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第一章 不遇職の拳士
第6話「冒険者ギルドと最初の依頼」
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ギルド「疾風雷電」のジョーと別れた翔は、活気あふれる市場を歩きながら、今後の活動方針について思考を巡らせていた。
これまでの二日間、彼は自分の腕と、現実世界で培った神崎流武術の技術だけでこの世界を渡り歩いてきた。ゴブリンを狩り、PKを仕掛けてきたプレイヤーを返り討ちにし、街の揉め事を解決した。どれも行き当たりばったりの行動だったが、結果としてレベルは上がり、ささやかながらも人との繋がりもできた。
だが、このままではいずれ限界が来るだろう。
(我流の狩りだけじゃ、効率が悪い。それに、安定した収入源も必要だ。この世界のことをもっと知るためにも、情報が集まる場所に身を置くべきか…)
彼の脳裏に、ジョーが所属していた「ギルド」という存在が浮かび上がる。疾風雷電のような大手はまだ無理だとしても、この世界には全ての冒険者のための受け皿があるはずだ。
「よし、決めた。冒険者ギルドに行ってみよう」
目的が定まると、足取りは自然と軽くなる。彼はマップを開き、王都アグウェーに存在する冒険者ギルドの位置を確認した。場所は、市場とは反対側の、職人街や武具屋が立ち並ぶ地区の中心。そこは、屈強な者たちが集う、血と汗の匂いがする場所だ。
翔がその地区に足を踏み入れると、空気は一変した。市場の陽気な喧騒とは違い、どこか張り詰めたような、それでいて荒々しい活気が満ちている。道行く人々の多くは、立派な鎧や手入れの行き届いた武器を身につけていた。道端ではドワーフの鍛冶師が鎚を振るい、火花が飛び散っている。ポーションを売る店の店先には、色とりどりの液体が入った瓶が並んでいた。
その中心に、ひときわ大きく、堅牢な石造りの建物が鎮座していた。巨大な剣と盾のレリーフが掲げられた、冒険者ギルド。その重厚な扉の前で、翔は一度、息を吸い込んだ。
扉を押し開けると、むっとするような熱気と、様々な匂いが混じり合った独特の空気が彼を包み込む。
汗と、土埃と、なめした革の匂い。そして、酒場から漂ってくるエールと料理の香り。
壁一面に設置された巨大な掲示板には、おびただしい数の依頼書が貼られ、多くの冒険者がそれを吟味している。カウンターではギルド職員と冒険者が依頼内容について交渉し、併設された酒場では、ジョッキを片手に武勇伝を語り合うパーティの喧騒が響いていた。
(すごいな…これぞ、ファンタジーの世界だ)
翔は少し気圧されながらも、まっすぐに受付カウンターへと向かった。そこが、この世界で生きていくためのスタートラインだ。
「すいません、ギルドに登録したいんですが」
カウンターにいたのは、眼鏡をかけた真面目そうなエルフの女性職員だった。彼女は山積みの書類から顔を上げ、翔の姿を一瞥すると、にこやかに応対してくれた。
「はい、新規登録ですね。ようこそ冒Gldへ。では、こちらの用紙に必要事項をご記入いただけますか?」
渡された羊皮紙の用紙に、翔は備え付けの羽根ペンでさらさらと記入していく。名前(ショウ)、年齢(17)、種族(ドラゴヒューマン)、主な使用武器(…拳士だから、ここは『格闘』と書くべきか)。職業欄に「拳士」と書いた瞬間、女性職員の眉がわずかに動いたのを、翔は見逃さなかった。やはり、この世界でも拳士はそれだけ珍しい、あるいは奇異な職業なのだろう。
「ご記入ありがとうございます。では、こちらの水晶に手を触れ、心の中で『登録』と念じてください。あなた様の魂の情報が読み取られ、ギルドカードが生成されます」
翔が言われた通りに白く輝く水晶に手を触れると、水晶はまばゆい光を放ち始めた。光が収まった時、彼の目の前のカウンターに、一枚の金属製カードが音もなく現れていた。
――――――――――――――――――――
ギルドカード
名前: ショウ
職業: 拳士
ランク: G
所属: (なし)
討伐数: 13
達成依頼数: 0
――――――――――――――――――――
カードの裏面には、より詳細なステータスやスキルが記録されているようだ。
