マイルームから異世界転移?!二つの世界の力を使って成り上がる

破滅

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新たなる仲間と深淵の影

第二十九話  深淵の降下、混沌の心臓

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俺たちが**深淵の裂け目(アビス・リフト)**へと足を踏み出した瞬間、世界の常識が反転した。上下の感覚が曖昧になり、重力はまるで気まぐれな神のように俺たちを引いたり、突き放したりを繰り返す。俺たちは瘴気でできた紫黒の雲と、砕け散った大地が浮島のように漂う、悪夢の中の空をただひたすらに落ちていった。

「全員、手を離すな!」
瀧が叫び、彼のスーツから射出されたワイヤーが俺たちの体を繋ぎ止める。
「エラーラさん、お願いできますか!」
「はい!『安らぎの羽(フェザー・フォール)』!」
エラーラの詠唱に応え、俺たちの体に淡い光の翼が生え、落下速度が劇的に緩和される。
「ミコ、先導を!安全な着地ポイントを探してくれ!」
「任せな!」
ミコはその獣人の身軽さで、浮島から浮島へと飛び移り、俺たちが進むべきルートを切り開いていく。
眼下には底の見えない混沌。時折、裂け目の壁から名状しがたい歪な影が蠢くのが見えた。
ここはもはや知性や理性が通用する場所ではない。ただ仲間を信じ、己の五感を研ぎ澄まし、一瞬一瞬を生き抜くだけだ。

やがて俺たちは裂け目の第一階層とでも言うべき、比較的安定した巨大な浮島へと降り立った。
そこは黒水晶の柱が林立し、地面の亀裂から間欠泉のように瘴気が噴き出す、異様な光景が広がっていた。今の北見市の穏やかな初夏の夜とはあまりにもかけ離れた、死と静寂に支配された世界。

第一階層:瘴気とゴーレム
「……来るぞ」
俺はシュタを戦闘形態であるショートソードに切り替えながら警告した。
瘴気の噴出孔から泥のように、それは現れた。
定まった形を持たない人の形を模した黒い影。その中心に一つだけ、憎悪に満ちた赤い目が光っている。
「『瘴気の怨霊(ミアズマ・レイス)』……!物理攻撃はほとんど通用しません!」
エラーラが悲痛な声を上げる。

同時に黒水晶の柱がゴゴゴと音を立てて動き始めた。それは柱ではなかった。瘴気のエネルギーを動力源とする巨大な岩のゴーレムだった。
「こっちは任せろ!」
瀧が怨霊の群れとゴーレムの間に立ち、マルチスペクトル・スキャナーを起動させる。
「……ゴーレムの動力源は胸の中心にあるコアクリスタルだ!エラーラさん、怨霊を頼む!ミコはゴーレムの注意を引け!翔、俺が奴の装甲を剥がす、お前がコアを破壊しろ!」

瀧の的確な指示が混乱しかけた俺たちに秩序を取り戻させた。エラーラが神聖な祈りの言葉を紡ぎ始めると、彼女の体から太陽のような温かい光が放たれた。
「聖なる光よ、彷徨える魂に、安らぎを与えたまえ!『ターン・アンデッド』!」
光に触れた怨霊たちは苦悶の叫びを上げ、聖なる炎に焼かれるようにして消滅していく。

「おっしゃあ!こっちだ、このノロマ!」
ミコがその俊敏さを活かしてゴーレムの周囲を駆け回り、注意を引きつける。
その隙に瀧が構えたライフルの銃口が、ゴーレムの胸部を正確に捉えた。
「学園都市の科学力、なめるなよ。『徹甲弾(AP)装填』、撃て!」
放たれた弾丸はゴーレムの岩の体を容易く貫通し、その内側にあるコアクリスタルに深々と亀裂を入れた。
「今だ、翔!」
俺は動きが鈍ったゴーレムの懐に飛び込み、シュタの刃を亀裂の入ったコアへと力の限り突き立てた。
凄まじい断末魔と共にゴーレムは動きを止め、ただの岩くれへと崩れ落ちた。

第二階層:精神の侵食
俺たちは息つく間もなく第二階層へと降下を続けた。
だがそこで俺たちを待ち受けていたのは魔物ではなかった。
より狡猾で、そしてたちの悪い悪意そのものだった。

「……っ!」
第二階層に足を踏み入れた瞬間、濃密な瘴気が俺たちの精神に直接侵食してきた。
それはそれぞれの心の中に巣食う、最も深い恐怖と後悔を幻覚として見せつけ始めた。
ミコの目には故郷の村が厄災に飲み込まれ、同胞たちが次々と倒れていく光景が映し出されていた。
瀧の目の前では彼の立てた作戦がことごとく失敗し、俺たちが無残に死んでいく最悪の未来が繰り返し再生されていた。
そしてエラーラの耳元ではかつて失った仲間たちの声が、彼女を責め立てていた。「なぜ、君だけが生き残ったんだ」と。

「……みんな、しっかりしろ!これは、幻だ!」
俺もまた、結衣や両親が苦しみながら死んでいく幻覚に心を苛まれていた。だがランキング戦で雨宮先輩の精神攻撃を経験していたこと、そしてそれ以上に、この異世界で幾度も本物の〝死〟を覚悟した経験が、俺にかろうじての理性を保たせていた。
俺は仲間たちの体に物理的に触れ、自らの生命エネルギーである『氣』を直接流し込んだ。
「見るな!感じろ!こいつらは、お前たちの心を映すだけの、ただの嘘だ!俺たちがなぜここにいるのか、思い出せ!」
俺の氣が仲間たちの心に小さな灯火をともす。
その光に導かれるようにエラーラが涙を流しながらも最後の力を振り絞った。
「……偽りの闇に惑わされず、真実の道を示したまえ……『精神の守護(アイギス・オブ・マインド)』!」
彼女が放った清らかな精神の守護結界が、俺たちの脳を覆っていた悪意に満ちた幻影を綺麗さっぱりと洗い流してくれた。

最深部:深淵の騎士
俺たちは互いに支え合いながら、最後の階層へとたどり着いた。
裂け目の最深部。混沌の心臓。
そこは巨大なドーム状の空間だった。そしてその中央に、それは浮いていた。
全ての光を飲み込み、空間そのものを歪ませる、脈動する漆黒の球体。
裂け目の発生源。
俺が持つ『浄界の雫』が共鳴するように激しく振動を始めた。

だがそれは無防備ではなかった。
黒の球体を守るように、その前に一体の人型の騎士が静かに佇んでいた。
その姿を認めた瞬間、エラーラがひゅっと息を呑んだ。
「……あ……あ……」
騎士は全身をひび割れ砕け散った古代のプレートアーマーで覆われている。だがその鎧の隙間から覗くのは肉体ではない。渦巻く瘴気そのものが人の形を成しているのだ。
その手には瘴気を滴らせる禍々しい両手剣が握られている。
そしてその空っぽのはずの兜の奥で、二つの紫黒の光が俺たちを捉えた。

「……嘘……でしょう……?」
エラーラの瞳から大粒の涙が止めどなく溢れ出した。
「……サー・ケイラン……。隊長……?」

裂け目の最後の番人。
それは三日前にこの裂け目を破壊するために挑み、そして帰らぬ人となったAランクパーティのリーダー。
この世界を守るために戦った英雄が、今はこの世界を滅ぼす厄災の番人として俺たちの前に立ちはだかっていた。

深淵の騎士は、その両手剣をゆっくりと持ち上げ、俺たちへとその切っ先を向けた。
それはあまりにも悲しい、最後の戦いの始まりを告げる合図だった。

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