オレと竜族の事情~淫紋ってどうやって消すんですか?~

ume-gummy

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新居

 
 次の日、サシャとヴェルナー、バルドゥルはアルバに連れられて長老宅に出向いた。

 長老と言う人は長い白髪に細い尻尾と鹿のような角が特徴的な、どちらかというと人族に近い風貌だった。
 長老と言ってもせいぜい40代くらいにしか見えないなとサシャは思う。
 そう言えば、サシャの父は爬虫類っぽいので良く分からないが、母も随分若く見えたな、とサシャが考えていると、突然低い声が思考を遮った。

「で、アルバ、その男がお前の『番』か!?」
「はい、俺はサシャ以外は考えられません」
 目を上げると、長老より大きな体のアルバが向かいに座る長老に気圧されて縮こまっている。
 それがちょっと可愛いなんて、アルバには絶対に言えない。

「男では子供が持てないであろう? 竜族が絶滅してしまう!」
「しかし俺はサシャを選んだのです。
 分かるでしょう? 死に別れない以上、竜族は『番』を変えたりしないのは」「死んでも変えたりせんわ!」
「ならば尚更です!」
 サシャは慌てて、興奮し始めたアルバを宥めるように前に出た。
「あ、あの。 オレ実は……」
「サシャ」
 サシャは自分に淫紋が描かれている事、そのおかげで子供が持てるかもしれない事を長老に話そうと思ったが、それを察したアルバに止められてしまった。

「サシャ、と言ったな。
 お前は本当に良いのか?
 我らに『捕まった』ら二度と逃げられないのだぞ?」
「……はい」
「その言葉、忘れるでないぞ。
 人族と言うのは只でも気が変わりやすい。
 他の者に迷惑を掛けたら直ぐに追い出すからな」

 そう言うと、長老は勢いよく椅子から立ち上がった。が、勢いでよろけてしまう。
 そこへヴェルナーがサッと近付いて、優雅に手を取って支えた。
「長老様、実は私もあの男の『番』なのですよ」
 と、バルドゥルに目をやる。
「人族にそんな考えはないだろうよ」
「いいえ。 今は貴方たちに感化されてそのように考える者は大勢おります。
『番』とは魂の結び付きであり、性別も種族など関係が無い……素晴らしい考えです。
 どうか、貴方には私たちを信用して見守って頂きたい」

 相変わらずの読めない笑顔で語るヴェルナーに長老は目を瞬かせたが、直ぐに一人で立ち上がり面倒そうに口を開いた。
「しかし、よく見ると、あっちの男は獣人の血が入っているな」
「本当に少しですがね、ほぼ人族です」
「とにかく、面倒事は御免だぞ」
 そう言うと長老は渋々と奥から鍵を二つ持ってきて、鍵にに記されている場所の空き家を使って良いと言った。



 早速、四人は預かった鍵を手に空き家へ向かった。
「さっきのヴェルナーさん、すっごく胡散臭かった」
 道すがら、おもむろにサシャが口を開いた。
「そうか? ご老人には受けが良いんだぞ」
「そういうところです。
 あんな事ばかりして独り者の竜族に目を付けられたらどうするのですか?」
 珍しくバルドゥルが口を開いたので、サシャもアルバも驚いた。
「やきもちか?」
「そうかもしれません」
 それを聞いたヴェルナーは一瞬驚いた様だが、直ぐにいつもバルドゥルに向ける皮肉っぽい笑みを浮かべて「善処する」と言った。

「それにしても、バルドゥルさんが獣人だなんて気付かなかった。
 だから気配無く動けるんだね」
 と、サシャは感慨深げに言った。


 四人が紹介された家は両方ともアルバの実家と同じ村の西側にあった。
 どちらも同じ様な造りで、かなり長い間使われていなかったらしく荒れて埃が溜まっている。
 多少離れてはいたが、一応隣同士だったので、取り合えず片方を掃除して共同で使おうと言う事になった。
 いつまでもアルバの家に世話になっている訳にはいかないと言うのが4人の共通認識だ。

 直ぐに掃除に取り掛かり、昼を過ぎた頃、昨日の銅色の角を持つ竜族――名はカールと言うそうだ。が、訪ねてきた。

「ここが新居かぁ。
 村の入り口にも割と近いし、良い場所だね」
「ああ」
「でね、これお祝い」
 そう言うと、連れていた家畜の群れの中から茶色の小柄なヤギを抱き上げる。

「可愛いでしょ、可愛がってね」
「うわぁ、本当に可愛い、嬉しい!」
 アルバの隣にいたサシャはヤギを受け取ると頬ずりした。
「オレ、ヤギと牛とかか飼うのが夢だったんだ」
「そうか、カールありがとう」
「ありがとう!」
 サシャは直ぐにヤギを連れて、家の外で昼食を取っているヴェルナーとバルドゥルに見せに行ったのをアルバとカールは微笑ましく見守る。


「悪いな、気を使わせて」
「いいんだよ。
 友達がやっと見つけた子だもの、何かしたかったんだ」
 竜族にしては他人に寛容なカールはそう言ったものの、最後に「うちの奥さんには誰も会わせられないからね」と竜族らしい執着心を見せて帰って行った。


 その後、子ヤギにどんな名前を付けるかでサシャとヴェルナーが揉めていたが、ヴェルナーの『エルランド・マルゴー2世』と言う、昔の英雄にちなんだ名前は無事に却下されて、サシャがその名前から取ったエルと言う可愛らしい名前になった。
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