マイルームから異世界転移?!二つの世界の力を使って成り上がる

破滅

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新たなる仲間と深淵の影

第三十二話  約束の光、新しい朝

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深淵の騎士が光となって消え去った後には、静寂だけが残された。
だが、その静寂は新たな破滅への序曲に過ぎなかった。主を失った『深淵の裂け目』の中心核は、制御を失った原子炉のように暴走を開始したのだ。空間が悲鳴を上げて軋み、地面は激しく揺れ、俺たちが立っている足場すらもいつ崩壊してもおかしくない状態だった。

「翔!今すぐ『浄界の雫』を!裂け目が自壊するぞ!そうなればこの森全体が道連れだ!」
瀧の悲痛な叫びが通信機から響く。
俺は右肩から流れる血も拭わず、ふらつく足でただ一人混沌の中心へと歩みを進めた。その手にはこの世界の運命を委ねられた最後の希望――『浄界の雫』がまるで生き物のように激しく脈動していた。

【10:00】

デバイスのタイマーが無慈悲なカウントダウンを開始する。一歩また一歩と中心核に近づくにつれて、瘴気の圧力は指数関数的に増していく。肌が焼けるようだ。魂が直接削り取られていくようなおぞましい感覚。
脳裏をよぎるのは仲間たちの顔だった。絶望的な状況下で俺を信じ、未来を託してくれた瀧、ミコ、エラーラ。そして遠い世界で俺の帰りを待っている結衣。
(……帰るんだ。絶対に)
俺は彼女と交わした最後の約束を心の支えにした。

【08:00】

ついに中心核の目前に到達する。渦巻く紫黒のエネルギーの奔流。あれにこれを設置しなければならない。
俺は意を決して右腕を混沌の渦へと突き出した。「ぐ……ううううううっ!!」
凄まじい激痛。まるで凍てつく氷と燃え盛る溶岩に同時に腕を突っ込んだかのようだ。俺の氣とシュタの防御フィールドがなければ、一瞬で腕ごと消滅していただろう。
俺は力の限りその奔流の中心、全ての元凶である特異点(シンギュラリティ)へと、『浄界の雫』を押し込んだ。

【03:00】

設置完了。
俺は安堵する間もなく踵を返し、全力でその場から離脱しようとした。だがその瞬間、俺の体はまるで巨大な重力に捕らえられたかのようにぴたりと動きを止めた。
「……なんだ……これは……!?」
中心核が俺の体を、そして周囲の空間全てを凄まじい力で引き寄せ始めたのだ。
『浄界の雫』が起爆のプロセスに入ったことで、裂け目のエネルギーバランスが崩壊し、ブラックホールのような強力な引力が発生しているのだ。
これがこの任務が「自殺任務」と呼ばれた本当の理由。
設置した者は決してその場から逃れることはできない。

「翔!」
「ショウ!」
「翔君!」
遠くで仲間たちの絶叫が聞こえる。だが彼らに俺を助ける術はない。
俺はゆっくりと、しかし確実に混沌の中心へと引きずり戻されていく。
(……ここまでか)
世界は救える。だが俺は帰れない。
結衣との約束を、守れない。
その無念が俺の心を絶望の色に染めようとしたその時だった。

シュタの最後の機能
『マスター……』
腕のブレスレットから、シュタのか細い、しかし凛とした声が響いた。
『……私のエネルギー残量は1%未満。戦闘、及び防御形態への変幻はもはや不可能です。ですが……』
彼女はそこで言葉を切った。
『……最後の機能(ファンクション)が残されています』

その言葉が俺の脳内で一つの天啓のような閃きと結びついた。
それはあまりにも荒唐無稽で成功確率などおそらく億に一つもないであろう狂気の賭け。
だが今の俺に残された道はそれしかなかった。

「シュタ……!」
俺は心の中で最高の相棒に最後の命令を下した。
「俺の部屋の窓……あのゲートの空間座標を覚えているな?」
『……はい。寸分の狂いもなく』
「その座標データを今すぐお前の全機能を使って、『浄界の雫』の爆縮エネルギーに上書きしろ!インプリントするんだ!」

俺の部屋の窓は安定した時空の〝裂け目〟。
目の前のこの深淵の裂け目は不安定な時空の〝歪み〟。
ならば、『浄界の雫』がこの歪みを強制的に〝修復〟しようとするその爆縮のエネルギー。その空間を正常化させようとする凄まじい力の奔流をハイウェイにしてしまえば。
その奔流に俺の部屋の窓という明確な〝出口〟の座標を指し示してやれば。
あるいは――

『……理論上、不可能ではありません。ですが、その成功確率は計測不能。マスターの肉体も魂も、時空の狭間で完全に消滅する可能性があります』
「それでも、やるんだ!俺は帰ると約束したんだからな!」

【00:10】

俺は残された全ての生命力、全ての氣をシュタへと注ぎ込んだ。
それは攻撃でも防御でもない。
ただ最高の相棒が最後の奇跡を起こすためのエネルギー。

【00:03】
『……最終機能、承認。座標データ、インプリント……開始します』

【00:02】
シュタの光が眩いほどに輝いた。

【00:01】
ありがとう、シュタ。

【00:00】
――世界が白に染まった。

それは破壊の光ではなかった。
全てをあるべき姿へと還す、どこまでも優しく、そして温かい浄化の光。
裂け目の底から天へと向かって巨大な光の柱が立ち上り、森全体を覆っていた禍々しい瘴気を、まるで朝靄を払う太陽のように消し去っていく。

光の奔流に飲み込まれながら、俺の意識はそこで途切れた。

帰還、そして喪失
……どれほどの時間が経ったのだろうか。
最初に感じたのは床の硬い感触だった。
そして窓から差し込む西日の匂い。
微かに聞こえる学園都市の喧騒。

俺はゆっくりと目を開けた。
そこは見慣れた俺の部屋だった。
壁にはランキング戦の優勝トロフィーが夕日を反射して静かに輝いている。
俺は帰ってきたのだ。

体中が悲鳴を上げている。肩の傷も脇腹の傷も塞がってはいない。
だが俺は生きていた。
俺はよろよろと窓へと歩み寄る。
窓の外には見慣れた平和な最峰学園都市の風景が広がっていた。
そして俺の腕には全ての光を失い、今はただの冷たい金属の塊となったシュタのブレスレットが巻かれていた。

そのブレスレットにそっと触れる。
『……任務、完了……マスター……』
まるで夢の続きのように、彼女の最後の声が聞こえた気がした。

俺はその場にへたり込んだ。
涙が溢れて止まらなかった。
それは悲しみの涙ではない。
ただ生きていること、そして帰ってこれたことへの感謝の涙だった。

空は美しい茜色に染まっていた。
俺たちの長くて、過酷だった一日がようやく終わろうとしていた。
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