普通の女子高生だと思っていたら、魔王の孫娘でした

桜井吏南

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5章 私が目指す聖女とは

88.パパとの帰り道

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「お疲れさまでした。これですべての工程は終わりです。剣は一晩特殊の液につけて完成だけど、メリケンサックはこれで完成だから持って帰っても大丈夫よ」
「本当にですか? ありがとうございます」

 朝イチで始めたはずが窓の外を見ると日がすっかり暮れていた。私と言えば全身すでに筋肉痛で目はしょぼしょぼ。一人で我が家に帰宅出来るか微妙なぐらい体力が底をついている。

 形作りからが本番だった。最新器具は消失しため大体が手作業になってしまい、本当にその後が死ぬ思いをした。
 メリケンサックの微調整は地道にやすりがけ。(二時間)
 剣の刃を切れ味をよくするべく、砥石を高速回転(一定の速度を保ったペダルこぎ)させながら慎重に研磨する。(三時間)
 
 面白いからいつまでも出来る。

 と呑気に言っていた最初の私を殴り殺したい。

「どういたしまして。それにしてもセイカちゃんは本当にセイヤ様のことが大好きなのね? メリケンサックは全能力40パーセントUPな上、炎属性を持っている。おまけに全毒無効化。まさに聖女が愛情を込めて作った武器。この分だと剣もすごそうね」
「そう言ってもらえると嬉しいです」

 最後の最後で名武器職人に絶賛され、認定書も渡された。武器は武器職人によって認定書(診断結果)が発行される。
 普通だったら嬉しいはずだけれど、正直困りもんだった。
 何も言わずつよしにお返しとして渡すはずだったのに、すごい性能がついてたら絶対に不審に思われる。それでもし真相に辿り着いて、私の気持ちが重いからと言われて突き返されたらどうしよう。
 悩みが復活してしまった。

 トントン

 ドアを叩く音が聞こえる。
 昼間に帰ったお母さんが心配して迎えに来てくれたんだろうか?
  すぐにリリアンさんがドアを開けると、そこにはなんとパパの姿があった。

「リリアンさん、遅くまで娘をありがとうございます。星歌、迎えに来たよ」
「どうしてパパが?」
「帰りが遅いから心配していたら、スピカがだったら迎えに行けば良いと言われたんだ」

 突然のパパ来訪でびっくりするも、訳を聞いたら納得だ。心配性なパパだったらそうなるのも当たり前。
 きっともろに心配していてでも何も言えず部屋中をウロウロするパパの姿に、お母さんは呆れながらそう仕向けたんだろう。
 そんな姿を手に取るように想像が出来て、ちょっと微笑ましい。

【それならボクは先帰るね】
「え、なんで?」
【セイカとセイカのパパを二人っきりにしたいから。じゃぁね】

 元気いっぱいのチョピはたまに使う気を使い、飛び出し一人で先へ行ってしまう。

 チョピとはいつも一緒なんだから、今さらそんな気を使わなくて良いのにな。一体全体どう言う風の吹き回しなんだろうか? 



「久しぶりだな。星歌と二人っきりになるのは」
「そうだね。今はお母さんがいるもんね」

 パパと手をつないで我が家へと帰る途中、何気ない普通だと思う会話。なのになんだか寂しい気がして、思わずパパの手をぎゅっと握ってしまった。

 パパのことだから私とお母さんに早く本当の親子になって欲しいと思っているから、すべてを三人一緒。もしくは母娘の時間に費やしている。
 実際そのおかげで私はお母さんも大好きになって、三人の時間は楽しいし嬉しい。でもやっぱりまだ一週間ぐらいしか経ってないから、信頼度はいざとなったらまだ太陽の次ぐらいかな?
 って言ったらパパは悲しむから、言わないけれど。

「母さんとはこれから先もやって行けそうか?」
「もちろん。だけど私はパパとの時間も大切にしたいんだよね?」
「……わかった。これからは二人の時間も作るようにする」

 不意に聞かれた問いに素直な気持ちを即答すると、少し照れながらも嬉しそう笑う。私の頭をわしゃわしゃと撫でる。

 パパも私と同じ気持ちなんだね。

「ありがとう。はい、これパパのために作ったメリケンサック」
「え、父さんにも作ってくれたのか?」
「うん。パパを想って一生懸命作ったんだよ」

 今が絶好のチャンスだと確信した私は立ち止まり、バッグからメリケンサックを取り出し元気よく渡す。
 太の剣を作りに行くとだけ伝えていたパパには寝耳に水だったらしい。目をぱちくりさせて、呆然と受け取りメリケンサックをただ見つめる。
 その瞬間ピカーっと光り、メリケンサックは嬉しそうに見える。だから自信を持ってそう付け加えると、ようやく事態を飲み込んだのか号泣。
 異常過ぎる反応に驚くも喜びの反応と分かれば、逆にそんな喜んでもらえて嬉しいとさえ思えてくる。

「星歌、ありがとう。実は父さん太くんが羨ましくてしょうがなかった」
「どういたしまして。パパもそう言う感情があったんだね」

 初めて知ったパパの負と言うべき感情。
 それでも悔しいんじゃなくって、羨ましいと思うのはパパらしい。

 だったら今日は朝からずーとそんな歯がゆい気持ちでいたんだね?

「そりゃぁな。でもこうして父さんのも作ってくれたんだから、まだまだ太くんには負けてないってことなんだよな」

 当初の予定通り真相は死ぬまで隠し通そうと再び心に誓う。
 パパのこの満面の笑みを護るために。
 
「パパ、大好き」

 絶対に感づかれないよう最終手段であるパパに抱きつき甘えた言葉で、なんとかこの場を乗り切ろうと試みる。

 私はすぐ顔に出ちゃうから顔を見せなければ、多分大丈夫。 
 それにこれは嘘ではない。ちょっと大袈裟に甘えてるだけ。

 ……パパの匂いはいつも通りの石けんの良い匂い。この匂いを嗅いでいると心地よくって眠たくなっていく。
 そう言えば私すごく疲れてたんだ……。

「星歌、どうした? 眠いのか?」
「うん、すごく眠たい。……パパ、おんぶして」
「!? しょうがないな」

 すっかり眠気に支配された私は赤ちゃん返りしたらしく、よりによっておんぶをねだってしまう。一瞬驚くも眠気に負けた哀れな娘に気づき、やれやれと言わんばかりにそう言いながら私をおんぶしてくれる。

 パパの大きな背中はこれまた居心地のいいもので、私の記憶は瞬時になくなり夢の中へ。

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