隠れジョブ【自然の支配者】で脱ボッチな異世界生活

破滅

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世界樹探索編

どうも、どうやら自然の支配者は世界を抱きしめるようです

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俺たちは世界樹の化身が開いた光の道へと足を踏み入れた。その瞬間、世界樹の内部へと導かれていた。

そこは俺の想像を遥かに超えた神聖な空間だった。巨大な大聖堂のような空洞。壁や天井はまるで生きているかのようにゆっくりと脈打つ黄金色の樹皮で覆われている。壁を川のように流れているのは樹液だろうか。いや、違う。これはこの世界そのものの生命エネルギーの奔流だ。空気は清浄な生命の香りに満ち、ただ息をするだけで俺たちの旅の疲れが癒されていくのがわかった。

だが同時に俺は見てしまった。その神々しい光景の中に点在するおぞましい黒い染みを。黒き星の穢れが残した深く、深い傷跡。世界樹は今も苦しんでいる。

俺たちは光の道に導かれるまま、その大樹のさらに奥深くへと進んでいった。そしてついにたどり着いた。全ての中心。世界の心臓部へ。
そこはひときわ巨大なドーム状の空間だった。そしてその中央に、それは静かに浮かんでいた。巨大な光の水晶。ドクン、ドクンと弱々しく、しかし確かに脈打っている。世界樹の心臓だ。

だがその美しい水晶には何本もの黒い亀裂が走っていた。その亀裂から僅かに穢れの瘴気が漏れ出している。俺は仲間たちを振り返った。シュタが、リルが、シルフィが、俺をただまっすぐな信頼の瞳で見つめている。俺は頷いた。そして一人、祭壇の中央へと歩みを進める。

世界樹の回復と真実の啓示
俺は手のひらにある『光の種子』を見つめた。黒き星の絶望の全てが浄化され、生まれ変わった希望の種子だ。俺はその種子を世界樹の傷ついた心臓へとそっと押し当てた。そして目を閉じる。

俺は俺のジョブ、【自然の支配者】のその力の全てを解放した。それは何かを支配するための力ではない。何かを育み、癒し、そして愛おしむための力。俺の全ての想いが光の種子を触媒として世界樹の心臓へと流れ込んでいく。シュタの笑顔。リルの温もり。シルフィの信頼。ガルドの教え。オリオンの願い。俺がこの世界で出会った全ての絆。その全てが温かい翠色の光となった。

光の種子と世界樹の心臓が一つに溶け合っていく。その瞬間だった。
ズウウウウウウウウウウウンッ!!
世界樹の心臓がこれまでで最も力強く、そして生命力に満ちた鼓動を打ち鳴らした。翠色の巨大な光の波が俺の体を中心に、世界樹のその隅々まで、そしてこの世界そのものへと広がっていくのがわかった。心臓に走っていた黒い亀裂が癒えていく。淀んでいた黄金の樹液が再び力強く流れ始める。迷わずの森が再生していく。影の森は完全に消滅した。そしてその生命の波動は海を越え、大陸を越え、この星の全ての生命に降り注いでいった。

俺の意識は世界樹そのものと完全に一つになっていた。そして俺は聞いた。
『――ありがとう、我が子よ』
それは母の声だった。どこまでも優しく、どこまでも温かい世界樹の声だ。
『あなたが永い永い悪夢から私を目覚めさせてくれました』
「……世界樹……」
『はい。そしてあなたは私の新しい希望です』

世界樹は俺に全てを見せてくれた。この世界の真実の姿を。
『黒き星は災厄のほんの一部に過ぎません。それはこの世界の外、次元の狭間から送り込まれた一つの種子』
『そしてあなたと同じ異世界から来た勇者たち。彼らが戦っている魔王とは……』
世界樹が見せたビジョン。そこには剣崎光たちがアストライア王国の正義の軍勢として一つの巨大な亜人の国へと侵攻している姿があった。そしてその国を必死に守っている一人の魔族の王。彼の目的は侵略ではない。彼は人間たちの際限のない欲望と、それが生み出すもう一つの『穢れ』からこの世界を守ろうとしていただけだったのだ。
『勇者たちは利用されているのです。偽りの正義のために』
(……なんだよ、それ……)
俺は愕然とした。剣崎たちが信じる正義は作られた偽物だったというのか。
『ショウ・カンザキ。私の愛しき、自然の支配者よ。あなたの本当の戦いはここから始まります』
『この世界を蝕む、本当の病巣。それを癒すのです。あなたのその優しい力で』

新たなる旅立ち
その言葉を最後に、俺の意識は世界樹からゆっくりと切り離された。気づけば俺は仲間たちと共に再び世界樹の麓に立っていた。目の前には世界樹の化身が俺に深く頭を下げている。

俺の世界樹を探す旅は終わった。だがそれは終わりではなかった。俺は仲間たちを見回した。シュタが、リルが、シルフィが心配そうに俺の顔を覗き込んでいる。俺は彼女たちに微笑んで見せた。
「みんな、帰ろう」
俺は西の空を見据える。アストライア王国のある方角だ。
「……俺たちが、本当に、戦うべき、場所へ」

俺の本当の異世界での物語。
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