DPO~拳士は不遇職だけど武術の心得があれば問題ないよね?

破滅

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第一章 不遇職の拳士

第33話「王の遺産とそれぞれの道」

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『忘れられた王の墓所』の主が遺した、光の階段。その先で、合同攻略パーティ『疾風雷電』と『聖域』を待っていたのは、彼らの想像を絶する、壮麗な光景だった。

そこは、王の宝物庫。
だが、金銀財宝が山と積まれた、俗的なそれではない。
広大な空間そのものが、まるで星空のように、穏やかな光を放っていた。床には、天の川のような光の帯が流れ、壁面には、古代の英雄たちが使ったとされる、伝説級の武具が、静かな輝きを放ちながら飾られている。それは、王が後世の勇者たちへと遺した、最大の感謝と、祝福の証だった。

「…すごい。これが、王の遺産…」
パーティの誰もが、そのあまりに幻想的な光景に、言葉を失っていた。

「よし、全員、聞いてくれ!」
最初に我に返ったジョーが、パーティの面々に向かって声を張り上げた。
「これより、戦利品の分配を行う! 事前の取り決め通り、分配は、各々の貢献度に応じて、公平に行う。だが、今回の攻略における最大の功労者が誰であったか、それに異論を唱える者は、ここには一人もいないだろう!」

ジョーは、そう言うと、翔とリナの二人に向き直った。
「ショウ君、リナ君。君たちに、全てのアイテムに対する、優先選択権を与える。好きなものを、好きなだけ持っていくといい。我々が、この場所へたどり着けたのは、君たちのおかげだ。これは、疾風雷電全員の総意だ」

その言葉に、ゲイルやサラをはじめ、疾風雷電のメンバー全員が、力強く頷いた。
翔とリナは、顔を見合わせ、その申し出に、深く頭を下げた。

リナが、まず心惹かれたのは、部屋の中央、ひときわ強い魔力を放つ祭壇の上に置かれていた、一冊の分厚い古文書だった。表紙は、星々を縫い込んだかのような、美しい装丁が施されている。

「これは…『星詠みの古文書ほしよみのこもんじょ』…?」
彼女がそれに手を伸ばすと、古文書は、まるで主を認めたかのように、自らそのページを開いた。そこには、彼女が生涯をかけて研究してきた、失われた古代魔法の数々が、美しい文字で記されていた。
「…すごい。これさえあれば、私の研究は、何十年も先に進むわ…!」
彼女は、宝物を抱きしめるように、その古文書を胸に抱いた。それは、彼女にとって、どんな強力な武具よりも価値のある、最高の報酬だった。

一方、翔は、数々の伝説級の武具には目もくれず、宝物庫の隅で、ただ一つ、静かな光を放っている、小さな指輪に引き寄せられていた。
それは、王が座っていた玉座の石と同じ、白い石で作られた、何の飾りもない、簡素な指輪だった。だが、翔には、その指輪が、この宝物庫にある、他のどんなアイテムよりも、気高く、そして力強い魂を宿しているように感じられた。
彼がその指輪を手に取ると、アイテム情報が視界に表示された。

――――――――――――――――――――
王の心環おうのしんかん
・レア度: Legend+
・種別: 指輪(アクセサリー)
・装備条件: 攻略者の魂を認めし者
・性能: 全ステータス+50
・特殊効果: 【守護者の誓いガーディアンズ・ヴォウ】…常時発動型パッシブスキル。半径10メートル以内にいる、パーティ及びギルドメンバーの全防御力と、状態異常耐性を、わずかに上昇させる。装備者の心が強いほど、その効果は増大する。
・説明: 忘れられた王の、民を愛し、世界を守ろうとした、気高き心が結晶化した指輪。所有者は、王の遺志を継ぐ者となる。
――――――――――――――――――――

攻撃力を上げるでもなく、派手なアクティブスキルがあるわけでもない。
だが、その指輪の効果は、まさしく、翔が自ら見つけ出した、「守るために戦う」という、彼の覚悟そのものを、体現しているかのようだった。

「…これにする」

翔は、その指輪を、ゆっくりと、自らの指にはめた。温かい光が、彼の心臓に流れ込んでくるようだった。

その後、疾風雷電のメンバーたちも、それぞれに、自らの戦い方に合った、最高の武具やアイテムを手にしていった。ゲイルは、魔法を吸収する能力を持つ、伝説の『鏡面の盾きょうめんのたて』を。サラは、回復魔法の効果範囲を増大させる、『世界樹の枝杖せかいじゅのしじょう』を。
宝物庫に残されたアイテムは、全て、彼らの功績にふさわしい、最高の報酬だった。

そして、ジョーは、翔に一つの報告をした。
「ショウ君、君が出品を頼んでいた、オークキングの素材だが…先日、王都のオークションで、とんでもない額で落札された。手数料を引いた全額を、君たちのギルド『聖域』の口座に、振り込んでおいたぞ」

その額は、翔の想像を、遥かに超えるものだった。
彼らのギルドは、今や、DPOの世界でも、有数の資産を持つ、裕福なギルドとなっていたのだ。

――――――――――――――――――――

全ての分配を終え、一行は、ダンジョンからの帰路についた。
霊廟の入り口で、ジョーが、改めて、翔とリナに向き直った。

「今回の君たちの働き、言葉では言い尽くせないほど、感謝している。この借りは、必ず返す。また、いつか、どこかの戦場で、共に戦える日が来ることを、楽しみにしている」

「こちらこそ。あんたたちと戦えて、楽しかった」

翔とジョーは、固い握手を交わした。ゲイルも、翔の肩を一度だけ強く叩くと、「…借りは、いずれ返す」と、彼らしい言葉で、別れを告げた。
こうして、DPOの世界に衝撃を与えた、トップギルドと、無名の二人組ギルドの、奇妙な合同攻略は、最高の形で、その幕を閉じたのだった。

――――――――――――――――――――

王都アグウェーに戻った翔とリナは、馴染みの宿屋、「安らぎ亭」の食卓にいた。
「おかえりなさい、ショウさん、リナさん! お二人とも、なんだか、すごく、たくましくなったみたいです!」
ユアが、満面の笑みで、二人を出迎えてくれた。

リナは、手に入れたばかりの古文書を、夢中になって読み解いている。その横顔は、これまでにないほど、生き生きと輝いていた。
翔は、指にはめられた『王の心環』を、静かに見つめていた。
彼は、この冒険を通して、多くのものを手に入れた。
圧倒的なレベル、最高の装備、莫大な資産。そして、何よりも、かけがえのない仲間と、自らが進むべき道。
彼はもう、ただ親父に反発し、現実から逃げてきた、かつての少年ではなかった。
自らの居場所を守り、仲間を守るために、その力を振るう、一人の、誇り高き「拳士」だ。

「ねえ、ショウ」
リナが、古文書から顔を上げて、いたずらっぽく微笑んだ。
「私たちの冒険、まだ、始まったばかりよね?」

その言葉に、翔は、静かに、そして力強く頷き返した。
その紅い瞳には、これから始まるであろう、新たな物語への、揺るぎない決意の光が宿っていた。

「ああ。もちろんだ」

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