普通の女子高生だと思っていたら、魔王の孫娘でした

桜井吏南

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4章 それぞれの愛のかたち

73.お袋の味

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 つよしの会話を思う存分楽しみ自分の部屋に戻る途中、キッチンから良い匂いが漂ってきていた。私も何か手伝おうとキッチンを除くと、パパとお母さんが仲良く料理中。この中に私が入り込むのは邪魔だと思えて、声をかけるのに躊躇してしまう。
 でも幸せいっぱい夢いっぱい愛に満ちあふれているパパの姿に目が離せないでいると、

「星歌、どうした?」
「え、あ私も手伝う」

 呆気なく気づかれてしまったため、不審に思われないようそう言いキッチンに入る。

 二人の邪魔をしているようで申し訳ないと思う物の、二人にしたら親子三人の時間をたくさん作りたいんだろう。
 でも十四年ぶりの再会だから、今日ぐらいは二人の時間を優先して欲しいんだよね?

「だったらチョピと一緒にサラダを作ってくれる?」

 てっきり二人だけだと思っていたのに、チョピもいることが発覚。
 言われてキッチンを隅々まで見渡せば、丁度視角になっているところにいた。
 見た感じ邪魔してないようなので一安心。


「チョピ、手伝ってもいい?」
【うん、いいよ。星歌は野菜を切ってくれる?】
「わかった」

 そう頼まれたのは、庭に作った家庭農園で収穫しただろうきゅうりだった。
 見たところじゃがいもを潰しているから、ポテトサラダ。
 チョピの得意メニューとなっている。

【セイカのパパはとっても幸せそうだね?】
「やっぱりそう見えるよね。あんなパパ見たことなかったから、少しだけ嫉妬しちゃうけど」
【大丈夫だよ。セイカのパパとセイカのお母さんの一番は、セイカだから】

 何気なくポロリと醜い本音を呟けば、チョピは微笑み私を見上げながら当然とばかりに言うのだった。なんて答えをすれば分からず視線を落としきゅうりを輪切りにしていく。

 私は本当にさっきから一体何を考えてるんだろう?
 両親が仲良くするのはいいことのはずなのに、何私はお母さんに嫉妬をしてるの?
 我ながらさっきから大馬鹿でしかない。

「ポテトサラダに玉ねぎと人参は入れないの?」

 そして無理矢理を話しを逸らす。
 チョピのポテトサラダには彩りが少なかった。

【人参はなかった。玉ねぎはボク嫌いだもん】

 プイッとそっぽを向くチョピ。

「そうか。だったらトマトを収穫してくるね」

 聞いときながら実は私も生玉ねぎの辛みがあんまり得意ではない。代用として使うトマトを収穫するため、庭へ向かおうとすると。

「チョピ、玉ねぎも入れなさい。栄養が偏るだろう」
「チュピ」

 いつの間にかパパがチョピの傍に来ていてまるで言葉を理解しているように言った後、冷蔵庫からラップされスライスしてある玉ねぎを取り出す。

「これなら辛みも取れてるから大丈夫」
【本当?】

 今度は優しく言って、ジャガイモが入ったボウルにすべてを合わせ和える。いつ見ても手際が良い。パパに信頼を寄せているチョピは疑いつつも、何も言わずにジーと作業を見つめている。
 まるで親子の光景でほのぼのしていて、微笑ましい。

 パパとお母さん。そして弟(チョピ)がいて、家族全員でほのぼのと夕飯の準備をする。
 こう言うのを当たり前の家族の幸せって言うんだよね?
 私にはパパと龍くんがいるからそれでいい思っていたけれど、本当はちょっとだけ憧れていた。

 夢じゃないんだよね?

「セイカ、幸せだな」
「そうだね」

 どうやらお母さんも私と同じ気持ちらしい。




  今夜のメニューは、見た目酢豚。味も酢豚だった。
 なぜこのメニューにしたの? と聞いて見たら、パパと私の好きな食べ物だからと答えられた。
 パパが酢豚好きって言うのは初耳。家で酢豚を食べたことがなかったから、びっくりしたんだ。

「やっぱりスピカの手料理は美味しいな」
「そう? ありがとう」
「私はセイヤの料理の方がおいしいと思うけど」
「だな。まぁセイヤがそう言うのだから問題ないだろう」

 さっきから顔が歪みっぱなしで昨夜以上にモリモリ食べながらそう言うパパに、ヨハンさんは冷めた眼差しで見つめ突っ込みを入れる。ルーナスさんはルーナスさんで空気を読まず両方の感想を肯定するから、ご機嫌だったお母さんの表情がたちまち曇り頬をぷっくり膨らませた。

 私も確かにパパの料理の方が美味しいとは思うけれど、お母さんの料理はなんだか懐かしい感じがしてこれはこれで好きな味。
 遠い昔食べたことがある気がする。
 そうかこれが私のおふくろの味か。

【ボクはどっちも美味しいから好き!!】
「そうだよね? 私もどっちも美味しくて好きだよ」

 チョピの台詞が私の思っていることとだったから、嬉しくなって元気よく復唱する。
 死んでもパパの方が美味しいとは言わない。

「セイカとセイヤが美味しいんであればそれでいいよ。それにしてもヨハンは相変わらずだな?」
「私は正直者なの。それにスピカもセイヤの料理を食べれば分かるわ。絶品なんだから」

 なんとか機嫌をなおしてくれヨハンさんに皮肉を言えば、よせば良いのにヨハンさんはそれでもパパの料理を自慢する。

 この二人は本当に親友だったんだろうか?
 再会時には泣いて喜びあっていたのに、これではまるで犬猿の仲。

「…………。それなら明日はセイヤが食事を作って」

 そこまで言われば当然そうなる。しかも悔しそうに見えて関係のないパパを睨み付ける。

「俺はスピカの料理を毎日食べたいんだが……」
「へぇ~、ヨハンには手料理を振る舞った癖に、最愛の妻であるあたしには振る舞えないんだ?」
「そうじゃない。……分かったよ。明日ご馳走するから、そういじけるな」

 とんでもないとばっちりを受けた上に、言い負かされてしまった可哀想なパパだった。

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