普通の女子高生だと思っていたら、魔王の孫娘でした

桜井吏南

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1章 再び動き始めた運命の歯車

12.陽と星歌

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「ねぇ星ちゃん、もし星ちゃんが聖女になるとしたら私はどうなるのかな?」
「あ、そうか。陽だけじゃなくってつよしは当然地球に帰りたいんだよね? ……巻き込んじゃってごめんね」

 こっちに飛ばされてからのある不安を星ちゃんに打ち明けたのは夕食の片づけの時のことで、聞いた瞬間星ちゃんの表情は暗くなり手を止め私を見つめ申し訳なさそうに謝られる。
 でもそれは私が思っているのと違っていたから、ちょっと呆気に取られてしまい逆にそう思わせて申し訳ない。

 星ちゃんだって巻き込まれた側なのに、なんでそう言うことを言うんだろうか?
 私なんかよりも星ちゃんの方がよほど文句があるはず。
  だってここは星ちゃんにとっては辛い場所で、二ヶ月前みたく命を狙われるかも知れない。
 黒崎くんみたいな人が星ちゃんを罵倒して、嫌な気持ちになるのは分かりきっている。
 それなのに星ちゃんはお母さんの意志を継ぎたいって思っているんだから、すごいとしか言いようがない。

「違うの。星ちゃんの力になれるのならなりたいけれど、剣の才能があるつよしと違って私には何もないから。足手まといにはなりたくはない」
「ありがとう陽。そう言ってくれるだけで嬉しい。私だって陽が傍にいてくれて話を聞いてくれるだけでも心強いけれど、現実問題ここに残るってことは危険が伴うもんね」

 慌てて誤解を解くとホッとする星ちゃんだけれど、やっぱり力がないのは問題で正論を言って険しい表情をする。

 あ、星ちゃんは私を必要としてくれてる。
 傍にいるだけでも良いんだ。

「チュピ、チュピピン」
「え、陽には占い師。魔術の才能があるって? は、陽とそれからつよしも聖女を護る戦士?」

 しかしすぐに不安は解決され星ちゃんはチョピちゃんの自信たっぷりな台詞に眉を細めるけれど、私にとってはすごく嬉しいことで思わずチョピちゃんを抱きしめる。

 私が占い師?
 確かに私は昔から勘が良くって、趣味のタロット占いはそれなりに当たると評判だった。だから占い師?
 しかも魔術の才能があるってことは、龍ノ介さんに足手まといにならない程度の攻撃・防御魔術を身につけたい。
 ……太のように弟子にしてくれるかな?
 もちろん一番の目的は星ちゃんの力になることだけれど、少しぐらいは自分のためにこのチャンスを生かしても良いよね?
 これを気にもっと龍ノ介さんに近づきたい。

「チョピちゃん、ありがとう」
「チュピ!!」
「……陽がそれでいいんなら、私はむしろ嬉しいから良いんだけど」

 必要以上に喜ぶ私を、星ちゃんは戸惑い頭をかく。

「じゃぁ早速龍ノ介さんに弟子入りしてくる。……星ちゃんも一緒に弟子入りしてくれる?」
「え、私も? 私はパパの許可をもらわないと駄目だか……そうも言ってられないか。出来る限り自分の身は自分で護りたい」

 嬉しい癖に一人で弟子入り志願をする勇気がなく星ちゃんに頼み込むと、一瞬断られ掛けるもすぐに考え直してくれ了解をもらう。

 どうやら後でおじさんには謝らないといけない見たいです。




「龍くん、私と陽に魔術を教えてくれる?」
「は、藪から棒になんだよ?」

 外から戻ってきてテーブルに広げてある何か絵が描いてある紙と睨めっこをしていて明らかにお取り込み中だろう龍ノ介さんに、星ちゃんは躊躇なくニコニコしながら声を掛ける。しかもいきなり本題に入るから龍ノ介さんは驚き星ちゃんに視線を合わせ首を傾げた。

 星ちゃんと龍ノ介さんの普通以上の関係が羨ましくて親友なのに少しだけ嫉妬していたけれど、それが親子の関係だって言われて以来本当に友達みたいな親子にしか見えなくなってしまった。
 おかげで今では二人の仲が微笑ましいと思えるだけで、羨ましいとは思っても嫉妬はしない。
 私が龍ノ介さんとなりたい関係は、恋人であって親子では絶対にない。
 
「あのね。チョピが陽は占い師で魔術の才能があるんだって。私もこれからはちゃんと自分の身は自分で護らないといけないと思ったからね」
「確かにそれは一理あるな。よし陽には教えるが、星歌はまず星夜に話を通さないと教えられない。黙ってやったら星夜泣くぞ」
「それはイヤ。だったら今すぐ相談してくるから、ちょっと待っててね」

 訳を話すと私の許可はすぐに下りるも、星ちゃんはやっぱりおじさんがネックで許可をもらうよう言われてしまう。
 いくらなんでもそれは少し大袈裟なんじゃと思うも、星ちゃんはまともに受け止め急いでリビングを飛び出して行く。
 
 大袈裟じゃないんだ。
 
 そう言えば前におじさん、龍ノ介さんに星ちゃんを取られると思っていて凹んでいたよね?
  そうじゃないって星ちゃんに言われて、元気になってたけれど今でもそう感じてるんだ。

「私が星ちゃんに龍ノ介さんに魔術を一緒に教えてもらおうって頼んだんです」
「そうなんだな。でも星夜だって今の状況を考えたら無闇に反対はしないよ。きっとあいつ自身少なからずそう思っているんだろうから、変な誤解を生む前に話し合いをさせたんだ」
「それなら良かったです。所でこれはなんですか?」

 どうやら何も問題はないらしく分かりきっている龍ノ介さんの言葉を信じ、私は前の席を座り机に広げた絵に興味を示す。
 よく見るとつよしが夢中になってやっているRPGのフィールドマップに似ていて余計に興味がわく。

 二人だけで何も話題がなく無言だったら緊張するけれど、話すネタがあれば案外平気に話すことが出来る。
 それは星ちゃんのおかげで龍ノ介さんとは十年近く前からの知り合いだから、私は緊張しないで話が出来るんだろうな?
 
「トゥーランのこの辺の地図だよ。オレ達は今ここにいる。 明日行くのはここ。聖都と呼ばれるブラッケン。車で行けば二時間も掛からないだろう?」
「そうなんですね? え、聖都……それって昔龍ノ介さんが住んでいた所ですよね?」
「お、良く覚えてたな。さすが陽」

 そんなに覚えているのが意外だったのか、龍ノ介さんは目を細めて微笑む。
 龍ノ介さんの言った言葉ならなんだって覚えている。

 それから私は星ちゃんが戻ってくるまでの間、トゥーランについていろいろと教えてもらった。

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