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窓を開けたら異世界だった
第四話 狼煙のランキング戦
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ランキング戦の開催が告げられてから数時間後。俺は学園都市が誇る巨大施設――『極大闘技場』の選手控室にいた。円形のドームをすり鉢状に観客席が埋め尽くし、その中央には試合を行うためのステージがいくつも設置されている。一度に30試合を同時進行できるという、規格外のスケールだ。
「うわっ、観客やば……。ただの校内予選だろ、これ」
控室のモニターに映し出される熱気に、思わずうんざりする。生徒たちは各自のタブレットで、リアルタイムに更新されるトーナメント表を確認していた。俺も自分の名前を探す。
神崎 翔 vs 由縁 仁
「……ゆえん、じん?」
聞いたことのない名前に首を傾げていると、近くにいた生徒たちのひそひそ話が耳に入った。
「マジかよ、一回戦で由縁と当たるとか、あの神崎ってやつ終わったな」
「由縁 仁を知らないのか? 中等部の頃から剣術科でトップを走り続けてる正真正銘の天才だぞ。前回は体調不良で欠場してたからランクは少し落ちてるけど、実力はランカークラスだって噂だ」
どうやら、とんでもない相手を引き当ててしまったらしい。
「翔!」
背後から声をかけられ振り返ると、瀧と結衣が立っていた。
「聞いたぜ、由縁と当たるんだってな。まあ、お前なら大丈夫だろ。準決勝あたりで俺とやろうぜ、手ぇ抜くなよ?」
ニヤリと笑う瀧。その隣で、結衣は心配そうな顔をしていた。
「本当に、すごい人なんでしょ? 怪我だけは絶対にしないでね……」
「へーきへーき。こっちにも、異世界準備の資金を稼ぐっていう大事な目的があるんでな。負けるわけにはいかねえんだよ」
俺は二人に軽く手を振り、自分の試合が行われる第8ステージへと向かった。
ステージに上がると、眩い照明と割れんばかりの歓声に包まれる。その中心で、俺の対戦相手は静かに佇んでいた。
色素の薄いサラサラの髪、涼しげな目元。非の打ち所のない美貌を持つ男――由縁 仁。腰に提げた優美なレイピア型の智慧武器が、彼のスタイルを物語っている。観客席の女子から、すでに黄色い悲鳴が上がっていた。チッ、イケメンめ。
「君が、万能型の神崎 翔君か」
試合開始前、由縁が静かに口を開いた。
「君の智慧武器、シュタの噂は聞いている。どんな戦いを見せてくれるのか、楽しみだよ」
「そっちこそ、剣一筋の天才様だろ。お手柔らかに頼むぜ」
俺たちが言葉を交わした直後、試合開始を告げるブザーがけたたましく鳴り響いた。
――――――――――――――――――
「始め!」
その合図が、狼煙だった。
由縁の姿がブレる。直線的な突進ではない。左右に細かくステップを踏みながら、幻惑するような動きで一気に距離を詰めてくる。速い!
「シュタ、暴風剣!」
「了解、マスター! 暴風剣!」
俺の呼びかけに応じ、シュタが瞬時に蒼い輝きを放つ長剣へと姿を変える。俺は迫りくる由縁に対し、剣を横薙ぎに一閃した。
ゴォォォッ!
暴風が渦を巻き、巨大な風の刃となって由縁に襲いかかる。並の相手なら、これだけで戦闘不能だ。だが――
「――甘いね」
由縁は風の刃を前にして、一切怯まなかった。彼はレイピアを正眼に構え、その切っ先を風の中心、ただ一点に集中させる。
「一点突破」
彼の智慧武器が甲高い音を立てて振動し、その切っ先から放たれたであろう不可視の衝撃波が、俺の暴風を内側から食い破った。風の渦が霧散し、その向こうから寸分の狂いもなく俺の喉元を狙うレイピアの切っ先が迫る。
「くっ……!」
紙一重で身を捻って回避するが、頬にかすかな熱が走った。こいつ、本物だ。
「面白い。なら、これはどうだ? シュタ、自由変形!」
俺はバックステップで距離を取りながら、シュタに新たな命令を下す。暴風剣がその姿を瞬時に変える。硬質な刀身が節々に分かれ、しなやかな鞭のようにうねり始めた。
「蛇腹剣!」
予測不能な軌道を描く剣の鞭が、縦横無尽に由縁を襲う。だが、由縁は驚くべき体捌きと剣技で、その全てをいなしていく。レイピアの腹で受け流し、切っ先で軌道を逸らし、最小限の動きで猛攻を凌ぎ切る。
「すごい……。あれが由縁さんの剣……」
「神崎ってやつも、あの剣に食らいついてるぞ……!」
観客が固唾を呑んで見守る、ハイレベルな攻防。だが、ただの力押しでは勝てない。俺は勝負を仕掛けることにした。
蛇腹剣の連撃の中に、一つだけタイミングをずらした突きを混ぜる。由縁はそれを的確に弾くが、その一瞬、彼の体勢がわずかに、ほんのわずかに崩れた。
――今だ!
