DPO~拳士は不遇職だけど武術の心得があれば問題ないよね?

破滅

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第一章 不遇職の拳士

第7話「草原の狼」

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再び王都アグウェーの門をくぐり、翔は広大な草原へと足を踏み入れた。依頼書によれば、ウルファの生息地はゴブリンがいた領域よりも少し奥まった、小高い丘が点在するエリアだという。太陽は中天にあり、絶好の狩り日和だった。

「さて、と。まずは索敵からだな」

翔は意識を集中させ、【探索】スキルを発動させる。すると、彼の視界の端に表示されているマップ上に、ゴブリンとは違う、より速く移動する複数の赤い光点が現れた。

(あれがウルファか…思ったより数が多いし、動きも速い。群れで行動するというのは本当らしいな)

彼は身を低くし、【隠密】スキルで気配を殺しながら、最も近くにいる単独の光点へと慎重に接近を開始した。まずは一体仕留めて、相手の力量を正確に測る必要がある。
風下の茂みに身を潜め、獲物の姿を視界に捉える。それは、体長1メートルほどの、灰色の毛皮を持つ狼だった。鋭い牙を剥き、低い姿勢で絶えず周囲を警戒している。ゴブリンのような、注意散漫なモンスターとは明らかに警戒レベルが違った。

(…今だ!)

ウルファがほんの一瞬、別の方向に注意を向けた。その隙を、翔は見逃さない。
彼は茂みから飛び出すと同時に地面を蹴り、一気に距離を詰める。常人ならざるAGI(敏捷性)から繰り出される踏み込みは、矢のように鋭い。

「グルルァッ!」

即座に気づいたウルファが、俊敏な動きで反転し、翔の喉笛に食らいつこうと跳びかかってきた。そのスピードは、ゴブリンの比ではない。
だが、翔は冷静だった。彼は最小限の動き――神崎流体捌たいさばきで半身になり、ウルファの突進を紙一重でいなす。空を切ったウルファが体勢を立て直すよりも速く、翔の拳が唸りを上げた。

「スキル発動、【正拳突せいけんづき】!」

職業レベルが上がったことで習得した、シンプルかつ高威力の突き技。スキル効果で淡く光る拳が、がら空きになったウルファの側頭部を完璧に捉えた。
「キャンッ!」という甲高い悲鳴と共に、ウルファはくの字に折れ曲がって地面を転がり、やがて光の粒子となって消滅した。

「ふぅ…なるほど、確かに素早い。一体一体は、今の俺なら問題ないレベルか」

翔はドロップした『ウルファの肉』『ウルファの毛皮』、そして依頼品である『ウルファの牙』を回収する。肉は思ったよりも上質そうだ。これでどんな料理を作るか、と思わず口元が緩んだ。

幸先の良いスタートに満足し、次の獲物を探そうとした、その瞬間だった。
彼の第六感だいろっかんが、鋭い危険信号を発した。

「――ッ!?」

翔は咄嗟にその場から後方へ跳躍する。直後、彼が今まで立っていた地面を、三条の斬撃ざんげきのような爪痕が抉った。左右と正面、三つの方向から、三体のウルファが同時に襲いかかってきていたのだ。

「グルルァァァ!」
「ガルルッ!」

完全に包囲されている。一体を相手にするのとは訳が違う。三体のウルファは巧みな連携で翔を囲い込み、逃げ場を塞いでいた。一体に集中すれば、他の二体から即座に致命的な一撃を喰らうだろう。

(面白い…やってくれるじゃないか!)

絶体絶命の状況。だが、翔の心は恐怖ではなく、武者震いに似た興奮で満たされていた。神崎流の教えは、常に複数の敵を想定している。一対多の状況こそ、その真価が問われるのだ。

翔は腰を低く落とし、あらゆる方向からの攻撃に対応できる体勢を取る。
正面の一体が、フェイントを織り交ぜながら牽制してくる。その動きに惑わされず、彼は意識の大部分を左右の二体に割く。

「ガウッ!」

痺れを切らした左翼のウルファが、地面を蹴って突進してきた。翔はそれを右足一本を軸にして、円を描くように回転して回避する。神崎流歩法『転身てんしん』。
そのまま、遠心力を乗せた裏拳うらけんを、すれ違いざまにウルファの鼻先に叩き込む。致命傷にはならないが、激痛で一時的に戦闘不能にはできるはずだ。

悲鳴を上げて怯んだウルファを尻目に、翔は即座に体勢を立て直す。だが、その一瞬の隙を、右翼のウルファは見逃さなかった。鋭い爪が、翔の左腕を浅く引き裂く。

-7 HP

システムメッセージと共に、じわりとした痛みが走る。この世界に来て、初めて受けたダメージだった。

「ちっ…!」

しかし、感傷に浸っている暇はない。正面に残っていた最後の一体が、腕を負傷した翔を見て好機と判断し、突撃してくる。

「――甘い」

翔は負傷した左腕をあえて無防備に晒し、ウルファを誘い込んだ。獲物の腕に食らいつこうと大きく口を開けたウルファ。そのがら空きになった顎目掛け、翔はスキルを発動させた右の拳を、下から突き上げるように叩き込んだ。

「チャージパンチ!」

「ゴキャッ!」という鈍い音と共に、ウルファの下顎が砕け散る。脳を揺らされたウルファは白目を剥き、そのまま地面に沈んだ。
すぐさま、鼻を打たれて怯んでいた一体が我に返り、怒りの咆哮と共に再び襲いかかってくる。

「終わりだ」

翔は冷静にその動きを見切り、突進に合わせてカウンターの【回し蹴り強】を頸椎けいついに叩き込む。的確に急所を捉えた一撃に、ウルファは声も出さずに絶命した。
これで残るは、右翼から翔に一太刀浴びせた一体のみ。

仲間を全て失ったウルファは、憎悪と恐怖に満ちた目で翔を睨みつけている。しかし、もう勝敗は決したも同然だった。
翔はゆっくりと間合いを詰め、ウルファが最後の力を振り絞って跳びかかってきたところを、冷静に【正拳突き】で迎え撃ち、その命を絶った。

「はぁ…はぁ…流石に、三体同時は骨が折れるな」

合計四体のウルファを倒し、依頼の達成まであと一体。翔はアイテムを回収しながら、初めて受けた腕の傷を見つめた。大した傷ではないが、この世界の戦いが決して甘くないことを、改めて肌で感じさせられた。

彼はアイテムボックスからHP回復ポーションを取り出し、一気に呷る。傷が癒えていくのを確認し、彼は残る一体を探して、再び草原を歩き始めた。
緊張から解放された彼の頭に浮かぶのは、手に入れたばかりの新鮮なウルファの肉を、どう調理してやろうかという楽しみな計画だった。
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