普通の女子高生だと思っていたら、魔王の孫娘でした

桜井吏南

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1章 再び動き始めた運命の歯車

10.両親の夢

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 あたしの夢は魔族と人間が手を取り合える平和な世の中なんだよ。

 スピカが自分の夢を初めて俺に語ったのは、忘れもしないお互いの想いが通じ合った日。
 と言っても一線を越えたのはもうしばらくしてからで、その夜は一晩中丘で星を見ながらお互いの夢を語り明かしただけ。
 その時のスピカはいつも以上に綺麗で勇ましくますます惚れてしまい、そんな彼女の夢を俺も一緒に叶えたいと思った。
 そのためには俺自身今よりもっともっと強くなる。良心のすべてを亡くした魔王を倒し、スピカとともに誰もが笑って暮らせる世の中を作ろう。
 そう思っていたはずなのに俺は魔王を倒すまで多くの犠牲を出してしまい、誰もが笑って暮らせる世の中を作るどころか愛する妻も失った。俺が弱いから……。

 地球に戻ってきたのだって星歌が安全に伸び伸びと暮らすためと言っているが、本当は俺がこの先トゥーランで生きていくのが辛くて逃げてきただけ。
 地球だったら平穏に暮らせると思っていたはずが、二ヶ月前星歌は命を狙われ危うく失いかけた。
 星歌が魔王の力を使わなかったら、龍ノ介がいなかったら、俺はまた何も護れず自分の命さえも失っていただろう。自分の命はどうなっても良いのだが、星歌は俺に死んで欲しくないらしく、命を粗末にしたら駄目と言われる。そう言う所はスピカ似なんだろう。
 いくら強くなろうとしてトレーニングを続けても、手応えはまったく感じられず俺は弱いまま。
 外見だけが強く見えても、弱ければ何も意味がない。
 なのに今度はトゥーランに戻って来てしまい、星歌はあろうことか聖女だと言う。
 更に聖女の目的はスピカの夢でもあり、今は迷っているようだがきっと聖女になりたいと言うだろう。星歌もスピカと同じで、心優しい子だから……。
 そしたら俺は星歌の意志を尊重し星歌の盾と剣になる。弱くても誰も護れなかったとしても、星歌のことだけはなんとしても護り……本当に護れるのだろうか?
 
 


「おっさん、話があるんだがちょっといいか?」
「ああ、俺もつよしくんに確認したいことがあるんだ」

 取り敢えず明日王都に行って話を聞こうとなり、今日は一端お開きとなった。
 星歌と陽ちゃんで夕食の片付けをしてくれることになり、龍ノ介は水の補充と家に結界を張ってくれると言って外に出て行った。
 電気は太陽光発電システムがあるため、無駄遣いをしなければしばらくは大丈夫だろう。
 やることがなくなり暇になった俺はトレーニング室でトレーニングをしようと思い地下室に行こうとすると、なにやら思い耽っているつよしくんに話しかけられ俺もこの際ちゃんと聞いておきたいことがあったため頷き一緒にトレーニング室へと向かう。

 二ヶ月前つよしくんは稽古を付けて欲しいと土下座までされ、週一ペースで軽い稽古を付けている。
 龍ノ介から剣の才能がピカイチだと聞かされていたが、格闘の才能も飛び抜けていてスポンジのように教えるだけ吸収してしまう。本格的に稽古を付ければ、俺なんかすぐに追い越されてしまうだろう。龍ノ介ではないが産まれる世界を間違えたと思うほどの人材だ。
 だからもし星歌が聖女になると言った時、つよしくんも戦士になってくれたら百人引きだ。なにせつよしくんは星歌の想いの人。星歌の心もきっと護ってくれる。

 …………。

 だがそれはすべて俺の願望で、つよしくんの意見をすべて無視した物。
 聖女の戦士になるって言うことは、英雄と同じで心を殺すこと。
 世界のために様々物を失い最悪俺みたく心が砕け散る。
 それでも俺には星歌がいるから、すべてが無意味だったとは思わない。
 もし過去に戻ったとしても俺は迷わず同じ茨でしかない道を進む。
 つよしくんにはその覚悟があるのだろうか?
 もし何も知らないままただ面白そうだからと言うだけで、聖女の戦士を引き受けるのであれば俺とそれから龍ノ介は全力で止める。
 そしてこれは父親の立場として、星歌をどう思っているのか知りたい。




「おっさん、俺を立派な戦士に育てて欲しい」
「え?」
「師匠にも同じことを頼むつもりだ。今までの稽古は地球での稽古であって、この世界では通用しないんだろう?」

 トレーニング室に行きドアを閉めるなり、つよしくんは真剣な眼差しで俺を見つめそう頼み込む。
 太くんなりに聖女の戦士について真剣に考えた結果、俺達の本格的な稽古を付けてもらおうとした。

 それは戦士にならざるおえないと考えたから? 陽ちゃんと生き延びるために?
  いかにも太くんらしい結論だ。

 そんなつよしくんが格好いいと思え、星歌の見る目は確かだと思う。

「そうだな。でも安心しても良いんだ。龍ノ介に言えばすぐにでも地球へ戻れるよ」

 地球に戻れる選択肢があると、あらかじめ教えておく。

「だったら星歌もおっさんや師匠も全員で帰るんだよな?」
「それは星歌次第だよ。星歌が真剣な気持ちで聖女をやると言うならば、俺と龍ノ介は聖女を護る戦士になる」
「だったら俺も。星歌が大変な時に残して帰れるはずないだろう?」 

 それでも迷いのない澄んだ瞳のままつよしくんの意志は変わることがなかった。むしろさっきより意志が固い。

「ありがとう。でもこれは遊びじゃないんだ。場合によっては命を落とすことだってある。つよしくんは本当の命を掛けてまでこの世界を護りたい」
「世界なんてどうでも良い。俺は星歌を護りたいんだ。星歌にはどんな時でも笑顔でいて欲しいんだ」
「……つよしくんは星歌のこと好きなんだね?」

 厳しい現実を突きつけ、ようやくつよしくんの本音を聞くことが出来た。
 いくら恋愛ごとは初で鈍感だと龍ノ介から散々言われている俺でもこれには察しが付き、微笑ましくてこう言うのはそっと見守るべきなんだろうがついつよしくんを構ってしまう。
 するとたちまちつよしくんの顔に火が付き、頭上に湯気が登る。

 青春だな。

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