マイルームから異世界転移?!二つの世界の力を使って成り上がる

破滅

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新たなる仲間と深淵の影

第三十一話 絶望の剣、希望の剣

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深淵の騎士、サー・ケイランとの悲しい一騎打ちが始まった。俺はシュタを変幻させた一本の長剣を構え、その切っ先は絶望に囚われた英雄の魂へと向けられていた。

キィン!
最初の剣戟。騎士の振るう両手剣は重さを感じさせないほどの速度と、寸分の狂いもない完璧な精度で俺の喉元を狙う。それはかつて彼が振るったであろう、王国の最強騎士としての洗練され尽くした剣技そのものだった。
俺はそれを学園で叩き込まれた体術のフットワークと、異世界で培った魔物の予測不能な動きに対応するための戦闘本能を融合させた独自のステップで辛うじて回避する。

「……速い……!」

だが一撃を凌いでもすぐに次の一撃が襲いかかる。上段、中段、下段、突き、薙ぎ払い。全ての攻撃がよどみなく、美しく、そしてあまりにも冷徹に俺の命を刈り取ろうとしてくる。
俺は剣士ではない。俺の剣は彼の完璧な剣技の前ではあまりにも未熟で荒削りだ。
だが俺には俺の戦い方がある。

(シュタ、重心を右へ!奴の次の斬り上げにカウンターを合わせる!)

シュタが俺の思考に応じ、剣の重心を瞬時に変化させる。俺はその勢いを利用し、騎士の剣を力ではなくタイミングだけで受け流し、即座に反撃の一太刀を浴びせた。
ガキン!
俺の剣は騎士の分厚い瘴気の鎧に阻まれ浅い傷しか与えられない。だがそれでいい。俺の目的は彼を倒すことではない。ただ時間を稼ぐこと。
俺たちの後ろでエラーラがその命を懸けた最後の儀式を完成させる、その時まで。

「ウオオオオオッ!」
「ミコ!」

騎士の注意が俺に向いている隙に、ミコがその俊敏さを活かして死角から奇襲を仕掛ける。だが騎士は俺と斬り結んだまま、その左腕のガントレットだけでミコの鋭い爪を見もせずに弾き返した。
「くっ……!」

「聖別の榴弾、残り二発!これで少しは足止めになってくれ!」
瀧が最後のハイテク兵器を騎士の足元へと撃ち込む。浄化の光が爆ぜ、騎士の動きが一瞬だけ鈍る。
だがそれだけ。
騎士を覆う瘴気は深淵の中心から無限に供給され、その傷を瞬く間に再生させてしまう。

(……なんて絶望的な強さだ)

戦いは消耗戦の様相を呈してきた。
ミコの動きには焦りからか徐々に精彩が欠け始めていた。瀧の装備は次々とエネルギー切れを起こし沈黙していく。
そして何より儀式を詠唱するエラーラ。彼女の顔色は紙のように白く、その唇からは血が滲んでいる。彼女は自らの生命力そのものを魔力に変換し、この儀式を維持しているのだ。

俺たちの絆が、絶望という名の巨大な壁の前で少しずつすり減らされていく。そしてついにその瞬間が訪れた。

騎士の剣が俺の防御の、ほんの僅かな隙間を見逃さなかった。
瘴気を纏った黒い刃が俺の右肩を深く抉った。

「ぐ……あああああっ!」

激痛と共に肉が焼けるような瘴気の腐食ダメージが俺の全身を駆け巡る。
だがその時俺は確かに〝感じた〟のだ。
シュタの刃を通して騎士の剣に込められた、彼の魂の本当の声を。

英雄の解放
それは憎しみでも殺意でもなかった。
ただひたすらに深く深い悲しみ。
守りたかった。助けたかった。この手で仲間たちを救いたかった。
その英雄としてあまりにも純粋で、そして叶うことのなかった願いが絶望と後悔へと反転し、彼をこの深淵に縛り付けている。