俺はその千載一遇の好機を見逃さなかった。鞭のようにしなっていたシュタを瞬時に硬化させ、足元の地面を蹴る。狙うは、がら空きになった懐。
「なっ!?」
由縁の顔に、初めて焦りの色が浮かんだ。懐に飛び込んできた俺を迎え撃とうとレイピアを振るうが、もう遅い。
これは、戦場に生きる親父から、嫌というほど叩き込まれた技だ。氣を操り、外ではなく内を破壊する、対人戦闘の極意。
「――凸空弾!」
俺の拳が、由縁の腹部に吸い込まれるように触れる。そして、当たる寸前で手を開き、練り上げた氣の衝撃を、彼の体内に直接叩き込んだ。
「ぐ……はっ……!」
派手な音も、衝撃もなかった。だが、由縁の体は内側から破壊されたかのようにくの字に折れ曲がり、糸が切れた人形のように数メートル後ろへ吹き飛んで、ステージの上に大の字に倒れた。完全に意識を失っている。
静まり返る闘技場。
一拍の後、審判が我に返ったように叫んだ。
「しょ、勝者、神崎 翔!」
その声が引き金となり、爆発的な歓声がドームを揺るがした。
「はぁ……はぁ……。強すぎだろ、あいつ……」
俺は荒い息を整えながら、拳を握りしめる。
ともかく、勝ちは勝ちだ。これで、異世界攻略のための軍資金が、また一つ手に入った。
「うわっ、観客やば……。ただの校内予選だろ、これ」
控室のモニターに映し出される熱気に、思わずうんざりする。生徒たちは各自のタブレットで、リアルタイムに更新されるトーナメント表を確認していた。俺も自分の名前を探す。
神崎 翔 vs 由縁 仁
「……ゆえん、じん?」
聞いたことのない名前に首を傾げていると、近くにいた生徒たちのひそひそ話が耳に入った。
「マジかよ、一回戦で由縁と当たるとか、あの神崎ってやつ終わったな」
「由縁 仁を知らないのか? 中等部の頃から剣術科でトップを走り続けてる正真正銘の天才だぞ。前回は体調不良で欠場してたからランクは少し落ちてるけど、実力はランカークラスだって噂だ」
どうやら、とんでもない相手を引き当ててしまったらしい。
「翔!」
背後から声をかけられ振り返ると、瀧と結衣が立っていた。
「聞いたぜ、由縁と当たるんだってな。まあ、お前なら大丈夫だろ。準決勝あたりで俺とやろうぜ、手ぇ抜くなよ?」
ニヤリと笑う瀧。その隣で、結衣は心配そうな顔をしていた。
「本当に、すごい人なんでしょ? 怪我だけは絶対にしないでね……」
「へーきへーき。こっちにも、異世界準備の資金を稼ぐっていう大事な目的があるんでな。負けるわけにはいかねえんだよ」
俺は二人に軽く手を振り、自分の試合が行われる第8ステージへと向かった。
ステージに上がると、眩い照明と割れんばかりの歓声に包まれる。その中心で、俺の対戦相手は静かに佇んでいた。
色素の薄いサラサラの髪、涼しげな目元。非の打ち所のない美貌を持つ男――由縁 仁。腰に提げた優美なレイピア型の智慧武器が、彼のスタイルを物語っている。観客席の女子から、すでに黄色い悲鳴が上がっていた。チッ、イケメンめ。
「君が、万能型の神崎 翔君か」
試合開始前、由縁が静かに口を開いた。
「君の智慧武器、シュタの噂は聞いている。どんな戦いを見せてくれるのか、楽しみだよ」
「そっちこそ、剣一筋の天才様だろ。お手柔らかに頼むぜ」
俺たちが言葉を交わした直後、試合開始を告げるブザーがけたたましく鳴り響いた。
――――――――――――――――――
「始め!」
その合図が、狼煙だった。
由縁の姿がブレる。直線的な突進ではない。左右に細かくステップを踏みながら、幻惑するような動きで一気に距離を詰めてくる。速い!
