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第一章 不遇職の拳士
第19話「聖域」
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「それでは、ギルド名をお決めください」
冒険者ギルドの管理部門。職員の事務的な問いかけに、翔とリナは顔を見合わせた。勢いでギルドを作ることにはしたものの、その名前までは、全く考えていなかった。
「どうしようか…?」
リナが困ったように翔に視線を送る。彼女の頭の中では、「銀の流星」や「翠の風」といった、いかにも魔術師が考えそうな詩的な名前が浮かんでいたが、隣にいる規格外の拳士には、どうにもしっくりこない気がしていた。
翔は少しの間、腕を組んで黙考していた。
自分たちのギルド。それは、一体どんな場所であるべきか。
トップギルドのような威光も、騎士団のような規律も、今の二人には必要ない。ただ、この広大なゲーム世界の中で、自分たちが「自分たち」でいられる場所。誰にも邪魔されず、互いを信頼し、背中を預けられる、たった二人だけの安息地。
不遇職と蔑まれた拳士と、孤高を強いられていた魔術師。そんな二人が、ようやく見つけた自分たちの居場所。
その思いが、一つの言葉を彼の口から紡ぎ出させた。
「――『聖域』。それで、いこう」
「…聖域…サンクチュアリ…」
リナは、その言葉をゆっくりと口の中で転がした。そして、その名前に込められた意味を正確に感じ取ったかのように、ふわりと花が綻ぶような笑みを浮かべた。
「ええ、いい名前ね。とても、気に入ったわ」
「決定ですね。ギルド『聖域』、これにて設立を承認します。おめでとうございます、ギルドマスター・ショウ。そして、副マスター・リナ」
職員が厳かに宣言すると、彼らの視界に高らかなファンファーレと共にシステムメッセージがポップアップした。
ギルド『聖域』が設立されました!
ギルドマスターにショウが就任しました。
ギルドメンバーとしてリナが加入しました。
一枚の羊皮紙に、精巧な紋章が魔法の光と共に描き出される。それが、彼らのギルドの設立を証明する『ギルド証』だった。紋章のデザインは、交差する拳と杖。まさしく、今の二人を象徴するかのようだった。
――――――――――――――――――――
ギルド設立によって、彼らにはいくつかの新しい機能が解放された。その一つが、ギルドメンバー共有の倉庫、『ギルド倉庫』だ。二人は早速、王都の一角にあるギルドサービス管理棟へと向かった。
そこでギルド証を提示すると、異次元に繋がっているかのような不思議な扉が現れる。これがギルド倉庫の入り口だ。
中は、だだっ広い空間が広がっているだけだったが、アイテムを預けることで、容量の許す限り、メンバー間で自由にアイテムや資金を共有できる。
「それじゃあ、まずは軍資金からね」
リナは、先程手に入れた大金の大半を、ギルドの共有資金として預け入れた。翔もそれに倣い、オークキングの素材をオークションにかける権利書や、これまでの稼ぎを共有金庫へと移す。
「それから、これだ」
翔は、アイテムボックスから、昨日作り上げた大量の『ウルファのステーキ』を取り出し、次々と倉庫に並べていった。その光景に、リナは改めて目を見張る。
「…こうして見ると、壮観ね。これだけの最高級バフアイテム、他のギルドが見たら卒倒するんじゃないかしら」
「当分は、食うには困らないな」
翔が笑うと、リナもつられて笑った。
共有の資産、共有の目標。パーティというだけでは得られなかった、より強固な繋がりが、確かに二人の間に生まれていた。
――――――――――――――――――――
その日の夕食も、もちろん「安らぎ亭」だった。ユアは、二人がギルドを作ったと聞いて、自分のことのように喜び、「ギルド設立記念です!」と言って、腕によりをかけた豪華な夕食をサービスしてくれた。
美味しい食事を囲みながら、二人は今後の具体的な計画を練っていた。
「当面の目標は、ギルドランクを上げることね。ギルドランクが上がれば、受けられる依頼の幅も広がるし、色々な恩恵があるらしいわ。それに…」
