オレと竜族の事情~淫紋ってどうやって消すんですか?~

ume-gummy

文字の大きさ
30 / 34

バルドゥル

 
 二つの家は冬が来る前に整える事が出来た。
 今はアルバとサシャ、ヴェルナーとバルドゥルに分かれて暮らしている。
 ヤギのエルは「卑猥な大人の姿を見せたくない」と言うヴェルナーの言葉で、ヴェルナーの方で預かられる事になった。

 里の冬は本当に厳しかった。
 一番大変なのは、雪が多いために雪下ろしをしなくてはならない事だ。
 リリアやヴェルナーの様に多少なりとも火系の魔法が使えれば楽に雪が溶かせるが、そうでない者は人力だ。
 アルバは力があるし慣れているから疲れを見せないが(むしろ身体が動かせて丁度良いと思っている)、降雪量が少ない場所が出身の華奢なサシャにはきつい。
 余りのきつさに、来年の冬は麓の村に降りようと思っていた頃だった。

「そうだ、魔石!」
 先日、アルバのマジックバックの中身を整理した時に、以前サシャが預けた屑魔石の袋があった。
 サシャは何度もそれを売って欲しいと言ったのに、アルバが「サシャから貰ったものは売れない」と言って隠していたのだ。
 サシャはその袋の中から火属性のものと水属性のものを組み合わせて付近に設置し、温水で雪が溶けるようにした。


「たまには雪を溶かしてやろうかと思って来たが……」
 サシャとアルバがポタポタ溶けていく雪を眺めていると、洒落た防寒着に身を包んだヴェルナーがバルドゥルを従えてやって来た。
「温水を使っているんだ。
 あんまりたくさん降ったり、気温が下がりすぎると効果が無いかもしれないけれどね」
「これは魔石を使っているのか?」
「そうだよ」
 サシャがふんぞり返って「オレは少しだけ魔石の鑑定が出来るんだよ」と言うと、バルドゥルが「頼みがある」と言ってきた。


 バルドゥルに家へ招かれたサシャは、出された暖かい飲み物を飲んで一息ついた。
 何故かアルバの膝に座らされているが、いつもの事なので誰も何も言わない。
 暫くするとバルドゥルが小さな袋をいくつも持って現れた。
 サシャが許可をもらって開けてみると、中から出てきたのは直径3~5センチ程の球状の魔石だった。
 中には少し欠けたものもある。

「これは私が暗部に所属していた頃の仲間です」
 バルドゥルはそれらを愛おしそうに撫でた。


 *****


 バルドゥルはヴェルナーに出会う前、暗部に所属する暗殺者だった。
 その頃の呼び名はB-02号。

 日々訓練に明け暮れ、依頼があればそれを遂行する毎日。
 何人も人を殺し、仲間が殺されて行く日々は、彼の心を殺していった。

 バルドゥルが所属していた暗部は当時の宰相の元にあり、その宰相は大変強欲な人物であった。
 不正と横領、果てには他国へ情報を流すなどして財産を作った事が公になり、失脚は目前だった。
 そんな彼の次代の宰相として名前が挙げられたのがヴェルナーの父、ルベルク伯爵だ。

 当時の宰相は自分の不正を暴き、糾弾するルベルク伯爵を暗殺するようにと暗部に命を出した。
 しかし、ルベルク家にはヴェルナーがいた。
 まだ少年のくせに頭が切れ、剣も魔法も使える彼は、送られてくる暗殺者を次々に倒してしまったのだ。

 *****

「そういう訳で最後に残ったのが私でした。
 この魔石はその時にヴェルナー様に倒された仲間です」
「え? ちょっと待って。
 何でバルドゥルはヴェルナーと一緒にいるの?」
 サシャは二人の関係が結びつかなくて混乱した。

「こいつが僕に惚れたのさ、なぁ?」
「……そういう事にしておきましょうか」
「分かんないなぁ」
 混乱するサシャを他所に、相変わらずの無表情なバルドゥルをヴェルナーはニヤニヤしながら見ていた。

「それで、これを鑑定したらいいんだね。
 オレ、魔物以外の魔石は鑑定するの初めてだから上手くいくか分かんないよ」
「そんなに簡単に壊れるものではないですから、取り合えず見てください」
 そうは言っても、いくつかは既に欠けている。
 サシャはその中の一つを恐る恐る摘まみ上げた。
 最初に手に取ったのは湖の色のような深い青の魔石。
 サシャは集中して魔石の情報を読み取った。
 それは読み取るというより、頭に流れ込んできた情報の分かる部分を書き出すと言った方が良いかもしれない。
 魔物のものよりも難しく意味の分からない情報も多く、サシャは勉強が足りない事を痛感する。

「ん、取り合えず分かったのは、この魔石の持ち主は獣人の女性らしいと言う事。
 もしかしたら心が女性と言う事かもしれないけれど、そこは分かんないや。
 年齢は19歳、物理防御のスキルを持ってる。
 この魔石の色は、この人の目の色かな」
「多分、ジーナですね」
 バルドゥルは魔石が入っていた小さい袋に”ジーナ”と書いて、その魔石をしまった。

