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2章 私が生まれた世界“トゥーラン”
31.防具屋の娘
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「おじちゃん達、ここがあたいの家だよ」
ミシェルに案内され訪れたのは、昔度々お世話になっていた店だった。龍ノ介はともかく俺のことを覚えていたらいろいろ面倒だと思うも、ここで辞めるとは言い出せずにドアノブに手を掛け押す。
俺が利用していた時は、恰幅の良く白髪が入った老人の亭主。そして看板娘は、俺達と同世代だろう亭主の孫娘は気立てが良く可愛らしい女性だった。多くの冒険者で彼女目当て店に訪れそれなりに繁盛していた記憶がある。
「いらっしゃ──ミシェル?」
「お母ちゃん、ただいま。お客を連れて来たよ」
店の中に入ると当時の看板娘の面影がある俺達と同世代だろう女性に出迎えられるも、ミシェルの母親で現状を驚き立ち尽くす。ミシェルは自慢げにそう言葉を返す。
驚かれる理由は俺と龍ノ介ではなく、おそらくミシェルが俺に肩車されているからだろう。
あの時の看板娘が今も同世代なはずがない上、面影があると言うだけで同一人物ではない。
……娘なのか?
「すみません。娘がご迷惑を掛けてたようで」
「いいえ。肩車ぐらいどうってことないですよ。お店を教えてくれたお駄賃です。な、ミシェル?」
「うん!!」
申し訳なさそうに謝る母親に俺は気にしてないと言いながら、ミシェルを地上に降ろし確認すると屈託のない笑顔で大きく頷き俺に抱きつく。えらく気に入られたようで、オレも嬉しくなる。
ミシェルは幼い頃の星歌にどこか似ているから、ますますほっておけないんだよな?
「なら、あなた達は冒険者なんですね。何をお探しでしょうか?」
「防御に特化したがっしり目のローブを見せて下さい」
「分かりました。それならちょうど仕立てたばかりの物があるので、少々お待ち下さい」
俺の要望に母親の顔はたちまち商売人の顔に変わり、そう言って急いで奥へとローブを取りに行く。
「なぁミシェル、お父さんはいるのか?」
「龍ノ介?」
「いないよ。お母ちゃんとおばあちゃんとおじいちゃんの四人暮らし」
今まで静かだった龍ノ介が意味深な問いを投げかけ、ミシェルは疑いを持たず即答。それを聞いた龍ノ介はすこぶる笑顔になり鼻歌を歌い出す。
ミシェルの母親が気に入ったらしい。
「龍ノ介ほどほどにしとけよ。これ以上子供達の信用を失いたくないだろう?」
「一人に絞れば、問題ないだろう?」
ため息交じりで現実見ろと警告をしたのだが、涼しげな顔でまるで分かっていない回答が返ってくるだけ。すでに脳内にはお花畑が咲いているのだろう。もうこの話題は辞めてまったく別の話題にした方が良い。
……確かに一人だったら問題は……ないのか?
「星歌と陽ちゃんにも防具は必要だよな?」
「そうだな。だとしたら……このポンチョがいいんじゃないか?」
思わず龍ノ介の考えを受け入れそうになりつつも話題を変えると、切り替えは相変わらず早く女性用コーナーに足を運び、薄桜色のデザインが可愛らしいポンチョを手に取る。俺と違いセンスが良く目利きであるため、装備やファッションは龍ノ介に頼りきっていた。
基本着らればなんでも良いと思っている俺にはセンスのかけらもなく、龍ノ介に言わせるとダサい格好らしい。それでも別に構わなかったが、星歌のためにこだわってみれば格好いい姿の俺を褒めてくれた。
ワイルド系イケメンパパ。
そう言われたらなんでも良くはなくなり、最近ファッション雑誌を読むようになったが良く分からない。星歌と龍ノ介に頼った方が得策だ。
「そうだな。 太くんのはどうする?」
「あいつとは後で甲冑専門の防具屋に行ってくるよ」
「分かった」
「お待たせしました。こちらになります」
星歌と陽ちゃんのが決まった所で、母親ががっしりとしたフードを持って戻ってきた。