リナは、少し夢見るような目で続けた。
「いつかは、私たちのギルドハウスが欲しいわね。自分たちだけの、本当の『聖域』を」
ギルドハウス。それは、全てのギルドが夢見る最終目標の一つ。自分たちで内装をカスタマイズし、家具を置き、仲間と集うことのできる、本当の意味での「城」だ。しかし、それを手に入れるには、莫大な資金と、ギルドとして多大な功績を上げることが必要となる。
「ギルドハウスか。いいな、それ」
翔にとっても、それは魅力的な目標に思えた。
そのためには、まず、ギルドとしての実績を積まなければならない。二人は、より高難易度のDランク依頼に挑戦し、ギルドの名を上げていくことを決めた。
翌日、ギルドへと向かった二人がDランクの掲示板で見つけたのは、一際異彩を放つ依頼書だった。
依頼: 沈黙の森のワイバーン討伐
ランク: D
内容: 沈黙の森の上空を縄張りとし、付近の生態系を脅かしている小型の飛竜、レッサーワイバーンを討伐せよ。
特記事項: 対象は飛行モンスターであり、極めて俊敏。弓兵や魔術師による対空攻撃手段がなければ、討伐は困難を極める。
「ワイバーン…飛竜、ね。これまでの相手とは、わけが違いそう」
リナが、ゴクリと喉を鳴らす。
「面白そうじゃないか」
だが、翔の紅い瞳は、強敵の存在に燃えていた。
これまで、彼の神崎流武術は、常に地に足のついた相手にのみ通用してきた。空を飛ぶ敵と、どう戦うか。それは、彼にとって未知の挑戦であり、自らの技の可能性を試す絶好の機会だった。
「でも、相手は空よ? あなたの拳は届かないし、私の魔法も、あの素早い相手に当てるのは至難の業だわ」
「やってみなきゃ、わからないだろ。それに、ただ魔法を当てるだけが能じゃない。何か、方法はあるはずだ」
翔の根拠のない、しかし揺るぎない自信に、リナは半ば呆れ、半ば感心したようにため息をついた。だが、もう彼の言葉を疑う気持ちは、彼女の中にはなかった。
「…わかったわ。あなたと一緒なら、ワイバーンだろうがドラゴンだろうが、なんとかなる気がしてきた」
「決まりだな」
二人は、その依頼書を手に、受付カウンターへと向かった。
ギルド『聖域』、最初の活動が、今、始まろうとしていた。彼らが挑むのは、Dランクの中でも最高難易度と噂される、飛竜討伐。常識外れの二人組は、再び、この世界の常識を打ち破ることができるのか。
彼らは、期待と緊張を胸に、新たな冒険の舞台へと、その歩みを進めるのだった。
冒険者ギルドの管理部門。職員の事務的な問いかけに、翔とリナは顔を見合わせた。勢いでギルドを作ることにはしたものの、その名前までは、全く考えていなかった。
「どうしようか…?」
リナが困ったように翔に視線を送る。彼女の頭の中では、「銀の流星」や「翠の風」といった、いかにも魔術師が考えそうな詩的な名前が浮かんでいたが、隣にいる規格外の拳士には、どうにもしっくりこない気がしていた。
翔は少しの間、腕を組んで黙考していた。
自分たちのギルド。それは、一体どんな場所であるべきか。
トップギルドのような威光も、騎士団のような規律も、今の二人には必要ない。ただ、この広大なゲーム世界の中で、自分たちが「自分たち」でいられる場所。誰にも邪魔されず、互いを信頼し、背中を預けられる、たった二人だけの安息地。
不遇職と蔑まれた拳士と、孤高を強いられていた魔術師。そんな二人が、ようやく見つけた自分たちの居場所。
その思いが、一つの言葉を彼の口から紡ぎ出させた。
「――『聖域』。それで、いこう」
「…聖域…サンクチュアリ…」
リナは、その言葉をゆっくりと口の中で転がした。そして、その名前に込められた意味を正確に感じ取ったかのように、ふわりと花が綻ぶような笑みを浮かべた。
「ええ、いい名前ね。とても、気に入ったわ」
「決定ですね。ギルド『聖域』、これにて設立を承認します。おめでとうございます、ギルドマスター・ショウ。そして、副マスター・リナ」
職員が厳かに宣言すると、彼らの視界に高らかなファンファーレと共にシステムメッセージがポップアップした。
ギルド『聖域』が設立されました!
