DPO~拳士は不遇職だけど武術の心得があれば問題ないよね?

破滅

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第二章 聖域の双星

第34話「有名税とギルドハウス」

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『忘れられた王の墓所』の完全攻略。
その偉業がサーバー全体にアナウンスされてから、ゲーム内時間で数週間が経過した。
トップギルド『疾風雷電』と共に、その歴史的な快挙を成し遂げた、たった二人のギルド『聖域』。その名は、DPOのプレイヤーであれば、誰もが知る存在となっていた。
そして、その中心人物である、規格外の拳士ショウと、天才的な魔術師リナの二人は、良くも悪くも、この世界の「有名人」となっていた。

「あ、見て! あれ、『聖域』の二人じゃない?」
「うわ、本物だ…。あの人が、拳士のショウ…」
「隣のエルフ、リナさんだよね? めっちゃ綺麗…」

王都アグウェーの大通りを歩けば、どこからともなく、そんな囁き声が聞こえてくる。時には、サインを求めてくる者や、自分を売り込んでギルドに入れてくれと懇願してくる者まで現れる始末だった。

「…少し、面倒になってきたな」

他人の視線を浴びながら、翔はぼそりと呟いた。彼は、もともと目立つことを好む性格ではない。強さを求めるのは、あくまで自分のためであり、誰かに称賛されるためではなかった。

「仕方ないわよ。それだけ、私たちが成し遂げたことが、すごかったってことなんだから。少しは、胸を張ったらどう?」

隣を歩くリナが、悪戯っぽく笑う。彼女も、当初はこの有名税に戸惑っていたが、持ち前の気の強さで、今ではすっかり慣れたようだった。
この数週間、二人は、決して驕ることなく、地道に冒険者としての活動を続けていた。Dランクの依頼をこなし、時には二人でCランクの依頼にも挑戦した。リナは、手に入れた『星詠みの古文書ほしよみのこもんじょ』の解読を進め、いくつかの新たな魔法を習得し、翔は、自らの戦闘技術と、DPOのシステムとの融合を、さらに高い次元で完成させつつあった。
彼らの実力は、日に日に、確実に向上していた。そして、ギルド『聖域』の口座には、オークキングの素材をオークションにかけたことで得た、莫大な資金が眠っている。

その日、二人は、ギルドとしての、次なる大きな目標を達成するために、王都の中央政庁地区にある、不動産管理局を訪れていた。
その目標とは――ギルドハウスの購入。
彼らだけの『城』を手に入れるためだ。

「ギルドハウスの購入、でございますね。お客様たちのギルド、『聖域』様の名声は、私どもの耳にも届いております」

対応した初老の職員は、丁寧な物腰で説明を始めた。
ギルドハウスを手に入れる方法は、大きく分けて二つ。すでにある建物を購入するか、あるいは、土地の権利書を手に入れ、一から自分たちで建設するか。
当然、後者の方が、自由度も高く、ギルドとしての格も上になる。だが、王都一等地における土地の権利書など、市場に出ることは滅多になく、出たとしても、トップギルドたちが、国家予算並みの金額で奪い合うのが常だった。

「…ですが、お客様たちは、幸運でいらっしゃる」
職員は、意味ありげに微笑んだ。
「実は、つい先日、一つの物件が、売りに出されましてな。場所は、王都でも、特に静かで格式の高い、東の丘陵地区。持ち主であった探検家の方が、長年、行方不明になっており、この度、ようやく法的な手続きが完了したのです。少し古い建物ですが、立地は最高。何より、買い手がつかなければ、国庫に没収されることになっておりましたので、市場価格よりは、かなりお安くできますが…いかがなさいますか?」

その提案に、翔とリナは、顔を見合わせた。
これは、まさに、渡りに船だった。

――――――――――――――――――――

二人が案内されたその物件は、彼らの想像以上に、素晴らしい場所だった。
王都の喧騒から少し離れた、緑豊かな丘の上。そこには、蔦の絡まる、趣のある石造りの二階建ての家が、静かに佇んでいた。大きくはないが、二人(と、将来増えるかもしれない仲間)が暮らすには、十分な広さがある。そして、家の裏手には、鍛錬をするのに、うってつけの、日当たりの良い中庭までついていた。
何より、その家が持つ、穏やかで、どこか懐かしい雰囲気が、二人の心を捉えた。まさしく、彼らのギルド名である『聖域』に、ふさわしい場所だった。

「…ここにしよう」
翔のその一言で、全ては決まった。
彼らは、その場で、莫大な資金の一部を支払い、その家の所有権を、ギルド『聖域』のものとした。職員から、一本の古びた、しかし美しい装飾が施された『ギルドハウスの鍵』を受け取った時、リナの瞳には、うっすらと涙が浮かんでいた。

自分たちの、家。自分たちの、城。
その鍵を、翔が、ゆっくりと扉の鍵穴に差し込み、回す。
ギィ…という、心地よい音と共に扉が開かれ、二人は、自分たちの聖域へと、初めて、足を踏み入れた。

「わぁ…!」

中は、長年、人が住んでいなかったため、埃っぽくはあったが、作りはしっかりとしており、大きな暖炉や、吹き抜けの天井など、温かみのあるデザインが施されていた。

「掃除や、家具の配置、やることが、たくさんあるわね!」
リナが、楽しそうに、くるくると部屋の中を見て回る。
その時、開け放たれたままの扉から、一人の老人が、遠慮がちに顔を覗かせた。

「…もし。この家の、新しい持ち主の方かな?」

その老人は、上品なローブを身につけ、その顔には、深い知識と、穏やかな人柄が滲み出ていた。

「ああ、そうだ。今日から、俺たちのギルドハウスになる」

「ほう、ほう。それは、めでたい。わしは、アルフォンスAlphonse。隣で、錬金術の研究をして、隠居暮らしをしておる者じゃ。よろしく頼む」

賢者、と呼ばれているらしいその老人は、にこやかに自己紹介をした。

「この家はな、わしの古い友人の家だったんじゃよ。彼は、優秀な探検家でのう…もう何年も前に、伝説の『空飛ぶ島そらとぶしま、アエリアル』を探しに行くと、旅立ったきり、戻ってこんのじゃ」

アルフォンスは、少し寂しそうに目を細めると、懐から、一つの古びた方位磁針を取り出した。

「これは、引っ越しの挨拶代わりじゃ。その友人が、ここに遺していったものでの。どうも、壊れておるようで、北を指さん。じゃが、友人は、こう言っておった。『こいつは、北ではなく、持ち主の、最も大いなる望みを指し示す、魔法の羅針盤なのじゃ』と。…まあ、おかしなことを言うやつじゃったがの。若いおぬしらなら、何か、使い道を見つけられるやもしれん」

老人はそう言うと、その奇妙な羅針盤を翔に手渡し、静かに去っていった。

誰もいなくなった、がらんとしたギルドハウスの中。
翔は、手の中にある、その不思議な羅針盤を、じっと見つめていた。
(俺の、最も大いなる望み…)
それは、一体、何なのだろうか。
彼が、この世界の、さらなる高み、まだ見ぬ冒険へと、無意識に思いを馳せた、その瞬間。

カチリ、と。
羅針盤の針が、微かに、震えた。
そして、ゆっくりと、しかし、確かに、一つの方向を指し示した。
それは、北でも、南でもない。
遥か、頭上――空の、彼方だった。

新たな冒DPOの、壮大な冒険の舞台が、今、まさに、天上に開かれようとしていた。
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