マイルームから異世界転移?!二つの世界の力を使って成り上がる

破滅

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新たなる仲間と深淵の影

第二十八話  荊の道、深淵の入り口

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夜明け前の最も深い闇。
俺たち四人は王都フォルダルテの西門から、音もなく瘴気の森へと滑り込んだ。背後で街の東側から響き渡る地を揺るがすような鬨の声と、無数の魔物の咆哮。それはこの街の全ての戦力が、俺たちのたった四人のために、命を懸けて作り出してくれた希望の音だった。

「……行くぞ」
俺の短い言葉に三人が無言で頷く。
森に一歩足を踏み入れた瞬間、空気が変わった。湿った土の匂いと腐敗した植物が発する甘ったるい悪臭。そして呼吸をするだけで肺が重くなるような濃密な瘴気の圧力。現在の時刻は6月16日月曜日の早朝。学園都市であれば初夏の爽やかな風が吹いている頃だろう。だがこの森の空気はまるで故郷・北海道の真冬の夜のように肌を刺し、骨身に染みた。

俺たちは即座に打ち合わせ通りの浸透フォーメーションを組んだ。
先頭はミコ。その猫のようにしなやかな体は闇に完全に溶け込み、琥珀色の瞳だけが鋭く前方を射抜いている。彼女の獣人ならではの五感が俺たちの目となり耳となる。
二番手に俺。右手にはシュタが変幻した取り回しの良いショートソード。左手にはいつでも『アダマンタス』を展開できるよう意識を集中させる。俺の役目は不測の事態に誰よりも速く対応するパーティの剣だ。
中央にはエラーラ。彼女の白く美しい手からは淡い守護の光が放たれ、俺たち四人を包む薄い結界を形成している。この結界が瘴気による継続的な体力と思考力の消耗をわずかながらも防いでくれていた。
そして殿(しんがり)は瀧。彼は手元の多機能端末のディスプレイを絶えず監視し、周囲の地形データとエラーラが張る結界の魔力減衰率、そして俺たちのバイタルサインまで全ての情報をリアルタイムで分析している。彼はこのパーティの脳であり生命線だった。

森の脅威
「待って」
先頭を進んでいたミコがふと足を止め、鋭く鼻を鳴らした。
「この先、地面の下から腐った肉の匂いがする。たくさん……。たぶん、『屍喰らい(コープス・クローラー)』の巣だ」
「……同意する」と瀧が小声で応じた。「俺のセンサーも前方地中に複数の微弱なバイオシグナルを感知している。ミコの提案通り、南へ50メートル迂回するルートを推奨する」
直感と科学。二つの異なるアプローチが同じ結論を導き出す。俺たちは音もなくルートを変更し、見えざる脅威との接触を回避した。

だがこの森はそう簡単には俺たちを通してくれない。
進むにつれて瘴気の濃度は増していく。エラーラの額には玉のような汗が浮かび、結界の光が徐々に弱まっていくのが分かった。
「……っ、大丈夫か、エラーラさん」
「……はい。ですが私の浄化の力がこの森の瘴気に、少しずつですが確実に上書きされていくのを感じます……」

その時だった。前方の茂みから数匹の瘴気獣が涎を垂らしながら姿を現した。迂回しきれなかった斥候の群れだ。
俺は仲間たちに目配せすると、一歩前に出た。
「ここは俺がやる。エネルギーは極力温存する」

シュタの刃に俺自身の氣を薄く、しかし鋭く纏わせる。水の魔石の力はもうない。だが俺自身の生命エネルギーもまた、浄化の性質を帯びている。
俺は地を蹴った。音もなく影のように。そして瘴気獣たちが反応するよりも速く、その急所である瘴気の凝縮した部分を的確に、そして最小限の動きで貫いていく。
数秒後、全ての瘴気獣が悲鳴を上げる間もなく塵となって消えた。
派手な技ではない。ただ学園で、そして異世界で培った全ての戦闘技術を、効率的な〝殺害〟のためだけに最適化した、冷徹な一撃。

