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26「杉浦律子」
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26「杉浦律子」
「母に、私の母に悪いとは、思わなかったんですか」
華名子は想いを吐き出した。
「母は、最後の最後まで、父を待ち続けました。他に好いてくれる人が出来ても、幸せになれるって分かっても、父だけを待っていたんです! 母に結婚を申し込んできた人がいました。優しくて、いい人でした。私も、母に、言ったんです。父を忘れて、もう一度幸せになって欲しいって、そうしたら、母はなんて言ったと思います」
律子は苦しそうに顔を伏せている。
「私、馬鹿だからいつまでも待つわ、って。ごめんね、って泣きながら謝るんですよ! どうして、お母さんは何も、何も悪くないのに! 悪いのは全部、父と、あなたよ!」
華名子は鞄からナイフを取り出し、律子へ向けた。
「そうね――あなたの気持ちは分かるわ」
「黙れ! 何が、何が分かるよ! 分かってなんか欲しくないわ!」
何を分かると言うのだ。あれだけ、母が待ち焦がれていた父は、ずっとこの女といた。それをしらず、母は幸せを切り捨て、自分を殺し、最後は痩せ細って死んでいった。
許せない――
殺してやりたい――
でも――
「どうして、あの絵を私に送ったんです! それを、聞きにきたんです!」
そうだ――今、なすべき事は目の前の女を殺すことではない――
佐々木理穂を救うためには――
「父が望んだんですか? それならば、何故、今頃になって! どういう意図があって! 私の生活をかき乱して、仕事も、大好きだった先生も、全部奪って! どうして!」
華名子は恨みを、想いをすべてぶつけた。辛うじて、最後の理性だけが、ナイフをとどめている。
律子が、全部話してくれたら――理穂を救うことが出来ると分かったら、このナイフを――手放すことができるかもしれない。しかし――
「言えないわ……例え、あなたに、刺されたとしても、それだけは」
律子の言葉は、華名子の中の何かを――今まで抑えていたものが、決壊した。
「ころしてやる」
華名子は不思議な力に導かれるようにナイフを律子に向けた。
「あ、あなた、一体――」
華名子は一瞬、ガラスに映った自分の顔が目に入った。目が、目がおかしい。気がふれた、というわけではない。
目が、赤い。充血した――そうではない。まるでルビーのように鮮やかな赤だ。
脇に置かれたひまわりの絵も気づかない内に布が消え、宙に浮いていた。まるで三流のホラー映画のようだ。
「この女をこれ以上傷つけさせるわけにはいかない。精神が壊れてしまう。だから貴様を殺す」
華名子の声だが、何者かが華名子の口を使い、話している。間違いない――画霊だ。
すでに自由を失った華名子は操られるまま、律子に襲い掛かろうとするが――
律子は目の前の光景を見て、驚きはするが、逃げない。
「これが、あなたと、奥様に対する償いなら――」
覚悟を決めた。強い意志を感じる。しかし――
華名子の体は動かない――いや、押さえつけているのだ。
「かん……ったんに諦めないでよ! あなたが――死んだら……佐々木さんを、どうやって! 助けたら――」
「この者を生かしておいたら貴様の心が危うい。私に委ねろ。もう私を縛る札も消えた。何故抗う。何故だ。私はお前の心と共に合った。心の中ではあの生徒の事など、どうにも思っていなかったではないか」
「ふざけないでよ――たしかに子供は、嫌いだし――教師なんてうんざり……だけど――自分を信じて、慕ってくれる、子ぐら――い、助けたいっておもうでしょ! 私の、心の、何を見てきたのよ!」
華名子の口からは、華名子自身と画霊の言葉が交互に飛び出してくる。状況が分からない律子はただ、戸惑うばかりだ。
そんな律子を見て、華名子は「逃げて」と叫びたいが、次第に画霊の支配が強くなってきて、体の自由が利かなくなる――
やめて――
華名子の体がゆっくりと律子へ向う
これ以上――
覚悟を決めた律子に向け、華名子のナイフが向けられる――
誰も傷つけたくない――
ナイフを構えたその瞬間、華名子の背後で、扉が開く音と、聞きなれた声が聞こえたが、振り返ることも、止める事も出来ない――
華名子は律子に向けた刃をふるう
しかし、律子に届くことは無かった。
代わりに、その刃は、直前に店に飛び込んできて、華名子と律子の間に割って入った、男の右手に深々と刺さっていた。
華名子はゆっくりと、その声の主を見た。