「それがあなたの身分証となります。ギルドカードは、普段は『しまう』と念じればアイテムボックスに収納できますので、紛失の心配はありません。あなたの冒険者ランクは本日よりGランクとなります。依頼を達成し、ギルドへの貢献度を高めることで、ランクはF、E、D…と昇格していきます。依頼はあちらの掲示板から、ご自身のランクに合ったものをお選びください。達成報告もこちらのカウンターで承りますので、お忘れなく」
丁寧な説明を受け、翔は「ありがとう」と短く礼を言うと、改めて巨大な掲示板へと向かった。
薬草採集、ゴブリン討伐、下水道のネズミ駆除、貴族の荷物運び…Gランクの依頼は、地味で報酬の安いものが多い。
(どうせなら、何か次に繋がる依頼がいい。俺には【料理】スキルもある。食材が手に入るモンスターの討伐依頼があれば、一石二鳥なんだが…)
翔は掲示板の依頼書を一枚一枚、丹念に見ていく。そして、数ある依頼の中から、一つの依頼書に目が留まった。
依頼: 草原の狼『ウルファ』の討伐
ランク: G
内容: アグウェー近郊の草原に生息する狼型モンスター『ウルファ』を5体討伐せよ。ウルファは俊敏で、群れで行動するため注意が必要。討伐の証として牙を持ち帰ること。肉や毛皮は良質な素材として利用できるため、持ち帰れば追加で買い取る。
報酬: 1,500C
「ウルファ…狼か」
ゴブリンよりも格段に素早い相手だろう。今の自分のAGIなら、十分に対応できるはずだ。何より、「肉や毛皮は追加で買い取る」という一文が魅力的だった。戦闘訓練と、料理スキルのレベル上げ、そして金策。全てを同時に満たせる、まさに今の自分にうってつけの依頼だ。
「決めた」
翔は迷わずその依頼書を掲示板から剥がし、再び受付カウンターへと持っていった。
女性職員は依頼書を受け取ると、手際よく受注手続きを済ませる。
「ウルファの討伐依頼ですね。承りました。ご武運を」
「ああ」
ギルドの喧騒を背に、翔は外へと出た。
手の中には、冒険者としての第一歩を記す、一枚の依頼書。彼の胸は、新たな目標を得たことによる静かな闘志と、未知への期待感で満たされていた。
「よし、行くか」
最初の依頼、そして新たな食材との出会いを求めて、翔は王都の門をくぐり、再び広大な草原へと向かうのだった。
これまでの二日間、彼は自分の腕と、現実世界で培った神崎流武術の技術だけでこの世界を渡り歩いてきた。ゴブリンを狩り、PKを仕掛けてきたプレイヤーを返り討ちにし、街の揉め事を解決した。どれも行き当たりばったりの行動だったが、結果としてレベルは上がり、ささやかながらも人との繋がりもできた。
だが、このままではいずれ限界が来るだろう。
(我流の狩りだけじゃ、効率が悪い。それに、安定した収入源も必要だ。この世界のことをもっと知るためにも、情報が集まる場所に身を置くべきか…)
彼の脳裏に、ジョーが所属していた「ギルド」という存在が浮かび上がる。疾風雷電のような大手はまだ無理だとしても、この世界には全ての冒険者のための受け皿があるはずだ。
「よし、決めた。冒険者ギルドに行ってみよう」
目的が定まると、足取りは自然と軽くなる。彼はマップを開き、王都アグウェーに存在する冒険者ギルドの位置を確認した。場所は、市場とは反対側の、職人街や武具屋が立ち並ぶ地区の中心。そこは、屈強な者たちが集う、血と汗の匂いがする場所だ。
翔がその地区に足を踏み入れると、空気は一変した。市場の陽気な喧騒とは違い、どこか張り詰めたような、それでいて荒々しい活気が満ちている。道行く人々の多くは、立派な鎧や手入れの行き届いた武器を身につけていた。道端ではドワーフの鍛冶師が鎚を振るい、火花が飛び散っている。ポーションを売る店の店先には、色とりどりの液体が入った瓶が並んでいた。
その中心に、ひときわ大きく、堅牢な石造りの建物が鎮座していた。巨大な剣と盾のレリーフが掲げられた、冒険者ギルド。その重厚な扉の前で、翔は一度、息を吸い込んだ。
扉を押し開けると、むっとするような熱気と、様々な匂いが混じり合った独特の空気が彼を包み込む。
汗と、土埃と、なめした革の匂い。そして、酒場から漂ってくるエールと料理の香り。
