異世界転移したけど、特典なんかありません。~それでも私は生きていく~

桜井吏南

文字の大きさ
19 / 19

十九話

しおりを挟む

 予想通り浅居君は、少しショックを受けた様子だ。
 だけどカノン君は(多分)悪気があって言っているわけじゃないから、下手に浅居君を慰めるとすぐに機嫌悪くなって逆ギレしちゃうからな。
 ここは黙っていた方が、無難かも知れない。
 それよりか話題を変えた方がいいよね。

「所で仕事探しってどこでやるの? まさか酒場とかじゃないでしょうね」

 とっさに思い出した話題としては、結構いい線いっているかも知れない。

 それにファンタジー漫画や小説の仕事探しや情報集めの定番と言えば、間違えなく酒場である。
 浅居君はともかく、あたしとカノン君が何も言われず店の中へと入られるだろうか?
 するとカノン君は一瞬拍子抜けした顔をしたと思えば、微かな笑みをもらしながらあたしのおでこにデコピンをした。

「バーカ。酒場なんかでどうやったら、仕事が見つかるんだよ。全くお前って、本当に世間知らずだな」

 小馬鹿にした口調で、カノン君はそう言った。

「あたし達の世界は、冒険者なんかいないんだからしょうがないでしょう?」

 おでこがヒリヒリするよ。
 デコピンってこんなに痛い物なんだ。

「外国にならいそうだけどな」
「そうそう。もし日本にあったら間違えなく冒険者になってたもん」

 あたしは笑顔で言うと、二人は恐ろしそうにジッと目で見つめる。

 大体の予想が付いたので、あえて問いざさないことにしよう。
 どうせおちょこちょいで単純なあたしには、冒険家なんて向いていない。
 そんなのここに来る前からちゃんと分かっていたし、実際にここであたし一人だけでは何も出来ないことを実感した。

「安心して。この世界であたしの夢が叶えられたから、もうそんなこと考えないから」

 念のため二人に何か言われない前に、あたしは今の考えも付け加えた。
 どうせ考えたって、あたしの求めている冒険者なんて現実は不可能だけど。

「だったら、ずーとこっちにいればいいじゃん」

 するとカノン君が、考えなしにそう言う。

「そうしたいけど。この世界はあたしには危険すぎるからね」

もしあたしが浅居君みたく強かったり芽李ちゃんみたくしっかりしていたら、間違えなくこっちの世界で一人で冒険者になっているだろう。
 しかし今のあたしには残念ながら、退屈でそれなりの平和な元の世界がしょうにあっている。 そりゃぁ出来れば、認めたくはないけれど。
 だからこの世界にいる間は、思う存分エンジョイしようって決めたんだ。

「緑河の判断にしては、賢明じゃないか?」
「でしょう? あたしだって、ちゃんと自分のこと分かっているんだから」
「よく言うぜ。その割にはいつも無茶なことばっかり言ってる癖に」

 せっかく浅居君があたしのことを見直してくれたのに、カノン君がまたもや余計なことを言ってくる。

 本当に、カノン君っていつも一言余計なんだから。
 だけどさっき口喧嘩しそうになったばかりだから、ここはグッと堪えて大人になろう。カノン君はまだ子供だもん。二回に一度ぐらいは大目に見てあげないとね。

 そんな穏やかな会話していると、突然浅居君とカノン君の顔が真剣な顔へと変わって行く。あたしは訳も分からず二人の顔を見回した。
しおりを挟む
感想 1

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(1件)

吹雪緋桜
2021.07.13 吹雪緋桜

とてもおもしろい作品でした
これからの続きも楽しみにしてます

解除

あなたにおすすめの小説

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

死に戻ったら、私だけ幼児化していた件について

えくれあ
恋愛
セラフィーナは6歳の時に王太子となるアルバートとの婚約が決まって以降、ずっと王家のために身を粉にして努力を続けてきたつもりだった。 しかしながら、いつしか悪女と呼ばれるようになり、18歳の時にアルバートから婚約解消を告げられてしまう。 その後、死を迎えたはずのセラフィーナは、目を覚ますと2年前に戻っていた。だが、周囲の人間はセラフィーナが死ぬ2年前の姿と相違ないのに、セラフィーナだけは同じ年齢だったはずのアルバートより10歳も幼い6歳の姿だった。 死を迎える前と同じこともあれば、年齢が異なるが故に違うこともある。 戸惑いを覚えながらも、死んでしまったためにできなかったことを今度こそ、とセラフィーナは心に誓うのだった。

【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革

うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。 優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。 家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。 主人公は、魔法・知識チートは持っていません。 加筆修正しました。 お手に取って頂けたら嬉しいです。

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

☆ほしい
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

子供にしかモテない私が異世界転移したら、子連れイケメンに囲まれて逆ハーレム始まりました

もちもちのごはん
恋愛
地味で恋愛経験ゼロの29歳OL・春野こはるは、なぜか子供にだけ異常に懐かれる特異体質。ある日突然異世界に転移した彼女は、育児に手を焼くイケメンシングルファザーたちと出会う。泣き虫姫や暴れん坊、野生児たちに「おねえしゃん大好き!!」とモテモテなこはるに、彼らのパパたちも次第に惹かれはじめて……!? 逆ハーレム? ざまぁ? そんなの知らない!私はただ、子供たちと平和に暮らしたいだけなのに――!

冷遇王妃はときめかない

あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。 だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。