隠れジョブ【自然の支配者】で脱ボッチな異世界生活

破滅

文字の大きさ
47 / 74
世界樹への道のり

おまけ:どうも、どうやら我が家のペットは可愛すぎるようです

しおりを挟む
ジュッテルの、フィンステイン商会が用意してくれた、最高級宿の、広大なスイートルーム。その、陽当たりの良いバルコニーで、俺たちは、穏やかな昼下がりのひとときを、過ごしていた。
眼下には、ジュッテルの、活気ある街並みが広がり、遠くには、大河が、キラキラと輝いている。

「んー!美味しいです!このお紅茶、すごくいい香りがしますね!」

シュタが、テーブルに並べられた、色とりどりのプチフールと、最高級の紅茶を、幸せそうに、楽しんでいる。彼女の膝の上では、リルが、体を、ぷるぷると、心地よさそうに揺らしていた。
そして、俺の隣の椅子の上では、シルフィが、その、若葉でできた美しい翼を、日向ぼっこするように、優雅に広げている。

シルフィが、俺たちの家族になってから、数日が過ぎた。
この光景は、あまりにも、平和で、穏やかで、俺が、かつていた、殺伐とした世界や、この世界に来てからの、死闘の日々が、全て、嘘だったかのように、思えた。

「さて、と。お前たちにも、特別デザートだ」

俺は、そう言うと、ストレージから、二つの、特別な果実を取り出した。
一つは、リルが、何よりも、大好きな、『リーファの実』。
そして、もう一つは、フィンステイン商会から、シルフィのためにと、特別に、取り寄せてもらった、風の属性を持つ、聖獣が好むという、希少な『風切りリンゴ』だ。

「まずは、リルからな。ほら」

俺が、赤く熟した、リーファの実を、手のひらに乗せて、差し出すと、リルは、それを、目にした瞬間、その緑色の体を、これ以上ないくらい、きらきらと、輝かせた。
そして、シュタの膝の上から、ぴょんと飛び降りると、俺の元へと、一目散に、跳ねてくる。

俺は、そんなリルの姿に、思わず、笑みがこぼれる。本当に、人懐っこい性格で、その行動の一つ一つがとても可愛らしい。

リルは、俺の手のひらの上の、リーファの実を、その体で、優しく、包み込むようにして、食べた。そして、その、至福の味を、全身で、味わうかのように、しばらく、うっとりと、していたが、やがて、その喜びを、爆発させた。

「キュッ!キュ~~!」

リルは、嬉しそうな鳴き声を上げながら、その場で、体を、左右に、大きく、楽しげに、揺らし始めた。 その、全身で、喜びを表現する姿は、何度見ても、飽きることがない。

「ははっ、そんなに、美味いか」
「ふふっ、リルちゃん、本当に、嬉しそうですね」

シュタも、その姿を見て、目を細めている。
一頻り、喜びのダンスを終えたリルは、満足したのか、今度は、俺の服を、その器用な体で、よじよじと、登り始めた。 そして、いつもの、定位置である、俺の肩の上に、ちょこんと収まると、甘えるように、俺の頬に、その、ぷにぷにした体を、すり寄せてきた。その仕草が、また、たまらなく可愛すぎる。

「よしよし。次は、シルフィの番だな」

俺は、もう一つの『風切りリンゴ』を、シルフィの前に、差し出した。それは、切ると、断面から、爽やかな風が、吹き出すという、不思議な果物だ。
シルフィは、その、澄み切った、青空のような瞳で、リンゴと、俺の顔を、交互に見比べた。 その瞳の奥には、古く賢い知性の光が宿っている。 そして、「ピィ」と、小さく鳴くと、その、鋭い鷲の嘴で、リンゴの皮を、器用に、剥き始めた。

その食べ方は、リルのように、豪快ではない。まるで、高貴な、お嬢様が、食事をするかのように、上品で、洗練されていた。
シルフィは、満足そうに、リンゴを食べ終えると、今度は、俺の足元へと、歩み寄ってきた。そして、甘えるように、その、若葉の羽毛でできた頭を、俺の足に、優しく、すり、と、擦り付けてくる。

「……くっ」

その、不意打ちの、あまりの、愛らしさに、俺の、心の、固く閉ざされていた部分が、音を立てて、溶けていくのを感じた。
なんだ、この、可愛い生き物は。これが、あの、伝説の、世界樹の眷属だというのか。

俺が、そんな、親バカのような、感慨に耽っていると、不意に、シルフィは、何かを、思い出したかのように、顔を上げた。そして、テーブルの上に置かれた、シュタが、食べ終えた、デザートの皿の、その、横にある、銀のフォークへと、興味津々に、近づいていく。

「ピィ?」

シルフィは、不思議そうに、小首を傾げると、その、キラキラと輝く、銀の食器を、その嘴で、カチ、カチ、と、突いて、遊び始めた。 その、無邪気な姿に、俺とシュタは、思わず、顔を見合わせ、笑ってしまった。

「――シルフィ、空、飛ぶか?」

俺が、心の中で、『共鳴感応』を通して、そう、語りかけると、シルフィは、俺の意図を、完全に、理解したらしい。

「ピィーッ!」

彼女は、嬉しそうに、そして、高らかに、一声鳴くと、その、若葉の翼を、大きく、広げた。 そして、バルコニーの手すりを、軽やかに、蹴り、ジュッテルの、青い空へと、舞い上がる。
シルフィの、その飛行は、何度見ても、神秘的だった。風そのものに、愛されているかのように、大空を、自在に、舞う。急上昇、急降下、そして、空中で、ぴたりと静止する、ホバリング。その、全ての動きが、美しく、そして、力強い。

