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診察
「うーん、なんとか解析はできたけれど、解呪はできないわね。
サキュバス二人分の術と魔力が複雑に絡まっていて、下手に何かするとおかしくなっちゃうかも。
これは自然に任せた方が良いと言うのが私たちの見解よ」
連れ戻されたサシャは、再び大聖堂へ連れて来られていた。
あれからアルバはサシャに付いて回って「何もされなくて良かった」「発情しなくて良かった」と言って、ひと時も傍を離れようとしない。
傍から見てもアルバの様子はおかしかったが、サシャを見る目が恐ろしく暗く光っていて誰も何も言えなかった。
今も医務室の診察台に横たわるサシャの横で手を取って、心配そうにしている。
(それにしても、皆で下腹部を凝視してきて恥ずかしいんだけど……)
サシャの回りにアルバ、コーディアルの他にも、古代文字の研究家や魔法陣を研究している魔術師、生物学者に産婦人科の医者、助産師が取り囲んでいた。
皆、コーディが厳選した専門家だ。
コーディは聖女なのに、自分の聖力だけに頼らず、専門知識を持つ者の意見を大事にするところがとても尊敬できるなぁとサシャは思った。
しかし、ギリギリ見えない所までズボンを下げられて、代わる代わる腹部を診察されるのは恥ずかしい。
主に妊婦に使う胎内を透視できる魔道具とかもあって、それはそれで興味深かったが、使われている対象が自分なので微妙な感じがした。
魔術師と産婦人科の医者によると、もしもサシャが妊娠して魔法陣が消えても、変化したサシャの身体は元には戻らず、子宮は残ると言う。
それでも、発情する事が無くなるならばそれでも良いとサシャは思った。
生物学者は、この淫紋が発する呪いはどの種族にも有効だと言う。
特に魔力が少なく淫紋の影響を受けやすい、番のいない獣人と、番と言う概念がない人間族には気を付けろと言われた。
古代文字の研究家は「面白い研究材料が来た」と言って、来て直ぐにせっせと淫紋を模写し始める。
助産師の老婆には触診したいと言われたが、アルバがきっぱり断っていた。
(うーん、困ったな。 大事になって来た)
ワイワイと意見の交換をする専門家たちを見て、サシャはこれ以上他人に知られたくないと頭を抱える。
ここにいる人は聖女によって他言できないように契約はされているらしいが、もう奴隷商人やヴェルナーとバルドには知られているので隠し様もないのだが。
診察が終わり、アルバに手伝ってもらって服を直していると助産師がやってきて、30年くらい前にも淫魔の呪いで妊娠できるようになった男性がいたと教えてくれた。
その男性に発情は無かったのだが、想い合った獣人の男性の子供を出産をしたそうで、今でも健康に暮らしていると言う。
出産もその助産師が立ち会ったそうで、全ての経過は普通の女性と変わらなかったそう。
だからサシャも心配するなと助産師は言った。
そうは言われても不安は付きものだ。
生物学者は種族間の事情にも詳しくて「竜族は上位種だから自然と人口が増えないようになっていて、竜族と暮らしていても君が妊娠する確率は低いよ」と言われたばかりだ。
別にアルバとの子供が欲しい訳じゃないけれど、このまま妊娠しなくてもアルバは自分といてくれるのだろうか?
『番』と言うものを探さなくてはいけないアルバを、いつまでも自分の都合に突き合わせるのも心が痛む。
(本当はアルバ以外なんて死んでも嫌だけれど、アルバの為にも妊娠する確率の高い人族か獣人の伴侶を見つけた方がいいのかも)
宿に戻ってから、そんな様な事をポロっと言ったら、アルバは激しく動揺してしまった。
ガタン! と大きな音を立てて座っていた丸椅子ををひっくり返し、アルバが立ち上がる。
「サシャ……」
言葉が詰まってしまって、片手で顔半分覆って黙ってしまった。
分かり辛かったが、色の濃い肌が高揚しているのにサシャは気付いた。
「……俺は別に『番』なんて欲しくない。
お前といるほうが良い!」
やっと話し出したかと思ったら珍しくアルバが叫んだので、サシャは一瞬あっけに取られた。
「サシャ。俺はお前といたい。
できるだけお前といたいんだ」
アルバはサシャの足元に跪いて左手を取ると、懇願するように自分の額へ押し付けた。
「お前が俺の『番』じゃないのか?
他の男の方が良いのか?」
アルバの中ではサシャの相手は男と決まっているらしい。
サシャは何とも微妙な気分になる。
「オレもアルバの『番』だったらいいなって思った事はあったよ。
でもね、サキュバスの呪いが解けてでアルバが正気に戻っちゃって、オレを何とも思わなくなっちゃったら……」
「そんな事は無い」
「でも、オレは男なんだよ。
アルバだって本当は女の人の方がいいんじゃないかって思っちゃうんだ。
だって竜族の『番』って女の人なんでしょ?
連れて帰らないといけないんでしょ?」
「……俺は女とか男とかじゃなくてサシャが良いんだ。
サシャと居られるなら、俺はこのまま里に帰らなくても構わない」
アルバは返事が欲しくてじっとサシャに目線を合わせ見詰めている。
「ダメだよ。里でアルバのご両親が待っているんじゃないの?
きっと待ってるよ、村でのオレみたいに」
「サシャ……」
「それに全部アルバに頼っているのは申し訳なくてさ、そのうち自分が嫌いになっちゃいそうなんだよ」
「っ……」
アルバは泣きそに顔を歪めふらふらと立ち上がると、黙って部屋を出て行ってしまった。
それからの二人は必要以上に話す事もなく過ごした。
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