「――約束、したでしょう。人の道を、外れた事をしないと」
温かくも、厳しい。本当の父のように慕っていた、小島の姿がそこにあった。
「母に、私の母に悪いとは、思わなかったんですか」
華名子は想いを吐き出した。
「母は、最後の最後まで、父を待ち続けました。他に好いてくれる人が出来ても、幸せになれるって分かっても、父だけを待っていたんです! 母に結婚を申し込んできた人がいました。優しくて、いい人でした。私も、母に、言ったんです。父を忘れて、もう一度幸せになって欲しいって、そうしたら、母はなんて言ったと思います」
律子は苦しそうに顔を伏せている。
「私、馬鹿だからいつまでも待つわ、って。ごめんね、って泣きながら謝るんですよ! どうして、お母さんは何も、何も悪くないのに! 悪いのは全部、父と、あなたよ!」
華名子は鞄からナイフを取り出し、律子へ向けた。
「そうね――あなたの気持ちは分かるわ」
「黙れ! 何が、何が分かるよ! 分かってなんか欲しくないわ!」
何を分かると言うのだ。あれだけ、母が待ち焦がれていた父は、ずっとこの女といた。それをしらず、母は幸せを切り捨て、自分を殺し、最後は痩せ細って死んでいった。
許せない――
殺してやりたい――
でも――
「どうして、あの絵を私に送ったんです! それを、聞きにきたんです!」
そうだ――今、なすべき事は目の前の女を殺すことではない――
佐々木理穂を救うためには――
「父が望んだんですか? それならば、何故、今頃になって! どういう意図があって! 私の生活をかき乱して、仕事も、大好きだった先生も、全部奪って! どうして!」
華名子は恨みを、想いをすべてぶつけた。辛うじて、最後の理性だけが、ナイフをとどめている。
律子が、全部話してくれたら――理穂を救うことが出来ると分かったら、このナイフを――手放すことができるかもしれない。しかし――
「言えないわ……例え、あなたに、刺されたとしても、それだけは」
律子の言葉は、華名子の中の何かを――今まで抑えていたものが、決壊した。
「ころしてやる」
華名子は不思議な力に導かれるようにナイフを律子に向けた。
「あ、あなた、一体――」
華名子は一瞬、ガラスに映った自分の顔が目に入った。目が、目がおかしい。気がふれた、というわけではない。
目が、赤い。充血した――そうではない。まるでルビーのように鮮やかな赤だ。
脇に置かれたひまわりの絵も気づかない内に布が消え、宙に浮いていた。まるで三流のホラー映画のようだ。
「この女をこれ以上傷つけさせるわけにはいかない。精神が壊れてしまう。だから貴様を殺す」
華名子の声だが、何者かが華名子の口を使い、話している。間違いない――画霊だ。
すでに自由を失った華名子は操られるまま、律子に襲い掛かろうとするが――
律子は目の前の光景を見て、驚きはするが、逃げない。
「これが、あなたと、奥様に対する償いなら――」
覚悟を決めた。強い意志を感じる。しかし――
華名子の体は動かない――いや、押さえつけているのだ。
「かん……ったんに諦めないでよ! あなたが――死んだら……佐々木さんを、どうやって! 助けたら――」
「この者を生かしておいたら貴様の心が危うい。私に委ねろ。もう私を縛る札も消えた。何故抗う。何故だ。私はお前の心と共に合った。心の中ではあの生徒の事など、どうにも思っていなかったではないか」
「ふざけないでよ――たしかに子供は、嫌いだし――教師なんてうんざり……だけど――自分を信じて、慕ってくれる、子ぐら――い、助けたいっておもうでしょ! 私の、心の、何を見てきたのよ!」
華名子の口からは、華名子自身と画霊の言葉が交互に飛び出してくる。状況が分からない律子はただ、戸惑うばかりだ。
そんな律子を見て、華名子は「逃げて」と叫びたいが、次第に画霊の支配が強くなってきて、体の自由が利かなくなる――
やめて――
華名子の体がゆっくりと律子へ向う
これ以上――
覚悟を決めた律子に向け、華名子のナイフが向けられる――
誰も傷つけたくない――
ナイフを構えたその瞬間、華名子の背後で、扉が開く音と、聞きなれた声が聞こえたが、振り返ることも、止める事も出来ない――
華名子は律子に向けた刃をふるう
しかし、律子に届くことは無かった。
代わりに、その刃は、直前に店に飛び込んできて、華名子と律子の間に割って入った、男の右手に深々と刺さっていた。
華名子はゆっくりと、その声の主を見た。
「――約束、したでしょう。人の道を、外れた事をしないと」
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