 だが、その日は三つ鑑定をしたところでサシャはとても疲れてしまい、心配したアルバに抱えられて家に帰る事になってしまった。



「バルド」
 サシャとアルバが帰ってしまった後、ぼんやりとしているバルドゥルにヴェルナーがそっと声を掛ける。
 すると、何も写していなかった灰色の瞳に光が戻り、ヴェルナーの方を見た。
「何でしょうか」
「仲間が恋しいのか?」
「いいえ。 ただ、誰かも分からずに埋葬されるのも可哀そうだと思って。
 皆、好きでこの仕事に就いていた訳ではないですから、せめて最後くらいはちゃんとしてあげたい」
 ヴェルナーは外にサシャとアルバが見えなくなるとカーテンを引いて、暗くなった室内に魔法で小さな明かりを灯した。

「……その、あの頃はすまなかった」
「何をおっしゃいますか!?
 私が今、こうして生きていられるのは貴方のおかげなのですよ?
 それに貴方を初めて見た時、私は昔いた孤児院で読んだ絵本に描かれていた神様だと思いました」
「ああ、それで”バルドゥル”と?」
「ええ、バルドゥルは光の神です。
 光り輝く美貌と白い睫毛を持っているそうです。
 私には貴方がそれに見えたのです」
「ふふ、それがお前の名だと勘違いしてしまうなんてな」
「良いのです、貴方にもらった大切な名前です」
 バルドゥルはヴェルナーに近付くと頬に柔らかく触れ、その白銀の睫毛に口付けた。


 あの時、ヴェルナーを見たバルドゥルは、跪いて投降した。
 そして、いかようにも自分を罰して欲しいと言ったが、ヴェルナーは彼が自分を決して裏切らない下僕となる事で許してしまった。
 その後、直ぐに前の宰相が捕まり、もう誰も残っていなかった暗部はそのまま無くなり、バルドゥルは正式にヴェルナーの侍従の座に納まったのだ。
 それからは誠心誠意、ヴェルナーに仕え続けている。

 しかし本心はそれだけではない。
 バルドゥルはヴェルナーを神だと崇めながら、手に入れたいとも思っていた。
 聡いヴェルナーはそれを分かっていて、バルドゥルを煽るために色々な事をしてくる。
 ヴェルナーだってバルドゥルを特別に想っているのだ。


 かつて、二人の関係を父に知られたヴェルナーはバルドゥルの身の安全を盾に、汚い仕事を押し付けられていた。
 今、思えば何故あんなに父を恐れていたのだろうと思う。
 20年も経てば父だって年老いて、大人になった自分が本気を出せばいくらだって離れる事が出来たのに。
 いや、アルバとサシャに出会わなかったら、今だにその事に気付けないでいたかもしれない。


 二人は時々、今が幸せすぎて怖くなった。


感想 0

あなたにおすすめの小説

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
世間に秘された名門男子校・平坂学園体育科 空手の名選手であった高尾雄一は、新任教師として赴任する 高潔な人格と鋼のように鍛えられた肉体 それは、学園にとって最高の生贄の候補に他ならなかった 至高の筋肉を持つ、精神を削られ意志をなくした青年を太古の神に捧げるため、“水”、“風”、“土”の信奉者達が暗躍する 意志をなくし筋肉の操り人形と化した“デク” 消える教師 山奥の男子校で繰り広げられるダークファンタジー

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

人気アイドルの俺、なぜかメンバー全員に好かれてます

七瀬
BL
デビュー4年目の人気アイドルグループ「ECLIPSE(エクリプス)」に所属する芹沢 美澄(せりざわみすみ)は、昔からどこか抜けていてマイペースな性格。 歌もダンスも決して一番ではないはずなのに、なぜかファンからもメンバーからも目を離されない存在だった。 世話焼きな幼なじみ、明るく距離の近い同い年、しっかり者で面倒見のいい年上、掴みどころのない自由人、そして無言で隣にいるリーダー——。 気づけば、美澄の周りにはいつも誰かがいて、当たり前のように甘やかされていく。

魔王に飼われる勇者

たみしげ
BL
BLすけべ小説です。 敵の屋敷に攻め込んだ勇者が逆に捕まって淫紋を刻まれて飼われる話です。

悪役令息の七日間

リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。 気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

四年前も今日も、僕はいつも逃げる

ユーリ
BL
まさかこんな形で再会するとは思わなかったーー社内の授賞式を明日に控える果音の元に犯行声明文が届き、護衛として魔法省の人間が来たのだが、その人物は高校の卒業式で果音に告白してきた男で…?? 「四年前の告白の返事を聞かせろ」護衛に来た一途な攻×逃げてばかりの受「四年も前の話だよ?」ーー四年間って想像以上に長い年月。