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寝室を決めた
しおりを挟む「さて、寝室をどうするかについてだが……」
居間に四人が揃い、お兄様が腕を組んで私たちに話始めた。
夜も更け、全員が入浴を終えパジャマに着替えている。あとはもう寝て、嵐が収まるのを待つだけだ。
〝寝室〟という単語を聞いた瞬間、ネリーはそわそわしながら髪の毛を整えだした。パジャマのボタンは上から三番目まで開いており、お兄様にセクシーアピールをしているつもりなのだろう。……さすがに開けすぎな気がするが。
「父と母の寝室は開いているが、さすがに勝手に使用するのは気が引ける。よって俺の部屋にネリー。ミレイユはいつもと同じく自分の部屋だ。そして俺とエクトル王子は客間で大丈夫だろうか」
当然お兄様と一緒に寝るとばかり思っていたネリーは、別室になったことに不満をあらわにする。
「リアム様、私たちは婚約者です。寝室が同じでも何ら問題はありません。私、ひとりで寝るのは寂しいですわ」
「悪いけど、正式に結婚していない相手と同じベッドで寝ることに、俺が抵抗あるんだ」
「そ、そんな……っ」
ネリーの訴えを清々しいほど一蹴し、お兄様はエクトル様に寝室のことを確認する。
「エクトル王子、俺と相部屋になりますが、一晩だけですので我慢していただけますよね?」
「ああ。構わないよ」
「助かります。考えた結果、これが一番最善と思ったので」
お兄様にしてはまともな振り分けをしたと思う。
これでエクトル様が私の部屋、とか言われても(お兄様は絶対そんなことしないと思うが)、私は心の準備ができていないし……お兄様も同じ屋根の下にいることを考えると、絶対にお兄様のことが脳裏にちらつくだろう。
隣を見ると、ネリーがわかりやすく落胆している。婚約して間もない頃の自信に満ち溢れるネリーは、もう面影すら残っていない。
「明日にはこの嵐も落ち着くだろう。じゃあ、そろそろ寝ようか。エクトル王子、客間を案内します」
「ありがとうリアム。……ミレイユ、おやすみ」
去り際に、エクトル様は私の額に軽く音を立てキスをする。
「……おやすみなさい。エクトル様」
「うん。なんか、離れるのが名残惜しいな」
「ふふ。ちょっとの間だけですよ」
「そのちょっとすら惜しいんだよ。……今度は王宮に泊まりにおいで。そのときは君さえよければ、一緒に寝ようか」
「……か、考えておきます」
最近のエクトル様はお兄様に負けず劣らず、人目をはばからずにこうして私を甘やかし、可愛がってくれる。
私には贅沢すぎるほどの愛情をいっぱい与えてくれて、女としてこの上ない幸せを感じつつも――お兄様の前でされると、結局私はお兄様のことを気にしてしまう。
悪いのはお兄様だ。いきなり私を突き放したくせに、また私ばかりに構って来て。
あのままネリーと良好な関係を続けてくれてさえいれば、私は今頃お兄様のことを吹っ切れて、エクトル様のことだけを見ることができたのに。
でも、だからといってエクトル様と別れてお兄様一筋に戻ろうと、今は思わない。
お兄様の考えていることが私にはわからなすぎることばかりだし、なにより……つらいときに私を救ってくれたエクトル様にも、私は好意を抱きつつある。
前世からずっと大好きで、今も私を惑わし続けるお兄様。
恋愛対象として見たことはなかったけど、一途に私に愛を注いでくれるエクトル様。
――きっと最終的に私の心を制すのは、より愛が重い方だろう。
とは言っても、お兄様は執着や独占欲が人より強いだけでヤンデレ化してるとは言えないし、エクトル様はそもそも王道! って感じの優しい人でヤンデレからは程遠いし。この世界は、ちっとも私の萌え要素に対して優しくないから困ったものだ。
寝る前に自分の部屋のカーテンを開けると、未だに雨も風もやむ気配はない。
「雷、鳴らないといいなぁ……」
そんな独り言は、雨の音で容易くかき消される。
私は雷が苦手だ。前世で近くに雷が落ちたのを見てから、トラウマになっていた。
ベッドに潜り、布団の中で体を丸め、このまま何事もなく夜が明けることを願いながら眠りについた。
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