壁一面に設置された巨大な掲示板には、おびただしい数の依頼書が貼られ、多くの冒険者がそれを吟味している。カウンターではギルド職員と冒険者が依頼内容について交渉し、併設された酒場では、ジョッキを片手に武勇伝を語り合うパーティの喧騒が響いていた。
(すごいな…これぞ、ファンタジーの世界だ)
翔は少し気圧されながらも、まっすぐに受付カウンターへと向かった。そこが、この世界で生きていくためのスタートラインだ。
「すいません、ギルドに登録したいんですが」
カウンターにいたのは、眼鏡をかけた真面目そうなエルフの女性職員だった。彼女は山積みの書類から顔を上げ、翔の姿を一瞥すると、にこやかに応対してくれた。
「はい、新規登録ですね。ようこそ冒Gldへ。では、こちらの用紙に必要事項をご記入いただけますか?」
渡された羊皮紙の用紙に、翔は備え付けの羽根ペンでさらさらと記入していく。名前(ショウ)、年齢(17)、種族(ドラゴヒューマン)、主な使用武器(…拳士だから、ここは『格闘』と書くべきか)。職業欄に「拳士」と書いた瞬間、女性職員の眉がわずかに動いたのを、翔は見逃さなかった。やはり、この世界でも拳士はそれだけ珍しい、あるいは奇異な職業なのだろう。
「ご記入ありがとうございます。では、こちらの水晶に手を触れ、心の中で『登録』と念じてください。あなた様の魂の情報が読み取られ、ギルドカードが生成されます」
翔が言われた通りに白く輝く水晶に手を触れると、水晶はまばゆい光を放ち始めた。光が収まった時、彼の目の前のカウンターに、一枚の金属製カードが音もなく現れていた。
――――――――――――――――――――
ギルドカード
名前: ショウ
職業: 拳士
ランク: G
所属: (なし)
討伐数: 13
達成依頼数: 0
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カードの裏面には、より詳細なステータスやスキルが記録されているようだ。
「それがあなたの身分証となります。ギルドカードは、普段は『しまう』と念じればアイテムボックスに収納できますので、紛失の心配はありません。あなたの冒険者ランクは本日よりGランクとなります。依頼を達成し、ギルドへの貢献度を高めることで、ランクはF、E、D…と昇格していきます。依頼はあちらの掲示板から、ご自身のランクに合ったものをお選びください。達成報告もこちらのカウンターで承りますので、お忘れなく」
丁寧な説明を受け、翔は「ありがとう」と短く礼を言うと、改めて巨大な掲示板へと向かった。
薬草採集、ゴブリン討伐、下水道のネズミ駆除、貴族の荷物運び…Gランクの依頼は、地味で報酬の安いものが多い。
(どうせなら、何か次に繋がる依頼がいい。俺には【料理】スキルもある。食材が手に入るモンスターの討伐依頼があれば、一石二鳥なんだが…)
翔は掲示板の依頼書を一枚一枚、丹念に見ていく。そして、数ある依頼の中から、一つの依頼書に目が留まった。
依頼: 草原の狼『ウルファ』の討伐
ランク: G
内容: アグウェー近郊の草原に生息する狼型モンスター『ウルファ』を5体討伐せよ。ウルファは俊敏で、群れで行動するため注意が必要。討伐の証として牙を持ち帰ること。肉や毛皮は良質な素材として利用できるため、持ち帰れば追加で買い取る。
報酬: 1,500C
「ウルファ…狼か」
ゴブリンよりも格段に素早い相手だろう。今の自分のAGIなら、十分に対応できるはずだ。何より、「肉や毛皮は追加で買い取る」という一文が魅力的だった。戦闘訓練と、料理スキルのレベル上げ、そして金策。全てを同時に満たせる、まさに今の自分にうってつけの依頼だ。
「決めた」
翔は迷わずその依頼書を掲示板から剥がし、再び受付カウンターへと持っていった。
女性職員は依頼書を受け取ると、手際よく受注手続きを済ませる。
「ウルファの討伐依頼ですね。承りました。ご武運を」
「ああ」
ギルドの喧騒を背に、翔は外へと出た。
手の中には、冒険者としての第一歩を記す、一枚の依頼書。彼の胸は、新たな目標を得たことによる静かな闘志と、未知への期待感で満たされていた。
「よし、行くか」
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