DPO~拳士は不遇職だけど武術の心得があれば問題ないよね?

破滅

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第一章 不遇職の拳士

第18話「二人だけのギルド」

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呪われた鉱山での死闘から一夜明け、翔とリナは「安らぎ亭」の食堂で朝食を共にしていた。昨日までの、どこかぎこちない空気はすっかり消え、二人の間には確かな信頼と、戦友とでも言うべき穏やかな連帯感が流れていた。彼らはもはや、寄せ集めの二人組ではない。正式なパーティとして、同じ未来を見据えていた。

「それで、今後のことなんだけど」

リナが、シチューのスプーンを置き、真剣な眼差しで切り出した。

「私たちの当面の目標は、冒険者ランクをCランクに上げること。そのためには、もっと効率よく、そして安定してDランクの依頼をこなしていく必要があるわ」

「ああ、そうだな。俺も同じことを考えていた」

「そこで問題になるのが、装備よ。特に私の。杖はそれなりだけど、このローブじゃ防御が心許ない。高位の魔法を使うには詠唱時間も必要になるし、その隙を敵に突かれたら、あなたにも迷惑をかけてしまう」

リナの言う通りだった。彼女は後衛の魔術師であり、その防御力は紙同然だ。翔がどれだけ敵を引きつけようと、乱戦になれば流れ弾の一つや二つ、飛んでくる可能性は十分にある。彼女の安全を確保することは、パーティ全体の生存率に直結する問題だった。

「わかった。金策が必要だな。Dランクの依頼をこなしていけば、いずれは金も貯まるだろうが…」

「もっと手っ半取り早い方法はないかしら…。オークションに出品したあなたのオークキングの素材は、まだ換金されるまで時間がかかるだろうし…」

唸るリナを見て、翔の脳裏に、あるアイデアが閃いた。それは、彼が趣味と実益を兼ねて鍛えていた、もう一つの切り札。

「…リナ。あんた、鑑定スキルは持ってるか?」

「ええ、魔術師の基本だもの。持っているわよ。それがどうかしたの?」

「これを、鑑定してみてくれ」

翔はそう言うと、アイテムボックスから自信作である『ウルファのステーキ ☆4』を一枚取り出し、リナの前に置いた。昨日、彼女が美味しいと絶賛していた、あのステーキだ。
リナは不思議そうな顔をしながらも、言われた通りにステーキに意識を集中させ、【鑑定】スキルを発動させた。次の瞬間、彼女の翠色の瞳が、信じられないものを見たかのように大きく見開かれた。

「なっ…! なによ、この効果量…! STR、VIT、AGIが大幅上昇で、HPリジェネ効果まで…!? こ、これ、超級のバフアイテムじゃない! こんなもの、どこで手に入れたの!?」

「俺が作った」

「…は?」

リナは、冗談を言われたかのように、ぽかんと口を開けて翔の顔とステーキを交互に見比べた。

「あなたが…作った? 料理スキルで…? 嘘でしょ? 普通、料理スキルで作れるアイテムのバフ効果なんて、気休め程度のものよ! こんな、高位の錬金術師が作る秘薬みたいな料理、聞いたことがないわ!」

「まあ、俺のスキルが特別なのか、素材が良かったのか。とにかく、これなら売れるんじゃないか?」

リナは、はっと我に返ると、興奮した様子で前のめりになった。
「売れるなんてもんじゃないわ! これは革命よ! トッププレイヤーたちが、喉から手が出るほど欲しがるわよ! 特に、レイドボス攻略や、高難易度ダンジョンに挑むパーティにとっては、喉から手が出るほど欲しいはず。一本、数万C…いえ、数十万Cの値がついてもおかしくないわ!」

彼女の言葉に、今度は翔の方が驚く番だった。自分の料理が、そこまでの価値を持つとは。
不遇職と言われた拳士。その戦闘能力を支える武術も、金策となる料理スキルも、全てが規格外。彼の存在そのものが、このゲームの常識を覆し始めていた。