「シュタ、暴風剣!」
「了解、マスター! 暴風剣!」
俺の呼びかけに応じ、シュタが瞬時に蒼い輝きを放つ長剣へと姿を変える。俺は迫りくる由縁に対し、剣を横薙ぎに一閃した。
ゴォォォッ!
暴風が渦を巻き、巨大な風の刃となって由縁に襲いかかる。並の相手なら、これだけで戦闘不能だ。だが――
「――甘いね」
由縁は風の刃を前にして、一切怯まなかった。彼はレイピアを正眼に構え、その切っ先を風の中心、ただ一点に集中させる。
「一点突破」
彼の智慧武器が甲高い音を立てて振動し、その切っ先から放たれたであろう不可視の衝撃波が、俺の暴風を内側から食い破った。風の渦が霧散し、その向こうから寸分の狂いもなく俺の喉元を狙うレイピアの切っ先が迫る。
「くっ……!」
紙一重で身を捻って回避するが、頬にかすかな熱が走った。こいつ、本物だ。
「面白い。なら、これはどうだ? シュタ、自由変形!」
俺はバックステップで距離を取りながら、シュタに新たな命令を下す。暴風剣がその姿を瞬時に変える。硬質な刀身が節々に分かれ、しなやかな鞭のようにうねり始めた。
「蛇腹剣!」
予測不能な軌道を描く剣の鞭が、縦横無尽に由縁を襲う。だが、由縁は驚くべき体捌きと剣技で、その全てをいなしていく。レイピアの腹で受け流し、切っ先で軌道を逸らし、最小限の動きで猛攻を凌ぎ切る。
「すごい……。あれが由縁さんの剣……」
「神崎ってやつも、あの剣に食らいついてるぞ……!」
観客が固唾を呑んで見守る、ハイレベルな攻防。だが、ただの力押しでは勝てない。俺は勝負を仕掛けることにした。
蛇腹剣の連撃の中に、一つだけタイミングをずらした突きを混ぜる。由縁はそれを的確に弾くが、その一瞬、彼の体勢がわずかに、ほんのわずかに崩れた。
――今だ!
俺はその千載一遇の好機を見逃さなかった。鞭のようにしなっていたシュタを瞬時に硬化させ、足元の地面を蹴る。狙うは、がら空きになった懐。
「なっ!?」
由縁の顔に、初めて焦りの色が浮かんだ。懐に飛び込んできた俺を迎え撃とうとレイピアを振るうが、もう遅い。
これは、戦場に生きる親父から、嫌というほど叩き込まれた技だ。氣を操り、外ではなく内を破壊する、対人戦闘の極意。
「――凸空弾!」
俺の拳が、由縁の腹部に吸い込まれるように触れる。そして、当たる寸前で手を開き、練り上げた氣の衝撃を、彼の体内に直接叩き込んだ。
「ぐ……はっ……!」
派手な音も、衝撃もなかった。だが、由縁の体は内側から破壊されたかのようにくの字に折れ曲がり、糸が切れた人形のように数メートル後ろへ吹き飛んで、ステージの上に大の字に倒れた。完全に意識を失っている。
静まり返る闘技場。
一拍の後、審判が我に返ったように叫んだ。
「しょ、勝者、神崎 翔!」
その声が引き金となり、爆発的な歓声がドームを揺るがした。
「はぁ……はぁ……。強すぎだろ、あいつ……」
俺は荒い息を整えながら、拳を握りしめる。
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