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1章
5.ちゃんと仕事をします
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「いまいきまーす」
お客さんに返事をしながら、小走りで向かう。
えーっと、こっちの方から声がしたと思ったんだが……
「こっちこっちー」
迷ってたのがバレたらしい。テーブル席に二人で座っているお兄さんのうち、一人が手を上げてひらひらと振ってくれた。
おかげでたどり着いたが、俺、中身は高校生だよな?
ちょっとへこむ。
「おにいさん、ありがとうございます。なにかごようですか?」
お礼を言ってから要件を聞く。
「へー。しっかりしてんなぁ。ここで働いてるってことは、この店の子?」
さっき手を振ってくれたお兄さんではない、落ち着いた緑色の髪のお兄さんが言った。
ちなみに、振ってくれたお兄さんは茶髪だ。
「はい。あの、えっと……」
「あ、ごめんごめん。俺達、ここ来るの初めてで。すぐ前にいた人達が店員さんの案内なしに席に座ってたから、俺達も空いてるとこ座っちゃったけど、大丈夫だった?」
緑髪のお兄さんがちょっと心配そうに言った。
「だいじょうぶですよ。はじめてのごらいてん、ありがとうございます」
笑顔は忘れない。子どもの笑顔ってのは武器なのだ。ほら、お兄さん達、ちょっと癒されてるでしょ。
え?子どもの考えることじゃない?だって中身が……
っと、仕事仕事。
「じゃあ、おみせのこと、かんたんにせつめいしますね」
「うん」
「お願いしまーす」
茶髪のお兄さんと緑髪のお兄さんがそれぞれ返事をしてくれたところで、長くならないように、大事なことは漏らさないように説明していく。
「まず、さっきもおはなししましたが、おみせにはいったら、あいてるせきにすわってだいじょうぶです。こんでるときや、じかんによっては、あんないすることがあるので、そのときはあんないしたせきにすわってください」
二人とも頷いてくれてる。ちゃんと説明できてるみたいだ。
「せきは、テーブルせきと、カウンターせきがありますが、きほんはテーブルせきでおねがいします。カウンターせきはちゅうぼうのまえなので、てんいんどうしのやりとりをそこでおこないます」
「カウンター席?」
緑髪のお兄さんがきょろきょろと店内を見渡していると、茶髪のお兄さんが指差しながら言った。
「あれじゃないかな」
カウンター席、と言ってはいるが、実際は厨房と店内の店員がやりとりをするカウンターに椅子を置いてみただけのお粗末な席だ。
俺もカウンターの方を見ると、丁度ロイ兄が父さんから料理を受け取るところだった。
「なるほど。料理をあそこからウェイターに渡すのか」
「ほかにも、ちゅうもんのメモをわたしたりします」
だからカウンター席はどうしても、って時しか使わない。数も少ないし。
正直、お互い邪魔だし。
俺はあの席にお客さんが座っているのを見たことがない。あって無いような席だ。
「メニューは、それぞれのテーブルのうえにおいてあるので、きまったらてんいんをよんでください」
「これのことかな。定番と日替わりの二枚あるけど、これは?」
茶髪のお兄さんが二枚のメニューを指して聞いた。
緑髪のお兄さんはもうメニューを眺め、選び始めているようだ。
「ていばんメニューは、いつでもたべられます。ひがわりメニューは、どんなしょくざいがあるかで、そのひにだすメニューをきめます。おみせのそとのかんばんにかいてあります」
「なるほどね。日替わりメニューはお店に来てみないと分からない、お楽しみメニューって感じかな」
「で、今日の日替わりメニューは何だ?俺、外の看板よく見なかったんだよ」
緑髪のお兄さんが何かを訴えるような言った。
「きょうのひがわりは、シウーのサンドイッチです」
少し不思議に思いながら答えると、お兄さんはガッツポーズで喜んだ。
「よっしゃ!メニューにシウーがあったの見てから食べたいと思ってたんだ。俺はそれにするよ」
そういうことか。
さ、注文取る時のメモ……ん?
