隠れジョブ【自然の支配者】で脱ボッチな異世界生活

破滅

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世界樹探索編

どうも、どうやら魂の奪還は夜陰に紛れて行うようです

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俺たちの新しい船出は、まず船を取り返すことから始まった。
その夜、俺たちはオーシャンズ・ゲートで最高級の宿屋とは到底思えない港の薄暗い倉庫に集まっていた。目の前には海猫のマリーナが広げた一枚の古い羊皮紙。黒渦商会が根城にする私設ドックの見取り図だ。
「奴らのドックは、この港で一番警備が固い。見張り塔が三つ。常時30人以上のならず者が巡回している」
マリーナがその鋭い瞳で見取り図を指し示す。「正面からの突破は自殺行為だ。やるなら夜。それも潮が満ち、霧が最も深くなる真夜中の一時間だけがチャンスさ」
「……奇襲、ということか」
「ああ。あたしがあんたたちをドックの裏手にある古い水路まで、手漕ぎの小舟で案内する。そこから内部に侵入し、奴らの目を盗んで、あたしの魂(ふね)……『シーサーペント号』を奪い返すんだ」
無謀な作戦。だが今の俺たちにはそれしか選択肢はなかった。

ドック潜入
俺たちは作戦の役割を確認する。マリーナは案内役と船の魔法的な拘束を解く役。シュタはその俊足を生かした斥候と遊撃。リルとシルフィは後方からの特殊支援。そして俺が潜入と戦闘の主軸となる。作戦決行は今夜。
俺たちは黒い夜盗のような動きやすい服に着替えた。そしてマリーナの先導で夜の闇へと溶け込んでいく。

真夜中の港は不気味なほど静かだった。俺たちの乗った小舟が音もなく水面を滑っていく。やがて目の前に黒渦商会の巨大な私設ドックがその威容を現した。サーチライトのように定期的に周囲を照らす見張り塔の光。その光を避けながら俺たちは目的の古い水路の鉄格子の前にたどり着いた。

「リル、頼む」
俺の合図でリルがポーチからするりと抜け出す。そしてそのスライムの体で鉄格子の僅かな隙間を通り抜け、内側から古い錠前を器用にこじ開けた。
俺たちは音もなくドックの内部へと侵入する。マリーナが慣れた様子で俺たちを物陰から物陰へと導いていく。
前方の通路を二人の見張りが歩いてくる。シュタの姿がふっと消えた。
次の瞬間、見張りたちは声も出さずにその場に崩れ落ちていた。彼女の神速の手刀が二人の意識を的確に刈り取ったのだ。
順調だ。順調すぎた。

海魔犬との戦闘
俺たちはついにドックの最も奥。一隻の美しい、しかし今は鎖に繋がれた船が係留されている場所へとたどり着いた。
あれがシーサーペント号。マリーナの魂。

「……待ちな」
マリーナが俺たちの足を止めた。彼女の視線の先。船を守るように二つの巨大な影が微動だにせず潜んでいた。
「……海魔犬(シードッグ)。黒渦商会が錬金術で生み出した番犬だ。鼻が利き、水中でも自在に動く。……厄介だよ」
俺が前に出ようとしたその時、二匹の海魔犬はすでに俺たちの存在に気づいていた。
グルルルルル、と低い唸り声が響く。

「――殺れ」
俺は短く告げた。
俺とシュタが同時に左右から飛び出す。海魔犬はその巨体に似合わぬ俊敏さで俺たちの攻撃をかわした。そしてその口から強酸性の粘液を吐き出してくる。
俺はそれを、『天樹』で弾き返す。浄化の光を纏った俺の剣は、奴らの穢れた攻撃と相性がいい。
シュタは壁を蹴り、天井を走り、その立体的な動きで敵を翻弄する。
だが海魔犬は二匹。その連携は完璧だった。一方が俺の攻撃を受け止め、もう一方がシュタの死角を突いてくる。

「ピィィッ!」
そのシュタの危機を救ったのはシルフィだった。
上空から放たれた真空の刃が海魔犬の顔面を切り裂く。
「キュー!」
リルも援護する。地面に粘着性の罠を張り、敵の動きを僅かに封じた。
その一瞬の隙。
「――今だ!」
俺とシュタの剣と蹴りが同時に一匹の海魔犬の心臓部を貫いた。
残るは一体。

絶望的な包囲網
その一体が最後の力を振り絞り、甲高い警報のような咆哮を上げた。
その瞬間だった。
ジリリリリリリリリン!
ドック全体にけたたましい警報ベルの音が鳴り響いた。
「……ちっ!しくじったか!」
マリーナが悪態をつく。
俺は残った最後の一匹を、『天樹』の一閃で沈黙させた。
「マリーナ!船は!」
「もう、いつでも出せる!」
彼女はすでにシーサーペント号を縛る魔法の鎖を解き放っていた。
俺たちは大急ぎで船の甲板へと飛び乗る。

だが、すでに遅かった。
ドックの至る所から松明の光と怒号が俺たちへと殺到してくる。
「逃がすなァ!侵入者だ!」
「船を奪われるぞ!」
サーチライトの光が俺たちを完全に捉えた。
俺たちはシーサーペント号の上で完全に包囲されてしまった。
俺は船の舵輪を強く握りしめる。
魂は取り返した。
だがこの絶望的な包囲網。
どうやって突破する?


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