普通の女子高生だと思っていたら、魔王の孫娘でした

桜井吏南

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5章 私が目指す聖女とは

78.逃走中の出来事

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「星ちゃん達、無事で良かった」
「陽とヨハンさんも」

 追っ手を巻いて街に出ると、すで陽とヨハンさんが待っていた。私達を見つけるとホッとした表情を浮かべ駆け寄り無事をわかり合う。二人の荷物がさっきより多くなっていて見ると、どうやら襲撃には合わなかったようだ。

「私達は何ごともなかったわ。連絡が来るまで食事に買い物を楽しんでただけ」
「だったらヨハン、しばらく運転を代わってくれないか? 右手の感覚がほとんどないんだ」
『え?』
「やっぱりな。いくら君でも銃弾を素手で受け止めるのは無理がある。ほら、見せてみろ」

 ヨハンさんに運転を任せる以上に、パパが大怪我を追っていたことに驚く。お母さんだけが予想内のようでそう言い強引にパパの右手に手に取りみる。
 真っ赤に染まっていてグロテクス。どう見ても重傷なのに、パパはいたって普通。 

 やっぱりパパは生身の人間なんだって思うと同時に、原因を作ってしまい申し訳ない気持ちでいっぱいになる。

「パパ、助けてくれてありがとう。痛いよね?」
「このぐらい大したことはないよ。星歌が無事なら何よりだ」
「そうだよ。普通なら無茶するなと怒るとこだが、相手が娘とならば良くやったと称賛するね。セイヤの自己回復で明日の朝には完治するよ」

 それで本当にいいの? って毎度お馴染みのことを、パパは当然とばかりに言う。
 左手で私の頭をなぜ、お母さんまでもが笑顔になってパパの行いを褒め称える。
 治療は上級魔術で、止血や痛み止めでも中級魔術だと教わった。しかも莫大な魔術量を使うそうで、大怪我の治療となると一日一度が限度らしい。
 龍くんだったら数回可能だとか豪語してたけど。
 だからなのかパパの治療は生死に関わる怪我以外は、止血だけであとは自己回復に任せている。今もそう。
 感覚ないって言う時点大怪我なはずなのに、パパは我慢強いからそう思われていない。
 本当なら私が代わりにパパの大怪我を治療したい所だけれど、あいにく治療魔術を習得してないから何も

 ……あっある。パパにはより効果的な癒やす方法が。

 そう思った私はパパの右手を両手で包むように優しくギュッと握り、心を込めて祈りをささげる。

 例え精神論だとしても、傷ついた手が少しでも早く癒されますように。
 いつも私を護ってくれてありがとう。

「大好きだよパパ」

 祈りついでに感謝の気持ちがあふれ出てしまい、無意識のうちに言葉となりパパに微笑んでいた。

「星歌、ありがとう。おかげですごく楽になったよ」
【すごーい!! セイカの優しい気持ちが癒しの力に変わってる】
「え、癒しの力? じゃぁやっぱりこの前のも……」

 チョピの笑顔の言葉で、疑いだった謎の能力がようやく確信へと変わる。

 癒やしの力は、聖女の力。
 この癒しの力があれば、傷ついたパパをいつでも癒せる。これからは毎晩おやすみの時にハグもしよう。そしたらパパはいつでも元気いっぱいだね。

「星歌、大丈夫なのか?」
「え、何が?」

 怪我か完治して嬉しいはずのパパはなぜか不安げに私を見つめるけれど、何をそんなに心配されるのか分からず首を傾げる。

「なぁチョピ、癒やしの力を使っても大丈夫なのか?」
【うん。一日三回以上使うのは危険だけれど、三回までなら普通に使えるよ】
「三回までなら大丈夫だって。慎重に使うから、そんなに心配しないでね」

 言われて心配されている理由が分かりハッとするも、チョピの答えは良心的だったため私の考えを付け加え代弁する。
 そしてパパに小指を差し出すと、パパの小指が絡み合う。その上からチョピの尻尾も加わり、三人でゆびきりげんまん。




 街を出てヨハンさんの少々荒い運転に怖いなと思うことしばらくして。
 車は急ブレーキを掛け無理矢理止まる。シートベルトをしていたおかげで私達は姿勢を崩しただけですんだ。

「ヨハン、一体どうしたんだ?」
「ごめんなさい。セイヤ達には見えないと思うけれど、十キロぐらい先の湖に魔族軍がいるの」
『魔族軍?』

 急ブレーキを掛けた理由ははっきりしていたけれど、内容が内容なだけにその場にいた全員が耳を疑った。ヨハンさんの言う通り目を凝らしても肉眼では見られない。

 エルフは視力が極端に良く、見ようと思えば五十キロ先まで見えるとか。ハーフエルフのヨハンさんでも二十キロ先なら余裕に見えるって前に教えてくれた。

「ええ、ベースキャンプしてる見たいね?」
「そうか。だったら気づかれないよう迂回するしかないな」
「セイヤにしてはいい判断だな。こんな夜更けに奇襲を掛けても──?」

 魔王軍でも緊急性はないらしくパパの判断にお母さん満足そうだったけど、言いかけている途中で絶句する。顔色も一気に真っ青になった。

「スピカどうしたの?」
「まさか奇襲帰りなのか? ヨハン彼らはどんな感じ?」

 きょとんと首をかしげ問うヨハンさんに、お母さんはとんでもないことを言い現状を求めた。
 ハッとしたヨハンさんは双眼鏡のようなものをバッグから取り出しガン見。

 ブラッケンが奇襲されたのだからその可能性は充分考えられるけれど、それと同時にこれからどっかの街を奇襲するの可能性だって考えられる。もしこれからだとしたら見過ごすことなんて、特にパパには出来るはずがない。たとえ単身でも突っ込んで魔王軍と戦う。

「パパ、単身で突っ込まないでよ」
「突っ込まないよ。父さんはもう英雄じゃないんだ」

 無駄かなと思いながら釘を刺すとまさかの答えが返ってくるけれど、どうしても信じられず疑いの目をパパに向けてしまう。

 確かにパパはもう英雄でもないし、トゥーランの人達に酷い仕打ちをされている。でも困った人をがいたら、手を差し伸べてしまうのがパパの良い所でもあり悪いとこでもある。 そんな人が見て見ぬふりが出来るのだろうか?

「本当に? もしかして隠れて突っ込むとか考えてない?」
「考えてないよ。そりゃ何もなければそうしていたが、今父さんが護るべき者は星歌なんだ。単身で乗り込んでその時星歌が襲われたら、たまったもんじゃないからな」
「あ、ありがとう」

 揺るぎのない眼差しで見つめ返され真面目に臭い台詞を言うから、疑いの代わりに恥ずかしくなり見ていられず視線をそらす。
 パパはたまに無自覚で恥ずかしいことを言い出す。

「どうやら彼らは魔王城へ帰る途中みたい。みんなちょっと私に付き合ってくれる?」
「別に構わないけれど、どうかした?」
「この近くに知り合いが住んでいる村があるの」

 そんな時タイミング良く確認が終わり状況を教えてくれるも、どうやらそれは良くない状況らしい。それだけ深刻に言ってエンジンをかけ直し、さっきよりも更に飛ばすのだった。
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