「あれ?」
「どうした?」
お兄さん達が不思議そうにこちらを見る。
「えっと……、ちゅうもんをメモするかみをわすれちゃったみたいで……」
うぅ……。恥ずかしい。俺は子どもだけど子どもじゃないんだよ。って、さっきもこんなあったような……。
「ははっ。いいよ。待ってるから持っておいで」
「ゆっくりでいいからな」
二人とも笑いながら言ってくれた。
お兄さん達、優しすぎないか?イケメンじゃん。
「すみません、すぐとってきます」
一度頭を下げて、小走りでメモ用紙を取りに行く。
メモ用紙と言っても、裏紙やら、何かの書類の切れっぱしやら。本当に、書ければオーケーって感じのやつだ。
「おまたせしました。ごちゅうもんは……」
「俺はシウーのサンドイッチと、ミルクティー。……後で追加注文出来たりする?」
先にそう言ったのは緑髪のお兄さん。さっきもシウー食べたいって言ってたしね。
注文を聞きながらメモを取っていた顔を上げて答える。
「できますよ」
「んじゃ、とりあえずそれで」
「はい。おにいさんは、なににしますか?」
今度は茶髪のお兄さんの注文を聞く。
「僕はこのBセットにしようかな。飲み物はコーヒーで」
Bセットは定番メニューのうちの一つだ。
「え、お前、シウーにしないの?」
緑髪のお兄さんちょっと驚いたように言うと、茶髪のお兄さんは素敵な笑顔で返した。
「うん。君のを少し貰うから」
「えーー……」
緑髪のお兄さんは嫌そうな顔をしているけど、どこか諦めも入ってる感じがする。多分普段からこの調子なんだろうな。
「コーヒーのミルクとおさとうはどうしますか?」
「なしで」
「わかりました」
注文の確認をして、メモをカウンターの上に置きに行く。
とりあえず俺の仕事はこれで一区切り。背が低いのでカウンターから料理を取って運ぶのはまだ難しいのだ。断じて届かないわけではない。届く。届くったら届く。まぁ、自分で食べる物なら良いが、お客さんに運ぶ料理だ。出来るだけリスクは避けるべきだろう。
あとは、お客さんが帰った後にテーブルの片付けをするくらいかな。お皿をまとめて、テーブルを拭く。お皿はロイ兄とか、ムルカ兄とかが厨房に持って行ってくれる。
俺は手伝い始めてすぐの頃に、重ねて持っていたお皿をガッシャーンと盛大に割ってから、お皿の片付けはさせてもらえない。割った俺が悪いから文句は言えないんだが……。プライドが傷つく。俺、高校生……。
「おーい。注文いいかい?」
次のお客さんだ。
「はーい。いまいきまーす」
返事をして呼ばれた方へ向かう。
注文を聞いて、メモを厨房に渡す。お客さんが帰ったテーブルの片付けをして、また次のお客さんの注文を聞く。
俺の仕事は基本これの繰り返しだ。
まだ朝だからお客さんは少ないが、多分今日はこれからどんどん増える。今日の日替わりが、人気メニューのシウーのサンドイッチだから。朝来た人が、他の人に話して、それを聞いた誰かがまた話して……。あっという間に広がって、お昼過ぎ、早ければお昼前にはお店がいっぱいになるんじゃないか?
忙しくなるなー。ハノさん来ないと回んないぞ?メイラ姉は来るのかな?
お客さんに返事をしながら、小走りで向かう。
えーっと、こっちの方から声がしたと思ったんだが……
「こっちこっちー」
迷ってたのがバレたらしい。テーブル席に二人で座っているお兄さんのうち、一人が手を上げてひらひらと振ってくれた。
おかげでたどり着いたが、俺、中身は高校生だよな?
