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世界樹探索編
どうも、どうやら世界の中心には大樹が聳えているようです
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嵐が過ぎ去った静寂の海。俺たちはその水平線に浮かび上がったあまりにも巨大な影に、ただ言葉を失っていた。「……嘘だろ……」マリーナが海の全てを知り尽くしたはずの瞳を信じられないように見開いて呟いた。それは大陸でも島でもない。天を、いやこの世界そのものを支えるかのように雲を突き抜け、どこまでも高く聳え立つ一本の巨大な『樹』。その枝の一本一本が大陸ほどの大きさを持ち、その葉の一枚一枚が森のように茂っていた。
俺の手の中にある『光の種子』がひときわ強く、そして温かい光を放ち脈打っていた。間違いない。あれが俺たちがずっと目指してきた場所。全ての生命の母にして、俺にこの力を与えてくれた存在――世界樹だ。
俺たちの船は導かれるようにその大樹へと進んでいった。近づくにつれて、万劫の海域の黒く淀んだ海水はその色を失っていく。代わりに透き通るようなエメラルドグリーンの清浄な海が広がっていた。空を覆っていた不気味な紫色の雲もいつしか消え去り、大樹そのものが放つ穏やかで優しい黄金の光が世界を包み込んでいる。
数日後。俺たちはついにその大樹の麓へとたどり着いた。そこはもはや砂浜ではない。世界樹の巨大な巨大な根が大地そのものを形成していた。シーサーペント号はその根が作り出す穏やかな湾に静かに停泊した。俺たちの長い長い船旅はここで終わりを告げた。
マリーナとの別れ
俺たちは甲板の上でマリーナと向き合っていた。「……マリーナ。あんたがいなければ俺たちはここまで来れなかった。本当に感謝している」俺は成功報酬として約束していた莫大な金貨が詰まった革袋を彼女に差し出した。
だがマリーナは静かに首を横に振った。「……いらないよ」「……え?」
「あたしはあんたたちから金なんかよりよっぽど大事なものを貰ったからね」
彼女はそう言うとシーサーペント号の美しい舵輪を愛おしそうに撫でた。「あたしは魂(ふね)を取り返した。そして船乗りとして最高の冒険をさせてもらった。……もうそれで十分すぎるくらいさ」マリーナはそう言ってニカッと笑った。その顔には俺たちが最初に出会った時の諦観の色はもうどこにもなかった。
彼女は一つの美しい巻貝を俺に手渡した。「そいつは『潮騒の呼び笛』だ。あたしに何か用がある時はそいつを海に向かって吹いときな。世界のどこにいても必ず駆けつけてやるからさ」
「……ああ。必ずまた会おう」
俺たちは固い握手を交わした。
そして俺とシュタ、リル、シルフィはシーサーペント号を降り、ついに世界樹の大地へとその第一歩を記した。
世界樹の化身との対話
大地は柔らかい苔で覆われていた。空からは常に温かい黄金の光が降り注ぎ、空気は生命の香りに満ちている。ここが世界の中心。
だがそのあまりにも神々しい光景の中で、俺たちは一体の存在に気づいた。俺たちの進むべき道のその先に、一体の巨大な何かが静かに佇んでいた。それは光そのもので編み上げられたかのような巨大な竜の姿をしていた。その体は輝く木の蔦と若葉で覆われている。その存在から俺はオリオンやアルベリオン、そしてシルフィから感じるものと同じ、しかし比べ物にならないほど強大で根源的な気配を感じ取っていた。
『――よく、ここまで、たどり着きました』
その声は口から発せられたものではない。優しく、そしてどこまでも荘厳な声が俺たちの脳内に直接響き渡った。
『私は、世界樹の化身。この聖域を守る者』
世界樹の化身は、その星空を映したような瞳で俺を真っ直ぐに見つめた。
『小さき、自然の支配者よ。あなたに問います。なぜ、あなたなのですか?なぜ、世界は、あなたを、選んだのですか?』
それは試練だった。力や技を試すのではない。俺の魂そのものの在り方を問う、最後の試練。
俺は静かに『天樹』を地面に突き立てる。そして正直に自分の全てを語った。
ボッチだった俺のこと。
この世界に来て絶望したこと。
そしてかけがえのない仲間たちと出会い、守りたいものができたこと。
「俺は強くない。俺は完璧じゃない。……でも、俺はもう一人じゃない。俺は俺を信じてくれる、この仲間たちと一緒にこの世界を守りたい。……ただそれだけだ」
俺のその飾らない言葉を世界樹の化身はただ静かに聞いていた。
やがてその巨大な光の竜は満足そうに深く頷いた。
『……合格です、支配者よ。あなたのその小さく、しかし何よりも強い想い。それこそが、この傷ついた世界を癒す唯一の力となるでしょう』
化身がそう言うと、俺たちの目の前の空間がゆっくりと歪み始めた。そしてそこには世界樹の、その巨大な幹の内部へと続く一本の光の道が現れた。
『進みなさい、ショウ・カンザキ。そして、その仲間たちよ』
化身の声が響き渡る。