「ありがとうございます。ならさっそく」
受け取ったローブに袖を通す。ちょうど良い大きさで、フードは大きく深くかぶれる。
俺はトゥーランでは死んだ人間。死んだ経緯が気にくわないが、確かに俺はここではもう死んでいる。
「似合うじゃないか? それじゃこれとこれを買おう」
龍ノ介からも高評価だった。
「ありがとうございます。それではこの二着を包みますね?」
「ああ、助かる。所でミシェルの髪のことなんだが、先祖返りなだけだろう?」
「あ、はい。やはり分かる人にはちゃんと分かるんですね? 国からは五十年に一度の魔力量を持った逸材だと言われています。ミシェルを知っている人は分かってくれるのですが、やはり初めての人には魔族だと疑われてしまいます。本当に良い迷惑です」
端から見れば何気ない店員と客の会話に見えるが、口説く気満々の龍ノ介はミシェルに理解ある素振りを見せ、母親に客以上の感情を持たせようとする。
そのやり口はどうかと思うも龍ノ介の場合口だけではなく、俺と同じで気に掛けているはずだから心配はしていない。もし口だけの女癖以外の最低ゲスやろうなら俺は当に龍ノ介と縁を切っていただろう。
「おじちゃん、また来てくれる?」
「もちろんだ。今度来る時は俺の娘とその友達も一緒にな」
「うん、約束だよ。そしたらあたい怪我の手当をしてくれたお姉ちゃんにありがとうって言う」
「それは良い考えだな。お姉さんきっと喜ぶよ」
俺が帰るのを淋しがるミシェルにまた来る約束をすると、たちまち元気になり小指を差し出されゆびきりを交わす。
星歌と陽ちゃんもミシェルには会いたがっているはずだから、数日以内に会いに来ようと思う。その時は思う存分みんなで遊ぼう。
「本当ですか? ありがとうございます」
「気にしなくて良い」
「はい」
なぜか母親が声をあげ涙ぐみ、龍ノ介は機嫌良く約束を取り付けていた。
何が何だかわらず、俺とミシェルは顔を見合わせ同時に首を傾げる?
何を言って喜ばせたんだ?
「星夜、ルーナス師匠の店に行くぞ」
「あ、なるほどそう言うことか」
疑問はすぐに解き明かされた。
ルーナス先生とは龍ノ介の魔術の先生。俺も魔術の基礎は習っていたが、俺の魔力量は極端に少なく早い段階で離脱した。
それでも先生であることは変わらない。
龍ノ介を一人前に育てた後は、アークファクトショップを運営していた。
彼女はエルフと言うこともあり薬草の知識が豊富なため、ミシェルのことは相談するつもりなのだろう?
俺だったら思いつかなかったナイスなアイデアだ。
ミシェルに案内され訪れたのは、昔度々お世話になっていた店だった。龍ノ介はともかく俺のことを覚えていたらいろいろ面倒だと思うも、ここで辞めるとは言い出せずにドアノブに手を掛け押す。
俺が利用していた時は、恰幅の良く白髪が入った老人の亭主。そして看板娘は、俺達と同世代だろう亭主の孫娘は気立てが良く可愛らしい女性だった。多くの冒険者で彼女目当て店に訪れそれなりに繁盛していた記憶がある。
「いらっしゃ──ミシェル?」
「お母ちゃん、ただいま。お客を連れて来たよ」
店の中に入ると当時の看板娘の面影がある俺達と同世代だろう女性に出迎えられるも、ミシェルの母親で現状を驚き立ち尽くす。ミシェルは自慢げにそう言葉を返す。
驚かれる理由は俺と龍ノ介ではなく、おそらくミシェルが俺に肩車されているからだろう。
あの時の看板娘が今も同世代なはずがない上、面影があると言うだけで同一人物ではない。
……娘なのか?
「すみません。娘がご迷惑を掛けてたようで」
「いいえ。肩車ぐらいどうってことないですよ。お店を教えてくれたお駄賃です。な、ミシェル?」
「うん!!」
申し訳なさそうに謝る母親に俺は気にしてないと言いながら、ミシェルを地上に降ろし確認すると屈託のない笑顔で大きく頷き俺に抱きつく。えらく気に入られたようで、オレも嬉しくなる。
ミシェルは幼い頃の星歌にどこか似ているから、ますますほっておけないんだよな?