俺の肩の上で、リルも、そんなシルフィの姿を、羨ましそうに、見つめている。
やがて、シルフィは、空での、散歩を終えると、俺の元へと、舞い降りてきた。そして、リルと、顔を、寄せ合う。

「キュ?」
「ピィ?」


お互いの、匂いを、嗅ぎ合うように、しばらく、見つめ合っていた二匹だったが、やがて、リルが、その小さな体で、シルフィの頭を、ポン、と優しく叩くと、シルフィも、嬉しそうに、応えた。

「――ピィキュ!」

二匹の、可愛らしい鳴き声が、バルコニーに、重なり合う。

俺は、その、あまりにも、平和で、あまりにも、愛おしい光景を、ただ、黙って、見つめていた。
異世界に来て、ボッチで、絶望の淵にいた、俺。
そんな俺に、今、こんなにも、温かくて、かけがえのない、家族が、できた。

俺は、シュタの手を、そっと、握る。彼女も、優しく、握り返してくれた。
この、幸せを、守るためなら、俺は、なんだって、できる。
俺は、心に、強く、そう、誓うのだった。
しおりを挟む
感想 119

あなたにおすすめの小説

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

充実した人生の送り方 ~妹よ、俺は今異世界に居ます~

中畑 道
ファンタジー
「充実した人生を送ってください。私が創造した剣と魔法の世界で」 唯一の肉親だった妹の葬儀を終えた帰り道、不慮の事故で命を落とした世良登希雄は異世界の創造神に召喚される。弟子である第一女神の願いを叶えるために。 人類未開の地、魔獣の大森林最奥地で異世界の常識や習慣、魔法やスキル、身の守り方や戦い方を学んだトキオ セラは、女神から遣わされた御供のコタローと街へ向かう。 目的は一つ。充実した人生を送ること。

彼に勇者は似合わない!

プリン伯爵
ファンタジー
連日の残業で終電帰りのサラリーマン、神無月無名21歳。 ある夜、突然足元の光に包まれ異世界へと召喚されてしまう。 そこは豪華絢爛な王宮。 第一王女ラクティスは、彼を含む男女5人を「勇者」として召喚したと告げる。 元の世界では時間がほぼ止まっているという説明を受け、半ば強制的に魔国との戦いに協力することになった無名たち。 発現した無名の紋章は歴代でも最高クラスを示し万能の勇者と称され、周囲を驚愕させる。 元の世界への帰還を条件に口頭で協力を約束する勇者たちだが、無名だけは王家に対し警戒心を抱き、王に元の世界への帰還とこの世界で得た力を持ち帰ることを書面で約束させる。 協調性がないと周囲から思われながらも、己の最適解を優先する無名は、果たして他の勇者たちと協力し、魔国を打ち倒して元の世界へ帰ることができるのか。 それぞれの思惑が交錯する中、勇者たちの戦いが幕を開ける。 これは社会不適合者が歩む成長の物語。

異世界ビルメン~清掃スキルで召喚された俺、役立たずと蔑まれ投獄されたが、実は光の女神の使徒でした~

松永 恭
ファンタジー
三十三歳のビルメン、白石恭真(しらいし きょうま)。 異世界に召喚されたが、与えられたスキルは「清掃」。 「役立たず」と蔑まれ、牢獄に放り込まれる。 だがモップひと振りで汚れも瘴気も消す“浄化スキル”は規格外。 牢獄を光で満たした結果、強制釈放されることに。 やがて彼は知らされる。 その力は偶然ではなく、光の女神に選ばれし“使徒”の証だと――。 金髪エルフやクセ者たちと繰り広げる、 戦闘より掃除が多い異世界ライフ。 ──これは、汚れと戦いながら世界を救う、 笑えて、ときにシリアスなおじさん清掃員の奮闘記である。

間違い転生!!〜神様の加護をたくさん貰っても それでものんびり自由に生きたい〜

舞桜
ファンタジー
「初めまして!私の名前は 沙樹崎 咲子 35歳 自営業 独身です‼︎よろしくお願いします‼︎」  突然 神様の手違いにより死亡扱いになってしまったオタクアラサー女子、 手違いのお詫びにと色々な加護とチートスキルを貰って異世界に転生することに、 だが転生した先でまたもや神様の手違いが‼︎  神々から貰った加護とスキルで“転生チート無双“  瞳は希少なオッドアイで顔は超絶美人、でも性格は・・・  転生したオタクアラサー女子は意外と物知りで有能?  だが、死亡する原因には不可解な点が…  数々の事件が巻き起こる中、神様に貰った加護と前世での知識で乗り越えて、 神々と家族からの溺愛され前世での心の傷を癒していくハートフルなストーリー?  様々な思惑と神様達のやらかしで異世界ライフを楽しく過ごす主人公、 目指すは“のんびり自由な冒険者ライフ‼︎“  そんな主人公は無自覚に色々やらかすお茶目さん♪ *神様達は間違いをちょいちょいやらかします。これから咲子はどうなるのか?のんびりできるといいね!(希望的観測っw) *投稿周期は基本的には不定期です、3日に1度を目安にやりたいと思いますので生暖かく見守って下さい *この作品は“小説家になろう“にも掲載しています

異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。

もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。 異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。 ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。 残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、 同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、 追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、 清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……

処理中です...