ギルドマスターにショウが就任しました。
ギルドメンバーとしてリナが加入しました。
一枚の羊皮紙に、精巧な紋章が魔法の光と共に描き出される。それが、彼らのギルドの設立を証明する『ギルド証』だった。紋章のデザインは、交差する拳と杖。まさしく、今の二人を象徴するかのようだった。
――――――――――――――――――――
ギルド設立によって、彼らにはいくつかの新しい機能が解放された。その一つが、ギルドメンバー共有の倉庫、『ギルド倉庫』だ。二人は早速、王都の一角にあるギルドサービス管理棟へと向かった。
そこでギルド証を提示すると、異次元に繋がっているかのような不思議な扉が現れる。これがギルド倉庫の入り口だ。
中は、だだっ広い空間が広がっているだけだったが、アイテムを預けることで、容量の許す限り、メンバー間で自由にアイテムや資金を共有できる。
「それじゃあ、まずは軍資金からね」
リナは、先程手に入れた大金の大半を、ギルドの共有資金として預け入れた。翔もそれに倣い、オークキングの素材をオークションにかける権利書や、これまでの稼ぎを共有金庫へと移す。
「それから、これだ」
翔は、アイテムボックスから、昨日作り上げた大量の『ウルファのステーキ』を取り出し、次々と倉庫に並べていった。その光景に、リナは改めて目を見張る。
「…こうして見ると、壮観ね。これだけの最高級バフアイテム、他のギルドが見たら卒倒するんじゃないかしら」
「当分は、食うには困らないな」
翔が笑うと、リナもつられて笑った。
共有の資産、共有の目標。パーティというだけでは得られなかった、より強固な繋がりが、確かに二人の間に生まれていた。
――――――――――――――――――――
その日の夕食も、もちろん「安らぎ亭」だった。ユアは、二人がギルドを作ったと聞いて、自分のことのように喜び、「ギルド設立記念です!」と言って、腕によりをかけた豪華な夕食をサービスしてくれた。
美味しい食事を囲みながら、二人は今後の具体的な計画を練っていた。
「当面の目標は、ギルドランクを上げることね。ギルドランクが上がれば、受けられる依頼の幅も広がるし、色々な恩恵があるらしいわ。それに…」
リナは、少し夢見るような目で続けた。
「いつかは、私たちのギルドハウスが欲しいわね。自分たちだけの、本当の『聖域』を」
ギルドハウス。それは、全てのギルドが夢見る最終目標の一つ。自分たちで内装をカスタマイズし、家具を置き、仲間と集うことのできる、本当の意味での「城」だ。しかし、それを手に入れるには、莫大な資金と、ギルドとして多大な功績を上げることが必要となる。
「ギルドハウスか。いいな、それ」
翔にとっても、それは魅力的な目標に思えた。
そのためには、まず、ギルドとしての実績を積まなければならない。二人は、より高難易度のDランク依頼に挑戦し、ギルドの名を上げていくことを決めた。
翌日、ギルドへと向かった二人がDランクの掲示板で見つけたのは、一際異彩を放つ依頼書だった。
依頼: 沈黙の森のワイバーン討伐
ランク: D
内容: 沈黙の森の上空を縄張りとし、付近の生態系を脅かしている小型の飛竜、レッサーワイバーンを討伐せよ。
特記事項: 対象は飛行モンスターであり、極めて俊敏。弓兵や魔術師による対空攻撃手段がなければ、討伐は困難を極める。
「ワイバーン…飛竜、ね。これまでの相手とは、わけが違いそう」
リナが、ゴクリと喉を鳴らす。
「面白そうじゃないか」
だが、翔の紅い瞳は、強敵の存在に燃えていた。
これまで、彼の神崎流武術は、常に地に足のついた相手にのみ通用してきた。空を飛ぶ敵と、どう戦うか。それは、彼にとって未知の挑戦であり、自らの技の可能性を試す絶好の機会だった。
「でも、相手は空よ? あなたの拳は届かないし、私の魔法も、あの素早い相手に当てるのは至難の業だわ」
「やってみなきゃ、わからないだろ。それに、ただ魔法を当てるだけが能じゃない。何か、方法はあるはずだ」
翔の根拠のない、しかし揺るぎない自信に、リナは半ば呆れ、半ば感心したようにため息をついた。だが、もう彼の言葉を疑う気持ちは、彼女の中にはなかった。
「…わかったわ。あなたと一緒なら、ワイバーンだろうがドラゴンだろうが、なんとかなる気がしてきた」
「決まりだな」
二人は、その依頼書を手に、受付カウンターへと向かった。
ギルド『聖域』、最初の活動が、今、始まろうとしていた。彼らが挑むのは、Dランクの中でも最高難易度と噂される、飛竜討伐。常識外れの二人組は、再び、この世界の常識を打ち破ることができるのか。
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