「……すごい」とミコが息を呑んだ。「ランキング戦で見た時より、動きの質がまるで違う……」
俺は何も答えなかった。あの頃の俺はまだ本当の〝死〟を知らなかったのだ。

犠牲の広場
やがて俺たちはエラーラの顔が絶望に凍り付く場所にたどり着いた。
そこはひときわ瘴気が濃く、巨大な木々が天を突く墓標のように立ち並ぶ不気味な広場だった。
地面には錆びついた剣の破片や引き裂かれた鎧の一部が無残に散らばっている。
「……ここが……」エラーラがか細い声で呟いた。「私の仲間たちが、眠る場所……」
彼女はその場に膝から崩れ落ちそうになった。俺は咄嗟にその肩を支える。慰めの言葉は出てこない。どんな言葉も彼女が失ったものの前ではあまりにも軽く、空虚に響くだろう。
瀧とミコが即座に周囲を警戒する。俺たちはただ静かにこの場所に刻まれた悲劇の記憶と向き合った。

その時だった。
ズウウウウン……。
大地が揺れた。そして俺たちの頭上を巨大な影が滑るように通過していった。
低く、しかし内臓を直接揺さぶるような威圧的な咆哮。
「……来たか。裂け目の、番人だ」
瀧が忌々しげに吐き捨てる。
俺たちは近くにあった巨大な倒木の影に息を殺して身を潜めた。瀧が光学迷彩シートを広げ、俺たちの姿を周囲の景色に溶け込ませる。

やがて広場にその主が姿を現した。
それはかつては誇り高い飛竜(ワイバーン)であっただろう巨大な魔物だった。だがその体は醜い瘴気の腫瘍に覆われ、翼は腐り落ち、代わりに何本もの骨と瘴気でできた歪な触手が背中から生えている。
『瘴気の飛竜(ミアズマ・ワイバーン)』。エラーラの仲間たちを一瞬で葬り去った、この森の生態系の頂点。

飛竜はゆっくりと広場を徘徊し、やがて満足したように再び森の奥深くへと飛び去っていった。
俺たちは奴の気配が完全に消えるまで息を殺し続けた。直接戦闘になっていれば、俺たちはここで終わっていた。

深淵の裂け目
数時間後、俺たちはついに目的地へとたどり着いた。
その光景を前に俺は言葉を失った。
「……これが、『深淵の裂け目』……」

それはもはやただの裂け目ではなかった。
大地そのものが巨大な口を開け、悲鳴を上げているかのようだった。直径数キロに及ぶ巨大なすり鉢状のクレーター。その中心は底の見えない、紫黒のエネルギーが渦巻く混沌の渦。
地面からは瘴気が結晶化した鋭利な黒水晶が、まるで巨大な獣の牙のように無数に突き出している。
空気を吸うだけで魂が削られていくような圧倒的な絶望感。

「……エネルギーの測定値が振り切れてる。あらゆる物理法則がこの場所では歪んでるんだ……」
瀧が愕然とした声で言った。
「……自然が泣いてる……」
ミコがその全身の毛を逆立て、怯えたように唸った。
「……神々よ……。ここはもはや生者の立ち入るべき場所ではありません……」
エラーラが祈るように胸の前で印を結んだ。

俺はゴクリと唾を飲み込み、背負っていたアタッシュケースを開けた。
中には心臓のように不吉な光を放ちながら脈動する、『浄界の雫』が収められている。
俺はそれを強く握りしめた。

「……ここが、俺たちの最後の戦場だ」
俺は仲間たちの顔を見回した。
「これより俺たちは深淵の中心へと降下する。一度入れば任務を完了するまで二度と戻れない。覚悟はいいな?」

三人は無言で、しかし力強く頷いた。その瞳には恐怖を乗り越えた英雄だけが持つ鋼の意志が宿っていた。
俺は裂け目の縁(ふち)に立ち、眼下に広がる混沌の渦を見下ろす。

そして世界の運命を懸けた最後の一歩を、深淵へと踏み出した。
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