――――――――――――――――――――

二人は早速、王都で最も大きな取引が行われるという「王都オークションハウス」へと向かった。ギルドとはまた違う、貴族や豪商、そしてトッププレイヤーたちが集う、華やかでいて格式高い場所だ。
彼らはまず、試験的に『ウルファのステーキ ☆4』を5本、出品してみることにした。結果、リナの予想通り、それは出品された途端に、またたく間に高額で落札されていった。二人は、一瞬にして百万Cを超える大金を手に入れた。

「…すごい。これなら、リナの新しい防具一式が、すぐにでも揃えられるな」

「ええ…。というか、お釣りがくるわね…」

あまりに順調な金策に、二人は顔を見合わせて笑い合った。
オークションハウスのロビーには、近日中に行われる特別な競売の目録が掲示されていた。その一番上に、ひときわ大きく書かれている文字が、二人の目に飛び込んできた。

特別出品スペシャル・オークション: ユニークモンスター“オークキング”討伐素材一式』

「噂には聞いていたけど、これのことだったのね…。落札額は、一体いくらになるのかしら」

リナが感嘆の声を漏らす。その時、彼らのすぐそばで、傲慢そうな声が響いた。

「フン、いくらになろうと、あの素材は我がギルド『雷神の槌トールハンマー』が全て落札する。他の雑魚ギルドに譲るつもりはない」

声の主は、雷を模した豪華な白銀の鎧に身を包んだ、長身の男だった。その立ち姿からは、絶対的な強者だけが持つ自信と威圧感が溢れ出ている。周囲のプレイヤーたちが、彼を「雷帝らいていカイザー…」と、畏怖の念を込めて呼んでいた。トップギルドの一つ、『雷神の槌』のギルドマスター、カイザー。彼もまた、この世界の最前線を走る一人だ。
カイザーは、隣にいた翔とリナを一瞥すると、興味なさげに鼻を鳴らし、仲間と共に去っていった。まさか、その素材を手に入れた張本人が、すぐ隣にいるとは夢にも思わずに。

――――――――――――――――――――

オークションハウスを出て、手に入れた大金でリナの新しいローブや装飾品を新調した後、二人は安らぎ亭の食卓に戻っていた。

「ショウ」
リナが、真剣な面持ちで口を開いた。
「私たち、もっと大きな目標を目指さない?」

「大きな目標?」

「ええ。二人だけのパーティもいいけれど、いつかは、疾風雷電や雷神の槌のような、トップギルドと肩を並べられるような存在になりたい。そのためには、私たちも、私たちの『城』を持つべきだと思うの」

彼女が言わんとしていることを、翔はすぐに理解した。

「ギルドを、作るのか。俺たち二人で?」

「そうよ。二人から始めるの。二人だけのギルド。ギルド倉庫も使えるようになるし、将来的にはギルドハウスも持てる。何より、それは、私たちがこの世界で共に戦っていくっていう、誓いの証になるわ」

翔は、元々ソロプレイヤー志向だった。組織に縛られるのは好まない。
だが、リナと出会い、共に戦ったことで、その考えは変わりつつあった。誰かと目的を共有し、背中を預け合うことの心強さを知ってしまった。それに、彼女の言う通り、自分たちの「城」を築くというのは、悪くない響きに思えた。父の支配する道場でもなく、誰かが作ったギルドに間借りするのでもない。自分たちが、自分たちの意思で作り上げる、始まりの場所。

「…わかった。作ろう、俺たちのギルドを」

翔のその言葉に、リナは満面の笑みを浮かべた。
二人はその日のうちに、冒険者ギルドの奥にある、ギルド管理部門へと向かった。ギルド設立の手続きは、多額の設立資金が必要となるが、今の彼らには何の問題もない。
書類を提出し、手続きは滞りなく進む。

最後に、職員が尋ねた。
「それでは、ギルド名をお決めください」

翔とリナは、顔を見合わせた。何も考えていなかった。
翔は少し考えた後、ふっと笑みを浮かべ、口を開いた。

「ギルド名は――」
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