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お兄ちゃんの幸せを守りたい

38.サクラの恐るべし能力

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 タスクが私に恋愛感情を抱いてくれた。
 それはとても光栄で嬉しいことだけれど、少なからずやっちまったと言う感情もある。
 だってそれはけして結ばれない……初恋だからいいのかな?
 もう会わなければ青春の甘酸っぱい1ページとして残るんだよね?
 私にとってもそう……。
 なんか切ないな。


「お姉ちゃん?」
「は?」 

 やるせない気持ちを消化中、戸惑う声に反射的に反応してしまい視線を向けた。そこにはサクラがいて私をじっと見つめている。

 反応しただけだからいくらでも誤魔化しは利くけれど、果たして三歳児の誤魔化し方はどの程度なんだろう?
 いざとなったら泣いてお兄ちゃんに助けを求めるか?
 でもそんなことしたら今度はお兄ちゃんよりも、勘が働くマイケルに怪しまれる。 
 だからここはなんとしても自分で解決しなければならない。

「アカツキちゃんはイロハお姉ちゃんなんでしょ? 生命の匂いはみんな違うから、姿を変えたとしても私には分かるの」

 しかしいろいろ反則っぽい根拠を言われてしまい、私の頭では誤魔化せられないことを悟る。

 サクラにそんな特殊スキルがあるなんて、どこにも書いていなかったはずだ。
 もし知ってたらお兄ちゃんが引き取る提案には断固拒否して、アイリスに他の子供達同様預けて二度と会わないようにした。

 今からでも遅く……。

「これからお姉ちゃんの言うことはなんでも聞いて、メイドのお仕事を頑張るから傍にいさせて下さい」

 真剣な瞳で見つられ強く言いながらの土下座。必死であることは伝わってくる。
 私はそこまで好まれるようなことをした記憶はないんだけれど、ここまで一緒にいたいと言われたら無下に足払うなんて出来ない。
 それに頷かない限り退いてくれなさそう。

「……お兄ちゃんを好きにならないって約束できる?」
「出来る。私はお姉ちゃんだけに忠誠を誓う。あのおじさん見たく」
「それだけは辞めて下」
 
 つい私の醜くい本音である条件を出してしまい、何も知らないサクラは迷いなく頷き約束は交わされる。
 追加で余計な契約をされそうになるけれど、これは嫌なので丁重にお断り。
 せっかく忘れかけてたのに、思い出し少しばかり気になってしまう。

 アイザックと交わした主と下僕の契約魔法をよくは知らなかったため、フレディとアイリスに詳しく教えてもらった。
 普段契約の証は消えていているんだけれど、主が呼べば光り強制的に召喚されるそうだ。
 そして主の言葉には逆らえないとかで鬼畜だなと思うも、所詮下僕になんて人権がないのが普通なんだろう。
 だからサクラとは対等に付き合いたいから、契約は結ばない。
 でもお兄ちゃんを好きになって欲しくなかったから、それだけ約束をした。
 これは私の完全なワガママ。

「そう? でもお姉ちゃんのメイドになれて嬉しい」
「そのお姉ちゃんって言うの辞めて欲しいな。私はサクラお姉ちゃんより年下だし」
「サクラでいいよ。ならお嬢様だね」
「え、あうん。そうだね」

 お嬢様と言うのも違和感がありまくりだけれど、お姉ちゃんと呼ばれるよりかはましだったので渋々頷く。
  何よりサクラが納得しているんだから、仕方がない。

「ありがとう。お嬢様大好き。ずっとずっと一緒にいようね」

 と笑顔いっぱい嬉しそうに言いながら、私を抱ギュッと抱き締めるのだった。




 ランチ後私とお兄ちゃんは仲良くお昼寝した。
 二人とも疲れていたのでベッドの中に入った途端、爆睡モードになったのは言うまでもない。
 目が覚めるとお兄ちゃんが幸せそうにまだ寝ている。
 特等席でお兄ちゃんの寝顔を眺めることに。

 まだ少しあどけない表情だから、寝顔はすごく可愛いんだよね?
 それでもタスクの寝顔スチルの面影もなんとなくあって、胸が高鳴り愛しさが込み上げる。
 きっとキスをしても、日常茶飯事だから怒られない。それどころかお兄ちゃんも喜んでしてくれるはずだけど、それは間違えなく私とは違う兄妹愛。
 幼い妹に恋愛感情なんて抱くはずがないし、抱いたらそれはそれで困る。
 それにこの想いを知られたらいくらお兄ちゃんでも気持ち悪がられ距離を置かれてしまう。だったら私もブラコン末期にしておけば、後十三年ぐらいは仲良し兄妹でいられる。

「アカツキ、起きたの?」
「お兄ちゃん、大好き」

 お兄ちゃんが目を覚ました直後、飛びっきりの笑顔を浮かべ抱きつき唇を奪う。お兄ちゃんは頬を赤く染まらせ、幸せそうな表情を浮かべ私をギュッと抱きしめる。
 心臓が高鳴るけれど、心地がいい。

「ありがとう。僕もアカツキの事が大好きだよ。じゃぁ着替えて海に行こうか?」 
「うん、行く」

 とお兄ちゃんは私を強く抱き締め言ってくれるけれど、それは私が欲しい言葉の意味じゃなかった。


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