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第一章 不遇職の拳士
第5話「市場の騒動と疾風雷電」
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翌朝、翔は宿屋のベッドで快適な目覚めを迎えた。仮想空間でありながら、ぐっすりと眠れたおかげで気分は爽快だ。
階下に下りると、ユアが朝食の準備をしながら出迎えてくれた。
「おはようございます、翔さん! ご飯、できてますよ!」
「おはよう、ユア。いつもすまないな」
今日の朝食は、昨日翔が美味いと言っていたコルバードの肉を使った野菜炒めと、具沢山のスープだった。細やかな気遣いが嬉しい。そして、やはりこの肉は絶品だ。
「さて、今日は何をしようか。昨日で戦闘の感触は掴めたし、そろそろ本格的にクエストでも進めてみるか」
まずは腹ごしらえも兼ねて、昨日と同じ屋台へ向かうことにした。あのコルバード串の味が忘れられない。
街の大通りに出ると、何やら人だかりができていた。揉め事のようだ。
「おい! この値段はおかしいだろ、まけろよ! こんな木偶の坊みたいなNPC相手に、俺様プレイヤーが買ってやってるんだぞ!?」
聞こえてきたのは、傲慢なプレイヤーの声。その視線の先には、パン屋の店主であろうNPCが困り果てた顔で立ち尽くしている。
「申し訳ございませんお客様、これ以上は私どもの生活が…」
「うるせえんだよ!」
プレイヤーの男は、あろうことか商品を陳列している棚を蹴りつけた。焼きたてであろうパンが、無残にも地面に散らばる。
その光景に、翔の眉がぴくりと動いた。
ゲームだから? NPCだから? そんなものは理由にならない。ここはもう一つの世界で、そこに暮らす人々がいる。彼らの営みを踏みにじる行為は、断じて許せるものではない。
翔は人垣をかき分け、男と店主の間に割って入った。
「おい、そこまでにしろ」
「あ? なんだテメェ」
「生活がかかっていると言っている相手に、商品を台無しにするとはな。お前のやっていることは、ただの犯罪者と変わらんぞ」
男は翔の姿を一瞥すると、鼻で笑った。
「なんだよ、正義の味方気取りか? ゲームごときに感情移入とかキッショ。怖いでちゅねーwww」
「ふん。たかだかゲームの、わずかな値段差に本気でキレてるやつに言われたくないな」
「……てめぇ、殺すぞ?」
男は腰の剣に手をかけ、殺気を放つ。PKする気満々か。いいだろう。昨日の奴よりは楽しませてくれるといいな。
「やってみろよ。できるものならな」
「上等だ、後悔すんなよ!」
男が剣を抜き、大上段から斬りかかってくる。だが、その太刀筋はあまりにも直線的で、隙だらけだ。
親父との木刀での稽古に比べれば、止まって見える。
翔は半身になって攻撃をいなすと同時に、男の手首に鋭い手刀を打ち込む。痺れて剣を取り落とした男の鳩尾に、スキルを発動させた拳をめり込ませる。
「チャージパンチ!」
「ぐはっ……!」
男はくの字に折れ曲がり、蹲る。なかなかの耐久力だ。まだ意識はあるらしい。
追撃を加えようと拳を握りしめた、その時だった。
「そこまでだ! 市場の往来で何をしている!」
凛とした声と共に、一人の男が俺たちの間に割って入った。
白銀の鎧に身を包み、背中には雷の紋章が描かれた青いマントを羽織っている。周囲のプレイヤーたちが「疾風雷電のジョーだ…」「攻略組の…」とざわめいている。
「俺はギルド『疾風雷電』の#ジョー。双方、事情を聞かせてもらおうか」
疾風雷電。β版からトップを走り続ける、最大手攻略ギルドの一つ。同時に、彼らはNPCの保護やプレイヤー間のトラブル解決など、自警団的な活動も行っていることで有名だ。
面倒なことになるかと思ったが、話のわかる相手なら好都合だ。翔は事の経緯を簡潔に説明した。
――――――――――――――――――――
「――と、いうわけだ」
話を聞き終えたジョーは、地面に蹲る男に厳しい視線を向けた。
「なるほど、事情は理解した。こいつの処遇は俺たち疾風雷電に任せてもらえるか。器物破損と傷害未遂で、衛兵に突き出しておく」
ジョーは仲間らしき数人に合図し、男を連行させていく。そして、改めて翔に向き直った。
「そして、君が例の…いや、よくぞ止めてくれた。感謝する。俺たち疾風雷電は、ゲーム内での無法行為を許さないという理念で活動していてね。君のような人間がいると、本当に助かる」
「いや、俺はただ腹が立ったからやっただけだ。気にしないでくれ」
「それでもだ。…そうだ、よかったらフレンド登録しないか? 君のような腕の立つ人間とは、是非とも繋がりを持っておきたい」
「構わないぞ」
翔たちはフレンド登録を交わした。攻略組のギルドと繋がりができたのは、思わぬ収穫だ。
「ありがとう! 何か困ったことがあったら、いつでも連絡してくれ! じゃあ、またな!」
ジョーが爽やかに去った後、パン屋の店主がおずおずと駆け寄ってきた。
「あ、ありがとうございました! 本当に助かりました…!」
「いえいえ。それより、商品をダメにされて大変でしたね」
「これくらい、なんてことありません! あの、もしよろしければ、今度うちのパンを買いに来てください! 必ずサービスしますから!」
