隠れジョブ【自然の支配者】で脱ボッチな異世界生活

破滅

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闘技大会

どうも、どうやら初戦は修行の成果を見せる場のようです

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シャルテン武闘大会、当日。
街は、年に一度の祭典に、朝から浮き足立っていた。大通りには色とりどりの旗がはためき、普段は閑散としている広場には、香ばしい匂いを漂わせる屋台がずらりと並んでいる。誰もが、これから始まる強者たちの饗宴に、期待と興奮で顔を輝かせていた。

「すごい人出ですね、ショウさん……」
「ああ。街中の人間が、全員ここに集まってきたみたいだな」

俺とシュタ、そして俺の肩に乗ったリルは、人の波をかき分けるようにして、街の外れに新設された、巨大な闘技場(アリーナ)へと向かっていた。シュタは、俺以上に緊張しているのか、その手を固く握りしめている。その手には、昨夜、夜なべして作ってくれたという、手製の小さな革のお守りが握られていた。

闘技場は、古代の円形劇場を思わせる、巨大な石造りの建造物だった。その威容と、中から漏れ聞こえてくる地鳴りのような歓声に、俺はゴクリと喉を鳴らす。

「……じゃあ、行ってくる」
「はい……!絶対に、無茶だけはしないでくださいね!私、ここでリルちゃんと一緒に、ずっと応援してますから!」
「わかってる。シュタが作ってくれる、特製の祝勝会ディナーが冷めないうちに、必ず帰ってくるさ」

俺は、そう言って彼女を安心させるように笑うと、選手専用の入り口へと向かった。
控え室は、鉄と汗と、そしてむき出しの闘争心の匂いで満ちていた。屈強な肉体を誇る戦士たちが、愛用の武器を手入れし、静かに精神を集中させている。その誰もが、俺がこれまで戦ってきたどの魔物よりも、強いプレッシャーを放っていた。

俺が、この中で一番小柄で、そして若いことは間違いなかった。だが、もはや俺を侮る者は、一人もいない。ワイバーンを討伐し、鬼のガルドの『弟子』とまで噂されるようになった俺――『彗星のショウ』。それが、今の俺の、この街での評価だった。

俺は、部屋の隅で静かに目を閉じ、ガルドさんに叩き込まれた『呼吸法』で、心を静めていく。高揚感と、緊張感。その二つを、魔力と共に、静かに、そして淀みなく、全身へと巡らせる。

やがて、大会の開始を告げるファンファーレが鳴り響き、拡声器の魔道具を通して、対戦カードが読み上げられ始めた。そして、ついに俺の番が来た。

「第一試合、赤コーナー!『鉄牙傭兵団』所属、その豪腕で数多の魔物を粉砕してきた、『粉砕のトルガ』選手!」

雄叫びと共に、闘技場へと姿を現したのは、熊のように巨大な体躯を持つ、大男だった。その肩には、人の胴体ほどもある、巨大な戦槌(モール)が担がれている。

「対するは、青コーナー!彗星の如く現れた、ギルド期待のCランク!鬼のガルドが見出した若き才能、『彗星のショウ』こと、ショウ・カンザキ選手!」

俺は、静かに闘技場の土を踏んだ。
ワアアアアアッ!と、割れんばかりの大歓声が、俺の体を包む。その熱気に、俺の血が、静かに、しかし、確かに滾り始めるのを感じた。

「ケッ!こいつが、あの噂の小僧か!へし折ってやるには、丁度いい細さの枝じゃねぇか!」

トルガと呼ばれた男が、下品な笑みを浮かべて俺を挑発する。俺は、答えなかった。ただ、静かに、『隠形の鞘』から、愛用のナマクラを抜き放つ。
観客席から、「おい、あの剣、刃こぼれだらけだぜ」「やる気あんのか?」という声が聞こえた。

審判が、試合開始の合図を送る。
その瞬間、トルガが動いた。
「まずは、挨拶代わりだ!――『グランドクラッシャー』!」
彼は、ただの突進ではない。スキルを発動させ、その巨体を、まるで暴走する城壁のように、凄まじい勢いで俺へと向かってくる。戦槌が、大地を削りながら、俺の体を粉砕せんと迫った。

だが、俺は、その場から一歩も動かなかった。
ただ、半身になり、その攻撃の力の流れを、完全に見切る。

(――ここだ)

トルガの戦槌が、俺の鼻先を掠める、その寸前。俺は、ガルドさんとの修行で体に刻み込んだ『型』を実行する。
体を、コマのように回転させ、攻撃を受け流す。同時に、足捌きで、トルガの死角へと滑り込んだ。

「なにっ!?」

空振りしたトルガに、一瞬の硬直が生まれる。その隙を、俺は見逃さない。

「――『刀身付与』」

俺がそう呟くと、刃こぼれのナマクラが、まばゆいばかりの蒼白い光を放った。観客席が、どよめく。

俺は、トルガの巨体を狙わない。狙うは、その武器の『柄』。
魔力を纏った俺の剣が、戦槌の柄を、下から打ち上げるように、弾いた。

キィン!という甲高い音。
トルガの巨体が、自らの武器の重さと、俺が受け流した力によって、大きくバランスを崩す。

「こ、の、ガキィ!」

体勢を立て直そうとするトルガ。だが、その動きは、あまりにも大きい。
俺は、その無防備な背後へと回り込み、剣の柄――柄頭(ポメル)――を、まるで針を刺すかのように、彼の首の付け根にある、神経が集中する一点へと、的確に、そして、容赦なく叩き込んだ。

ゴツッ、という、硬い音。
それは、図書館で得た『モンスター知識』と、ガルドさんに叩き込まれた『体術』の、複合技だった。

「――がっ!?」

トルガの巨体が、ビクン、と大きく痙攣した。その目が見開かれ、口から、意味をなさない声が漏れる。そして、その巨体は、まるで糸が切れた操り人形のように、ゆっくりと、前のめりに、闘技場の土の上へと崩れ落ちた。
完全に、意識を失っている。

「…………」

あれほど熱狂していた闘技場が、水を打ったように、静まり返っていた。
誰もが、今、目の前で起きたことが、信じられない、といった顔をしている。あの『粉砕のトルガ』が、ただの一撃で、それも、剣の刃ではなく、柄の一撃で、沈黙したのだ。

やがて、審判が、恐る恐るトルガの元へ駆け寄り、その状態を確認すると、震える声で、高々と、宣言した。

「しょ、勝者、ショウ・カンザキ――ッ!!」

その言葉を皮切りに、今度は、先ほどとは比べ物にならないほどの、爆発的な大歓声が、闘技場を揺るがした。

俺は、その歓声に背を向け、静かに剣を鞘に納める。
VIP席で、この街の領主が、驚愕の表情で身を乗り出しているのが見えた。
観客席の片隅で、Sランク冒険者のロイド・クルーシュが、面白そうに、口笛を吹いているのが見えた。
そして、遠くの観客席で、シュタが、目に涙をいっぱいに溜めて、リルと一緒に、何度も、何度も、手を振ってくれているのが、見えた。

俺は、ただの一撃で、この大会の、最大のダークホースとしての地位を、確固たるものにした。
修行の成果は、十分すぎるほどだった。俺は、静かに、次の対戦相手が表示される掲示板を、見据えた。
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