「……そうか……。あなたは、ずっと……」

俺は痛みも忘れ、ただ目の前の悲しい騎士を見つめた。
あなたは戦っているんじゃない。泣いているんだ。
ずっと一人で。この暗い絶望の底で。

俺の戦い方が変わった。
もはや攻撃を受け流し、時間を稼ぐためだけの剣ではない。
俺は騎士が振り下ろす次の一撃を避けることなく、自らの剣で真正面から受け止めた。
そしてその剣を通して俺のありったけの〝想い〟を氣に乗せて、彼の魂へと直接語りかけた。

(サー・ケイラン!あなたの戦いはもう終わったんだ!)
(あなたの仲間たちはあなたを恨んだりしていない!きっとあなたを待っている!だから……もう休んでいいんだ!)

俺の言葉にならない想いが氣となって、シュタの刃から騎士の剣へ、そしてその魂へと流れ込んでいく。

「グ……オ……?」

深淵の騎士の完璧だった剣筋がその一瞬、確かに乱れた。
その空っぽの兜の奥で紫黒の光が戸惑うように揺らめいた。
それはほんの一瞬の、奇跡のような隙だった。

そしてその奇跡を俺たちの巫女(ヒーラー)は見逃さなかった。

「――今です!!」

エラーラが叫んだ。
その瞳からはもはや涙は流れていなかった。ただかつての仲間への深い慈愛と、その魂を救うという強い意志の光が黄金に輝いていた。
彼女は詠唱の最後の一節を高らかに紡いだ。

「――その気高き魂を、絶望の軛(くびき)より解き放ち、原初の光へと導きたまえ!『魂の解放スピリット・リベレーション』!!」

詠唱が完成した。
エラーラを中心に、この世のものとは思えないほどに温かく、そして優しい黄金の光の柱が天へと昇った。
光は深淵の闇を切り裂き、混沌の心臓部を照らし、そして深淵の騎士の体を優しく優しく包み込んだ。

「グ……アアアアアアアアアアアアアアッッ!!」

騎士が叫んだ。
それは苦痛と、そして歓喜が入り混じったような魂の雄叫びだった。
彼を縛り付けていた禍々しい瘴気の鎧が、まるで春の雪のように音もなく溶けていく。ひび割れ、剥がれ落ちていく。

そして俺たちは見た。
崩れ落ちる鎧の中から現れた半透明の光り輝く騎士の姿を。
それはかつての英雄サー・ケイラン、その人の魂だった。
彼はゆっくりとエラーラの方を向いた。そしてその唇が声にならない動きで、こう形作った。

〝ありがとう〟

そのあまりにも優しい安らかな微笑みを最後に、英雄の魂は無数の光の粒子となって天へと昇り消えていった。

深淵の騎士はもういない。
俺たちは勝ったのだ。
全員がその場にへたり込んだ。疲労はすでに限界を超えていた。

最後の任務
だが――俺たちの任務はまだ終わっていなかった。

ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!
主を失った裂け目の中心核が、まるで怒り狂ったかのようにこれまで以上に激しく脈動を始めた。
空間全体が崩壊を始めようとしている。

「翔!」と瀧の声が通信機から悲鳴のように響いた。「エネルギーレベルが臨界点を超えた!このままじゃ裂け目が暴走して、この森全体が吹き飛ぶぞ!例のブツを、早く!」

俺は右肩の激痛に耐えながらよろよろと立ち上がった。
そして仲間たちに背を向け、一人混沌の心臓部へと歩き出す。
その手には不吉な脈動を繰り返す、『浄界の雫』が固く握りしめられていた。

「翔君!」
エラーラが何かを叫んでいる。
だが俺はもう振り返らなかった。

デバイスの起動スイッチを押す。
ディスプレイに赤いデジタル数字が無慈悲に表示された。

【10:00】

最後の10分間のカウントダウンが今、始まった。
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