと手を取られたが、サシャは勢いよく手を引っ込めた。
「アルバに、アルバに会わせて。
きっとオレの事を探してる」
「アルバ?」
「そう、オレは、アルバじゃないと嫌なんだよ」
ボロボロと涙を流しながらサシャは訴える。
「お願い。 アルバに会いたい~~~」
サシャが声を上げて、子供の様に泣き始めると、ヴェルナーもバルドゥルも困ってしまっていた。
二人して子供にするようにお菓子を勧めてきたり、頭を撫でてくれたり、本当は悪い人じゃないのかもしれないとサシャは思う。
でも、受け入れられないものは受け入れられないのだ。
二人に機嫌を取られながらぐずぐずしていると、下の階が騒がしくなってきた。
「なあんだ。 もう見つかってしまったのか」
「見て参ります」
素早くバルドゥルが部屋を出て行った。
と、ほぼ同時に「サシャ!」と言う声が聞こえた。
「アルバだ! アルバ!」
サシャが叫ぶと勢いよくドアが開き、バルドゥルを押しのけてアルバが入って来た。
そして走ってサシャに近付いて来て抱き上げる。
「これはこれは、竜族とは珍しい」
ヴェルナーは再び貼り付けたような笑みに戻った。
「お前か、サシャを誘拐したのは」
「誘拐なんて、物騒な」
ヴェルナーは椅子に座り直すと、自分でお茶を注いで飲み始めた。
「この人、オレを奴隷商人から買って助けてくれたって」
「……調べたが、サシャを連れ出した者は奴隷商人と繋がりはあったが今回は別の依頼だったそうだ。
貴族絡みだとか言って、その者の口を割らせるのには少々苦労したぞ」
アルバは口元を歪めたが、その目は怒りの色に色付いていた。
「とにかく、お前だって奴隷商人に関わったと知られたら只じゃ済まないだろう。
サシャは返してもらう」
「……仕方ないな、バルド」
「はい」
バルドゥルに先導されて、サシャはアルバに抱えられたまま何事もなく家から出る事が出来た。
去り際、アルバはバルドゥルから「そんなに大切ならちゃんと守ってやりなさい」と逆に説教されていた。
帰りはアルバの上着に巻かれてに抱きかかえられたまま宿まで帰った。
かなり注目を集めていたがサシャはそれも子細な事に感じられる。
とにかくアルバに再び会えて嬉しかった。
久しぶりにアルバの胸に顔を埋めて、サシャはここが一番好きだと思った。
後から聞いたところによるとヴェルナーはこの国に古くからある伯爵家、ルベルク家の息子で、その当主は現在の宰相でもあると言う。
しかも信じられない事にヴェルナーは頭脳明晰、品行方正な人物として有名なのだそうだ。
彼ならいずれは父のように国の要職に就けるのではとの、もっぱらの評判であった。
サシャは相手が名のある貴族だったことを知って、逆に不敬罪で処分されるのではと少し焦ったが、その後に罪に問われることはなかった。
もしサシャを罪に問うて裁判にでもなると、自分が奴隷商人と関りがあったと知られてしまう可能性があるからだろうとアルバも言っていた。
結局は権力に物を言わせて握りつぶされるのだろうが、スキャンダルは無いに越した事はない。
サシャもアルバも二度と会いたくはない人物だったが、この後、彼らとは長い付き合いになるのである。
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