普通の女子高生だと思っていたら、魔王の孫娘でした

桜井吏南

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6章 ラスボスへの道のり

107.恋人への道のり

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「ひょっとして私達、このまま無戦闘のまま洞窟を抜けちゃうのかな?」
「かもな? なんせオレ達にはおっさん&ガーロットと言う最強コンビが先陣を切ってるんだ」
「こらお前ら油断は禁物だと言っているだろう? そろそろ襲ってくるだろうから、心しておけよ」

 いつの間にか緊張の糸がほどけてしまった私は暢気にそう呟けば、太も同じく全面同意。しかし龍くんからお叱りを受け、キツく釘を打たれてしまう。
 冗談を言うのは止めてよと言いそうになるけれど、この洞窟はラストダンジョン。
 いくらパパとガーロットが最強でも、威圧は全員に効くはずがない。初めっからそう言われていた。
 それに威圧をすり抜けて来るモンスターは中ボスクラス。  
 シノブ戦の前だから良い腕試しにかもだけれど、いきなり中ボスクラスは鬼畜過ぎる。
 考えるだけで寒気がして来て龍くんの言う通り、さっさと気を引き締め直さないと偉いことになる。それと同時にパパとガーロットが心配になった。
 私達には感じさせない威圧を発し続けることもう三時間。そろそろ休憩しないと特にパパが倒れるかもしれない。

「パパ、ガーロット。大丈夫? 少し休憩しようか?」
【我のことは気にしなくてもよい】
「俺はまだまだ──」
「そうだなこの辺で休憩しよう。オレはヘトヘトだ。一時間ぐらいなら結界を張ればいいだろう。陽、ヨハン、スピカ協力してくれ」
『はい』

 拒否しようとパパの台詞をかき消すように、自分の意見を言い早速結界を貼り始める。頼まれたお母さん達一緒に。
 結界は簡単な防御しか覚えられなかった私は戦力外。
 確かに三時間以上も歩き続けている私達も休憩が必要。

「すまない。自分のことしか考えていなかった。お前達も疲れてたよな」
「ちょっとね。でもパパは本当に大丈夫なの?」

 滅茶苦茶凹んだパパが戻ってくる。見た目凹んでいるだけで元気はありそう。

「ああ。父さんは修行の一環で週一で夜通し気を張り続けているから、丸一日は余裕だ」
「あ、そう……それならよかった」

 タフ過ぎるパパにいつもながら圧巻する。

 しかも週一でとか言うけど、そんな修行いつの間に?
 パパは本当に普通の暮らしに戻れるの?

「でもこれ以上星歌に心配掛けさせるわけにもいかないから」
「え?」

 ギュッとパパに抱きしめられる。
 いきなりだからびっくりしたけれど、ちっとも嫌じゃなくってむしろ嬉しい。
 パパを元気にするのが私に出来る唯一のことだから。
 祈りを込めて私からも、パパをギュッと抱きしめる。
 これで本当にパパは元気になった。

 ただ今回はいつもと違って、背後から誰かに羨ましい視線? で見られている気がする。

「どうやら太くんが嫉妬してるみたいだから、この辺にしておくよ。これからは気をつける」
「え、太がパパにも嫉妬?」

 私から離れ残念そうな表情を浮かべるパパから、意外過ぎる視線の主を教えられる。 
 信じられず振り返り太に視線を合わせると、びっくりしたのか慌てて視線をそらし挙動不審となった。
 地味にショックで泣きそうになるけれど、涙をこらえ急いで太の元に行き袖をつかむ。


「太、パパと仲良くするのも駄目なの?」
「は? それはない」

 駄目だと言われたらどうしようと思たら、即答で否定される。

 嫉妬じゃない?
 だとしたらまさか羨ましかっただけ?

「だったら今の何?」
「……羨ましかっただけだ。オレも……」

 太は顔を真っ赤にさせて、ごにょごにょと言葉を返す。

 やっぱり。
 黒崎の件以来太はすっかり可愛くなっちゃって、思いっきり甘やかしたい。
 キスもしたい。
 でもそんなこと人前でしたらその時は良くても、冷静になった途端恥ずかしさが倍増して死にたくなる。
 多分太も少なからずそう思っているはず。

「だったらハグぐらいなら、いつでもやって良いよ」

 それでもなんとかしたいと思って、これならなんとかと思える譲歩を提案する。
 それでもちょっと恥ずかしいけどね。

「本当に?」
「うん。太が恥ずかしくないんなら」
「恥ずかしくない。だってオレ達は恋人だろう?」

 しかし太はまったく恥ずしがらず満悦の笑顔を浮ばせ、嬉しそうに思いっきりハグをする。
 
 オレ達は恋人だろう。

 声に出して言われると嬉しいけれど、少し気恥ずかしい。だけどこう言うのも悪くない。
 思えば恋人になった所で、恋人らしいことはあまりしていない。もしかしてそれが欲求不満なんじゃ?
 恋人の欲求不満って何?
 流石に付き合ってまだ一週間ぐらいしか経っていないんだから、いくらなんでも唇のキスは早いよね?
 恋愛経験ゼロだからそう言う順番なんてよく分からない。
 そもそも恋愛のABCってなんだっけぇ?

「そうだね。私は恋愛初心者だから、その辺が良く分からないんだよね?」
「そんな焦らなくても良いんだ。今はこれだけで充分だから、それ以上は星歌のペースに合わせるよ」

 戸惑う私に太は優しい笑みで言ってくれて、頭ポンポンされる。
 太が余裕ある大人の男性に見える。

 これが経験あるなしの違い?
 ……太は元彼女とどこまでやっているんだろう?
 この前の話を聞く限りだと背伸び過ぎて破局に終わってるから、進展してたとしてもキス止まりだよね?
  
「ねぇ、私とも唇のキスをしよう」
「は!? 今そう言う展開なのか?」
「うん。ほら、あそこの岩蔭でなら誰にも見られない」

 まさか私がそう言うことを言うとは思わなかっただろう余裕の笑みが焦りに代わった。
 しかし私は構わず太の腕を引っ張り、指さした岩陰へ急ぐ。

 唇のキスはまだ早いかも知れないかもだけど、なんかすごく負けてる気がして悔しかった。
 私は太の一番になりたい。
 よく分からないくだらない意地が私を支配していた。

『え?』
「チュピ?」
「ニャァ~」

 岩陰にはすでに先客がいて、私達は驚き見つめ合う。
 その瞬間、一気に我に返り冷静に戻れた。
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