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スイハの砦

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 ――――――――――ロデリック第一王子視点。

 輜重隊に同行してポクポクと戦地に赴く。
 隣国ゲルガザが急に攻め入ってきたのだ。

「殿下、国内だからって気を抜いてちゃいけませんよ。輜重隊が襲われるのなんてよくあることなんですから」
「わかっている」

 ゲルガザが経済政策の失敗と内乱で危機的状況なのは知っていた。
 しかしまさか我が国に攻めてくるとは。

「国内の不満から民の目を逸らすために戦争に打って出たんでしょうね」
「狂人の発想だ」

 ゲルガザ王もセームイル遠征で得るものがなければ、国が持たないことは理解しているだろう。
 なりふり構わず来る。
 長期戦になれば物資に余裕のある我が国の勝ちだ。
 逆に平和が続いたセームイルは実戦経験のある者がほとんどいない。
 ゲルガザ軍は絶対に短期決戦に持ち込もうとするが……。

「トンデモ聖女がいい働きをしているそうじゃないですか」
「ほう、聖女ハリカ嫌いのウィルバーも認めるんだな」
「正当な働きを認めないほど自分は狭量じゃありませんよ」

 少々憮然とした表情のウィルバーがおかしい。
 聖女ハリカは回復魔法を期待されて従軍している。
 何でも自分から志願したらしい。
 会うのが楽しみだな。

「聖女がいることで前線の士気が上がっているそうじゃないか」
「そうですね……」
「ん? 問題でもあるのか?」
「殿下のところに入ってる報告はそれだけですか?」
「多くの捕虜を得ているとも書かれていたぞ」
「まあそうなんですが……」

 随分歯切れが悪いな。
 どうした?

「いえ、自分も騎士団の方でチラッと聞いただけなんですけどね」
「ああ、交代要員からの情報か」
「トンデモ聖女が捕虜を洗脳してるそうなんですよ」
「は?」

 洗脳?
 意味がわからない。

「その他にも……ああ、見えてきましたね」

 畑が広がる。
 戦争中の国境の砦には到底見えない、牧歌的な風景だな。

「スイハは砦だけ大きい、国境の寒村だと思っていた。ずいぶん大きい町なんだな」
「大きくないですよ」
「しかしこれだけ畑が広がっているじゃないか。農夫もかなりいるようだし」
「……おそらくですけど、あれ捕虜ですよ」
「は?」

 捕虜?
 野放しじゃないか。

「洗脳しているらしいですから」
「洗脳万能だな。聖女ってそういう能力を持つものなのか?」
「さあ? 自分は知りませんけれども」

 まあいい。
 聞けばわかるだろう。
 スイハの砦に入城だ。
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