こうして、翔はまた一つ、この街で新たな繋がりを得ることになった。
もちろん、目的だったコルバードの串焼きもしっかりと買って帰ったのは、言うまでもない。
階下に下りると、ユアが朝食の準備をしながら出迎えてくれた。
「おはようございます、翔さん! ご飯、できてますよ!」
「おはよう、ユア。いつもすまないな」
今日の朝食は、昨日翔が美味いと言っていたコルバードの肉を使った野菜炒めと、具沢山のスープだった。細やかな気遣いが嬉しい。そして、やはりこの肉は絶品だ。
「さて、今日は何をしようか。昨日で戦闘の感触は掴めたし、そろそろ本格的にクエストでも進めてみるか」
まずは腹ごしらえも兼ねて、昨日と同じ屋台へ向かうことにした。あのコルバード串の味が忘れられない。
街の大通りに出ると、何やら人だかりができていた。揉め事のようだ。
「おい! この値段はおかしいだろ、まけろよ! こんな木偶の坊みたいなNPC相手に、俺様プレイヤーが買ってやってるんだぞ!?」
聞こえてきたのは、傲慢なプレイヤーの声。その視線の先には、パン屋の店主であろうNPCが困り果てた顔で立ち尽くしている。
「申し訳ございませんお客様、これ以上は私どもの生活が…」
「うるせえんだよ!」
プレイヤーの男は、あろうことか商品を陳列している棚を蹴りつけた。焼きたてであろうパンが、無残にも地面に散らばる。
その光景に、翔の眉がぴくりと動いた。
ゲームだから? NPCだから? そんなものは理由にならない。ここはもう一つの世界で、そこに暮らす人々がいる。彼らの営みを踏みにじる行為は、断じて許せるものではない。
翔は人垣をかき分け、男と店主の間に割って入った。
「おい、そこまでにしろ」
「あ? なんだテメェ」
「生活がかかっていると言っている相手に、商品を台無しにするとはな。お前のやっていることは、ただの犯罪者と変わらんぞ」
男は翔の姿を一瞥すると、鼻で笑った。
「なんだよ、正義の味方気取りか? ゲームごときに感情移入とかキッショ。怖いでちゅねーwww」
「ふん。たかだかゲームの、わずかな値段差に本気でキレてるやつに言われたくないな」
「……てめぇ、殺すぞ?」
男は腰の剣に手をかけ、殺気を放つ。PKする気満々か。いいだろう。昨日の奴よりは楽しませてくれるといいな。
「やってみろよ。できるものならな」
「上等だ、後悔すんなよ!」
男が剣を抜き、大上段から斬りかかってくる。だが、その太刀筋はあまりにも直線的で、隙だらけだ。
親父との木刀での稽古に比べれば、止まって見える。
翔は半身になって攻撃をいなすと同時に、男の手首に鋭い手刀を打ち込む。痺れて剣を取り落とした男の鳩尾に、スキルを発動させた拳をめり込ませる。
「チャージパンチ!」
「ぐはっ……!」
男はくの字に折れ曲がり、蹲る。なかなかの耐久力だ。まだ意識はあるらしい。
追撃を加えようと拳を握りしめた、その時だった。
「そこまでだ! 市場の往来で何をしている!」
凛とした声と共に、一人の男が俺たちの間に割って入った。
白銀の鎧に身を包み、背中には雷の紋章が描かれた青いマントを羽織っている。周囲のプレイヤーたちが「疾風雷電のジョーだ…」「攻略組の…」とざわめいている。
「俺はギルド『疾風雷電』の#ジョー。双方、事情を聞かせてもらおうか」
疾風雷電。β版からトップを走り続ける、最大手攻略ギルドの一つ。同時に、彼らはNPCの保護やプレイヤー間のトラブル解決など、自警団的な活動も行っていることで有名だ。
面倒なことになるかと思ったが、話のわかる相手なら好都合だ。翔は事の経緯を簡潔に説明した。
――――――――――――――――――――
「――と、いうわけだ」
話を聞き終えたジョーは、地面に蹲る男に厳しい視線を向けた。
「なるほど、事情は理解した。こいつの処遇は俺たち疾風雷電に任せてもらえるか。器物破損と傷害未遂で、衛兵に突き出しておく」
ジョーは仲間らしき数人に合図し、男を連行させていく。そして、改めて翔に向き直った。
「そして、君が例の…いや、よくぞ止めてくれた。感謝する。俺たち疾風雷電は、ゲーム内での無法行為を許さないという理念で活動していてね。君のような人間がいると、本当に助かる」
「いや、俺はただ腹が立ったからやっただけだ。気にしないでくれ」
「それでもだ。…そうだ、よかったらフレンド登録しないか? 君のような腕の立つ人間とは、是非とも繋がりを持っておきたい」
「構わないぞ」
翔たちはフレンド登録を交わした。攻略組のギルドと繋がりができたのは、思わぬ収穫だ。
「ありがとう! 何か困ったことがあったら、いつでも連絡してくれ! じゃあ、またな!」
ジョーが爽やかに去った後、パン屋の店主がおずおずと駆け寄ってきた。
「あ、ありがとうございました! 本当に助かりました…!」
「いえいえ。それより、商品をダメにされて大変でしたね」
「これくらい、なんてことありません! あの、もしよろしければ、今度うちのパンを買いに来てください! 必ずサービスしますから!」
こうして、翔はまた一つ、この街で新たな繋がりを得ることになった。
もちろん、目的だったコルバードの串焼きもしっかりと買って帰ったのは、言うまでもない。
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