「なら、あなた達は冒険者なんですね。何をお探しでしょうか?」
「防御に特化したがっしり目のローブを見せて下さい」
「分かりました。それならちょうど仕立てたばかりの物があるので、少々お待ち下さい」
俺の要望に母親の顔はたちまち商売人の顔に変わり、そう言って急いで奥へとローブを取りに行く。
「なぁミシェル、お父さんはいるのか?」
「龍ノ介?」
「いないよ。お母ちゃんとおばあちゃんとおじいちゃんの四人暮らし」
今まで静かだった龍ノ介が意味深な問いを投げかけ、ミシェルは疑いを持たず即答。それを聞いた龍ノ介はすこぶる笑顔になり鼻歌を歌い出す。
ミシェルの母親が気に入ったらしい。
「龍ノ介ほどほどにしとけよ。これ以上子供達の信用を失いたくないだろう?」
「一人に絞れば、問題ないだろう?」
ため息交じりで現実見ろと警告をしたのだが、涼しげな顔でまるで分かっていない回答が返ってくるだけ。すでに脳内にはお花畑が咲いているのだろう。もうこの話題は辞めてまったく別の話題にした方が良い。
……確かに一人だったら問題は……ないのか?
「星歌と陽ちゃんにも防具は必要だよな?」
「そうだな。だとしたら……このポンチョがいいんじゃないか?」
思わず龍ノ介の考えを受け入れそうになりつつも話題を変えると、切り替えは相変わらず早く女性用コーナーに足を運び、薄桜色のデザインが可愛らしいポンチョを手に取る。俺と違いセンスが良く目利きであるため、装備やファッションは龍ノ介に頼りきっていた。
基本着らればなんでも良いと思っている俺にはセンスのかけらもなく、龍ノ介に言わせるとダサい格好らしい。それでも別に構わなかったが、星歌のためにこだわってみれば格好いい姿の俺を褒めてくれた。
ワイルド系イケメンパパ。
そう言われたらなんでも良くはなくなり、最近ファッション雑誌を読むようになったが良く分からない。星歌と龍ノ介に頼った方が得策だ。
「そうだな。 太くんのはどうする?」
「あいつとは後で甲冑専門の防具屋に行ってくるよ」
「分かった」
「お待たせしました。こちらになります」
星歌と陽ちゃんのが決まった所で、母親ががっしりとしたフードを持って戻ってきた。
「ありがとうございます。ならさっそく」
受け取ったローブに袖を通す。ちょうど良い大きさで、フードは大きく深くかぶれる。
俺はトゥーランでは死んだ人間。死んだ経緯が気にくわないが、確かに俺はここではもう死んでいる。
「似合うじゃないか? それじゃこれとこれを買おう」
龍ノ介からも高評価だった。
「ありがとうございます。それではこの二着を包みますね?」
「ああ、助かる。所でミシェルの髪のことなんだが、先祖返りなだけだろう?」
「あ、はい。やはり分かる人にはちゃんと分かるんですね? 国からは五十年に一度の魔力量を持った逸材だと言われています。ミシェルを知っている人は分かってくれるのですが、やはり初めての人には魔族だと疑われてしまいます。本当に良い迷惑です」
端から見れば何気ない店員と客の会話に見えるが、口説く気満々の龍ノ介はミシェルに理解ある素振りを見せ、母親に客以上の感情を持たせようとする。
そのやり口はどうかと思うも龍ノ介の場合口だけではなく、俺と同じで気に掛けているはずだから心配はしていない。もし口だけの女癖以外の最低ゲスやろうなら俺は当に龍ノ介と縁を切っていただろう。
「おじちゃん、また来てくれる?」
「もちろんだ。今度来る時は俺の娘とその友達も一緒にな」
「うん、約束だよ。そしたらあたい怪我の手当をしてくれたお姉ちゃんにありがとうって言う」
「それは良い考えだな。お姉さんきっと喜ぶよ」
俺が帰るのを淋しがるミシェルにまた来る約束をすると、たちまち元気になり小指を差し出されゆびきりを交わす。
星歌と陽ちゃんもミシェルには会いたがっているはずだから、数日以内に会いに来ようと思う。その時は思う存分みんなで遊ぼう。
「本当ですか? ありがとうございます」
「気にしなくて良い」
「はい」
なぜか母親が声をあげ涙ぐみ、龍ノ介は機嫌良く約束を取り付けていた。
何が何だかわらず、俺とミシェルは顔を見合わせ同時に首を傾げる?
何を言って喜ばせたんだ?
「星夜、ルーナス師匠の店に行くぞ」
「あ、なるほどそう言うことか」
疑問はすぐに解き明かされた。
ルーナス先生とは龍ノ介の魔術の先生。俺も魔術の基礎は習っていたが、俺の魔力量は極端に少なく早い段階で離脱した。
それでも先生であることは変わらない。
龍ノ介を一人前に育てた後は、アークファクトショップを運営していた。
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