普通の女子高生だと思っていたら、魔王の孫娘でした

桜井吏南

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7章 すべてを終わらせる

116.ニシキの正体

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「皆様お待ちしてました」
『ニシキ』

 魔王城の前には出来れば会いたくなかった人が待っていた。
 ニシキとは面識があるお母さんと声をハモらせれば、初対面であろう他の人達も目を丸くして彼女を見つめる。
 ここで一戦やるのかと思うも、やっぱりニシキからは戦意が感じられない。相変わらず優雅な物腰で、友好的にも思えてしまう。
 でも彼女の主はシノブなのだから、やっぱり油断は禁物なんだよね? 本当に彼女の目的は一体なんなんだろうか?

「特にスピカ様。再会出来る日を心待ちにしておりました」
「まさかあたしが復活したことは、シノブに知られていたりする?」
「いいえ。まだお伝えしておりません。主様にこのことが知られれば、今以上に状況が悪くなってしまいます」
「状況が悪化する? それってどう言う意味?」

 意外過ぎる答えに、お母さんはキョトンと訳を尋ねる。

 ニシキはシノブを慕っているはずなのに、黙っているなんてありえるだろうか?
 それともこれは私達を油断させようとする、見え見えの罠?

「皆様はシノブ様の能力をご存じでしょうか?」
「ああ知ってる。それがどうした?」

 危険を察ししたパパは、私達を護るように一歩前に。ニシキの問いをドスの聞いた声で真相を問う。
 空気がさらにピリピリ感が加わり、隙など一切感じられない。

「これが主様の姿です」
「!?」
「なんだこれは?」

 何か紙を見せられたパパの表情はみるみる青く染まり絶句。
 今度は龍くんがそれを見て、信じられないとばかりに問い返す。

 私達が見たシノブとは別人?
 整形手術でもした?

「おそらく強引にゲートを起動させたばかりに、本来の姿でチキュウに行かれたんだと思います。そしてチキュウから命からがら逃げ帰ってこられ、現在はセイカ様とセイヤ様の復讐のためだけに生きています」
「だったらこれは嫌がらせなのか?」

 相変わらず自分勝手の嫌な奴としか言えない。
 龍くんの声も表情も怒りへと変わっていく。
 見て見たいとけれど、ここまでだとみるのが怖い。
 それに……。

「いいえ。シノブ様の本来の英雄スキルは転生ではなく、魂が弱っている綺麗な身体に憑依することなのです」
「!!」

 口に出さなくてもそれ以上のことは、大体の予想がつく。
 チョピに言われていたからある程度は覚悟してたけれど、それにしてもこの展開はあんまりでは?

「リュウノスケ、あたしにも見せなさい」

 母さんの聞いたことがない気持ちが高ぶっている声。
 龍くんの元に駆け寄り、紙をバッと奪いそれを見た瞬間その場に泣き崩れる。

 間違えない弟はシノブに憑依されているんだ。
 
「一体どう言うことだ?」
「ちょっと耳を貸して」

 事情を知らない黒崎には当然この状況が理解出来ず混乱する。陽が手招きをして耳打ち。
 すると黒崎の顔から血の気がサッと引き、真っ青に染まり私達を哀れむ。。
 私と言えばショックと言えばショックなんだけど、両親のメンタルの方が心配だった。

【浄化の光で元に戻るよ】
【チョピ、浄化の光はそこまで万能じゃないわよ?】
【さよう。聞く所によれば、赤子の時に憑依したと言うことになる。となるとすでに弟君の魂は食われているかも知れない。そしたらすべて浄化してしまう】
【あ……】

 またしても浄化の光で問題解決にしようとしたチョピだけれど、フェイリルとガーロットに厳しい突っ込みを入れられしょんぼりとする。
 私もこの真実に驚き、ヤバさを感じた。
 
 弟の魂が食われている。
 身体はあるのに、中身は完全にシノブ。
 そんな奴と私達は戦える?
 例え戦え勝利したとしても、パパの心が今度こそ壊れてしまう。
 だとしたら残る手段は一つ。

「パパ、地球へ帰ろう。もうトゥーランなんて本当にどうでも良い。全部忘れて元の生活に戻ろう。お母さんも」
「…………」

 未だ黙ったまま絶望しているパパの元に駆け寄り、私が思う最善案を言いながら背後から抱きつく。

 忘却魔術でトゥーランに来たすべてのことを忘れる。
 お母さんは適当に記憶を隠蔽すればいい。
 そして親子三人で仲良く暮らす。

「それがいい。後はあたしとニシキが責任を持ってなんとかするから、セイヤとセイカ達はチキュウへ戻りなさい」
「……スピカ?」
「お母さん? 当然お母さんも地球に行くんでしょ?」

 一方号泣していたお母さんは何か決意したのか、私の案に便乗するも意味深な台詞を言い放つ。
 これにはパパも視線を上げ、訳が分からないといった感じで見つめる。
 イヤな予感しかしないんだけど、間違えであって欲しくて祈る気持ちで聞き返す。

 責任を持つって何に?

「セイカ、それは出来ない。シノブがリュウセイに憑依したのはあたしのせいなんだよ。……思い出したんだ。今まで忘れていたあの日の出来事を……」
「思い出した? 一体何を? それに親の責任と言うならば、当然父親の俺にもあるだろう? スピカ一人に重荷を背負わせない」
「ありがとう。……話すよ。二十八年前、何があったのかを」

 とお母さんは降参とばかりの表情を浮かべ、二十八年前の話をゆっくりと語り始める。

 一体何が語られるのだろうか?

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