『母なる樹は、あなたたちの、到着を待っています。その手に持つ、光の種子を、その心臓部へと、届けるのです。世界の運命は、今、あなたたちの、その手に』
俺たちは顔を見合わせる。そして力強く頷いた。
俺たちの本当の最後の冒険が、今、この光の道から始まるのだ。
俺の手の中にある『光の種子』がひときわ強く、そして温かい光を放ち脈打っていた。間違いない。あれが俺たちがずっと目指してきた場所。全ての生命の母にして、俺にこの力を与えてくれた存在――世界樹だ。
俺たちの船は導かれるようにその大樹へと進んでいった。近づくにつれて、万劫の海域の黒く淀んだ海水はその色を失っていく。代わりに透き通るようなエメラルドグリーンの清浄な海が広がっていた。空を覆っていた不気味な紫色の雲もいつしか消え去り、大樹そのものが放つ穏やかで優しい黄金の光が世界を包み込んでいる。
数日後。俺たちはついにその大樹の麓へとたどり着いた。そこはもはや砂浜ではない。世界樹の巨大な巨大な根が大地そのものを形成していた。シーサーペント号はその根が作り出す穏やかな湾に静かに停泊した。俺たちの長い長い船旅はここで終わりを告げた。
マリーナとの別れ
俺たちは甲板の上でマリーナと向き合っていた。「……マリーナ。あんたがいなければ俺たちはここまで来れなかった。本当に感謝している」俺は成功報酬として約束していた莫大な金貨が詰まった革袋を彼女に差し出した。
だがマリーナは静かに首を横に振った。「……いらないよ」「……え?」
「あたしはあんたたちから金なんかよりよっぽど大事なものを貰ったからね」
彼女はそう言うとシーサーペント号の美しい舵輪を愛おしそうに撫でた。「あたしは魂(ふね)を取り返した。そして船乗りとして最高の冒険をさせてもらった。……もうそれで十分すぎるくらいさ」マリーナはそう言ってニカッと笑った。その顔には俺たちが最初に出会った時の諦観の色はもうどこにもなかった。
彼女は一つの美しい巻貝を俺に手渡した。「そいつは『潮騒の呼び笛』だ。あたしに何か用がある時はそいつを海に向かって吹いときな。世界のどこにいても必ず駆けつけてやるからさ」
「……ああ。必ずまた会おう」
俺たちは固い握手を交わした。
そして俺とシュタ、リル、シルフィはシーサーペント号を降り、ついに世界樹の大地へとその第一歩を記した。
世界樹の化身との対話
大地は柔らかい苔で覆われていた。空からは常に温かい黄金の光が降り注ぎ、空気は生命の香りに満ちている。ここが世界の中心。
だがそのあまりにも神々しい光景の中で、俺たちは一体の存在に気づいた。俺たちの進むべき道のその先に、一体の巨大な何かが静かに佇んでいた。それは光そのもので編み上げられたかのような巨大な竜の姿をしていた。その体は輝く木の蔦と若葉で覆われている。その存在から俺はオリオンやアルベリオン、そしてシルフィから感じるものと同じ、しかし比べ物にならないほど強大で根源的な気配を感じ取っていた。
『――よく、ここまで、たどり着きました』
その声は口から発せられたものではない。優しく、そしてどこまでも荘厳な声が俺たちの脳内に直接響き渡った。
『私は、世界樹の化身。この聖域を守る者』
世界樹の化身は、その星空を映したような瞳で俺を真っ直ぐに見つめた。
『小さき、自然の支配者よ。あなたに問います。なぜ、あなたなのですか?なぜ、世界は、あなたを、選んだのですか?』
それは試練だった。力や技を試すのではない。俺の魂そのものの在り方を問う、最後の試練。
俺は静かに『天樹』を地面に突き立てる。そして正直に自分の全てを語った。
ボッチだった俺のこと。
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そしてかけがえのない仲間たちと出会い、守りたいものができたこと。
「俺は強くない。俺は完璧じゃない。……でも、俺はもう一人じゃない。俺は俺を信じてくれる、この仲間たちと一緒にこの世界を守りたい。……ただそれだけだ」
俺のその飾らない言葉を世界樹の化身はただ静かに聞いていた。
やがてその巨大な光の竜は満足そうに深く頷いた。
『……合格です、支配者よ。あなたのその小さく、しかし何よりも強い想い。それこそが、この傷ついた世界を癒す唯一の力となるでしょう』
化身がそう言うと、俺たちの目の前の空間がゆっくりと歪み始めた。そしてそこには世界樹の、その巨大な幹の内部へと続く一本の光の道が現れた。
『進みなさい、ショウ・カンザキ。そして、その仲間たちよ』
化身の声が響き渡る。
『母なる樹は、あなたたちの、到着を待っています。その手に持つ、光の種子を、その心臓部へと、届けるのです。世界の運命は、今、あなたたちの、その手に』
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俺たちの本当の最後の冒険が、今、この光の道から始まるのだ。
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