転生腹黒貴族の推し活

叶伴kyotomo

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222 推しと新しい力

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「私の実家であるガラスト公爵家は、四人兄弟と知られておりますが、実は姉がいたのです」

「お姉様が…」

もしやと思いながら聞いていると、ムークは悲しそうに目を伏せた。

「姉は魔力拒否症でした」

やはり。

魔力が高い家程、魔力拒否症も出やすいのだろう。

ラッカルの三大公爵家なら尚更だ。

「姉はとても美しく優しく穏やかで、自慢の姉でした。私は魔力が比較的低かったので、良く遊んでもらったものです。…やはり病魔には勝てず、十五になるとすぐに亡くなりました。家族も必死で薬草を探し回っておりましたが、その頃はグリーンドラゴンリーフも入手が難しく、として名を馳せておりましたので、覚悟はしておりました…。実は、先日のジャメルでの花祭りに足を運んだ時に、ギル様の兄上を拝見いたしました」

ホセ兄様の結婚式も兼ねていたから、参加していたジェレミー兄様の事だね。

俺がうんうんと頷きながら話を促すと、ムークはとても感動したと目に涙を溜めていた。

「ジャメルがレッドドラゴンリーフの栽培に成功した。魔力拒否症の患者が治癒したと言う話は、瞬く間にこちらにも入って来ていましたから。失礼ながら半信半疑でそちらに向かったのです。…信じられませんでした。自分の足で立ち、歩き、魔術を使うジェレミー様を拝見して、込み上げるモノがありました。ああ、やっと。やっと死の病では無くなったのだと」

俺も少し込み上げて来るモノがあった。

ああ、この人は俺だ。

レッドドラゴンリーフを手にする事が出来なかった場合の、俺なのだ。

俺もあのままレッドドラゴンリーフを手にする事が出来ず、ジェレミー兄様を失っていたらと思うと胸が詰まる。

ショックで国を飛び出していたかもしれない。

ムークはその後ラッカルで騎士になったのだが、結婚して家庭を持つ事に恐怖心を抱いてしまったんだって。

自分の子供が魔力拒否症として産まれ、自分より早く亡くなったらと思うと、怖かったそうだ。

「…情けない話ですが、悲しみを断ち切ろうとこちらへ移住しました。皇室に仕えテオドール殿下と交流するうちに冒険者に憧れ、ここに腰を据える事になりました。ギル様が薬草ばかり探している時、貴方が魔力拒否症の兄を救うためにレッドドラゴンリーフを探していると知り、胸を打たれましたよ。子供だと言うのに、なんて強いのだろうと。私は過去に背を向けたくせに、過去に囚われたままでしたからね」

レッドドラゴンリーフの成功を目の当たりにして、ムークはやっと自分に目を向けたと笑う。

「ようやく、自分で自分の道を歩こうと決めました。ずっと待っていていくれたママルと、家族になる決心も付きましたしね」

おお!

レッドドラゴンリーフが二人を繋いだのなら、感無量だよ。

ムークはギルドで俺を自由にさせてくれたし、ママルは面倒見が良くて、絡まれる俺をそれとなく助けてくれたり、尻を叩いてくれた。

特に肩肘を張っていた俺に、平民の流行や作法を教えてくれたのはママルだ。

きっとママルも俺が貴族か何かで、お忍びで薬草を探しているのを気が付いていたのだろう。

「二人が夫婦になって、とても嬉しく思っています。あの頃の私は余裕が無い子供で、本当に生意気だったでしょう?それに、に畏まった話し方はしなくて良いよ」

俺がそう言うと、ムークはガハハといつも通りに笑う。

「それは…!それはそうでしたがね。薬草ばかり集めてる、腕も身なりも良い子供は心配でしたよ。それでも魔力拒否症を治す為に駆け回っていると知ったら、協力したくなるもんです。レッドドラゴンと接触出来て、こちらにはもう来ないだろうとテオドール殿下に聞いた時は、寂しかったけど嬉しかったですからね」

「挨拶も碌にせず、申し訳無かったね」

俺の言葉に、ムークは首を振る。

「時間が無かったんでしょう?魔力拒否症で十五を超えていたら時間の問題だ。間に合って良かった」

「…ありがとう」

ほんわかした空気をくすぐったく思っていたら、テオもゼラン伯爵も優しい目て頷いていた。

あ、そうだ!

ゼランもムークも、大きな大きな伝手があるって事は…。

空気は読まないギル様は、ここで話をガラって変えてしまいます。

「そうそう。話は変わりますが、実はこちらのギルドに卸したい商品があるのですが」

「…商品?」

俺がガラッと話を変えるので、周りは目を瞬いて驚いている。

テオはいつもの俺に戻ったと、面白そうに笑っていたけどね。

「はい。こちらのギルド…。と言うか、ゼラン領を主に輸出先にしたいのです」

「はぁ…」

ゼラン伯爵も会話に巻き込むと、レモルトの酒か製品かという流れになるが、違う違う。

そりゃあ、レモルトの酒やらなんやらもこちらを主に出して行こうとは思うけど、もっと重要なモノがあるでしょ?

「レッドドラゴンリーフですよ」

「「!!」」

俺がサラッと言うと、ムークとゼラン伯爵は大層驚いており、テオは楽しそうに笑った。

「し、しかしレッドドラゴンリーフは、まずは帝都からでは…」

ゼラン伯爵の言葉に、帝都にも卸しはしますけどと説明を始める。

「もちろん帝都にも卸しはします。ですが、平民には届きにくいでしょう?こちらだったら信用出来る冒険者も多くいるから、薬草を運ぶ人手も確保できるじゃないですか。それに、お二人の伝手でしたら、ラッカルやスノラリアにも販路を広げられそうですからね。ついでにレモルトの宣伝にも利用させて頂きたいのです」

「冒険者を運搬に…。いや、それくらい重要なモノではあるから、一理あるな」

「確かに。更に他国へ輸出するとなると、冒険者がついて行った方が何かと便利ではある。レモルトは温泉などの癒しを売りにしている旅行先として売り出すのでしょう?ゆったりと過ごしたい富裕層に向けた、送迎もまた人気が出そうだな。引退した後の冒険者達の雇用にも繋がりそうだ」

おお、ゼラン伯爵ったら先の事まで考えだしたね。

サーディンにチラリと目を向けると、すぐにジャメルへの連絡の準備を始めてくれる。

ホセ兄様も、販路については手探りだと悩んでいたし、良い考えだと思うんだ。

俺はレモルトも盛り上げたいけれど、周りも盛り上げたいから、良い方向に行きそうだ。

これは良い戦力を手に入れたゾォ~!



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