ちょっとへこむ。
「おにいさん、ありがとうございます。なにかごようですか?」
お礼を言ってから要件を聞く。
「へー。しっかりしてんなぁ。ここで働いてるってことは、この店の子?」
さっき手を振ってくれたお兄さんではない、落ち着いた緑色の髪のお兄さんが言った。
ちなみに、振ってくれたお兄さんは茶髪だ。
「はい。あの、えっと……」
「あ、ごめんごめん。俺達、ここ来るの初めてで。すぐ前にいた人達が店員さんの案内なしに席に座ってたから、俺達も空いてるとこ座っちゃったけど、大丈夫だった?」
緑髪のお兄さんがちょっと心配そうに言った。
「だいじょうぶですよ。はじめてのごらいてん、ありがとうございます」
笑顔は忘れない。子どもの笑顔ってのは武器なのだ。ほら、お兄さん達、ちょっと癒されてるでしょ。
え?子どもの考えることじゃない?だって中身が……
っと、仕事仕事。
「じゃあ、おみせのこと、かんたんにせつめいしますね」
「うん」
「お願いしまーす」
茶髪のお兄さんと緑髪のお兄さんがそれぞれ返事をしてくれたところで、長くならないように、大事なことは漏らさないように説明していく。
「まず、さっきもおはなししましたが、おみせにはいったら、あいてるせきにすわってだいじょうぶです。こんでるときや、じかんによっては、あんないすることがあるので、そのときはあんないしたせきにすわってください」
二人とも頷いてくれてる。ちゃんと説明できてるみたいだ。
「せきは、テーブルせきと、カウンターせきがありますが、きほんはテーブルせきでおねがいします。カウンターせきはちゅうぼうのまえなので、てんいんどうしのやりとりをそこでおこないます」
「カウンター席?」
緑髪のお兄さんがきょろきょろと店内を見渡していると、茶髪のお兄さんが指差しながら言った。
「あれじゃないかな」
カウンター席、と言ってはいるが、実際は厨房と店内の店員がやりとりをするカウンターに椅子を置いてみただけのお粗末な席だ。
俺もカウンターの方を見ると、丁度ロイ兄が父さんから料理を受け取るところだった。
「なるほど。料理をあそこからウェイターに渡すのか」
「ほかにも、ちゅうもんのメモをわたしたりします」
だからカウンター席はどうしても、って時しか使わない。数も少ないし。
正直、お互い邪魔だし。
俺はあの席にお客さんが座っているのを見たことがない。あって無いような席だ。
「メニューは、それぞれのテーブルのうえにおいてあるので、きまったらてんいんをよんでください」
「これのことかな。定番と日替わりの二枚あるけど、これは?」
茶髪のお兄さんが二枚のメニューを指して聞いた。
緑髪のお兄さんはもうメニューを眺め、選び始めているようだ。
「ていばんメニューは、いつでもたべられます。ひがわりメニューは、どんなしょくざいがあるかで、そのひにだすメニューをきめます。おみせのそとのかんばんにかいてあります」
「なるほどね。日替わりメニューはお店に来てみないと分からない、お楽しみメニューって感じかな」
「で、今日の日替わりメニューは何だ?俺、外の看板よく見なかったんだよ」
緑髪のお兄さんが何かを訴えるような言った。
「きょうのひがわりは、シウーのサンドイッチです」
少し不思議に思いながら答えると、お兄さんはガッツポーズで喜んだ。
「よっしゃ!メニューにシウーがあったの見てから食べたいと思ってたんだ。俺はそれにするよ」
そういうことか。
さ、注文取る時のメモ……ん?
「あれ?」
「どうした?」
お兄さん達が不思議そうにこちらを見る。
「えっと……、ちゅうもんをメモするかみをわすれちゃったみたいで……」
うぅ……。恥ずかしい。俺は子どもだけど子どもじゃないんだよ。って、さっきもこんなあったような……。
「ははっ。いいよ。待ってるから持っておいで」
「ゆっくりでいいからな」
二人とも笑いながら言ってくれた。
お兄さん達、優しすぎないか?イケメンじゃん。
「すみません、すぐとってきます」
一度頭を下げて、小走りでメモ用紙を取りに行く。
メモ用紙と言っても、裏紙やら、何かの書類の切れっぱしやら。本当に、書ければオーケーって感じのやつだ。
「おまたせしました。ごちゅうもんは……」
「俺はシウーのサンドイッチと、ミルクティー。……後で追加注文出来たりする?」
先にそう言ったのは緑髪のお兄さん。さっきもシウー食べたいって言ってたしね。
注文を聞きながらメモを取っていた顔を上げて答える。
「できますよ」
「んじゃ、とりあえずそれで」
「はい。おにいさんは、なににしますか?」
今度は茶髪のお兄さんの注文を聞く。
「僕はこのBセットにしようかな。飲み物はコーヒーで」
Bセットは定番メニューのうちの一つだ。
「え、お前、シウーにしないの?」
緑髪のお兄さんちょっと驚いたように言うと、茶髪のお兄さんは素敵な笑顔で返した。
「うん。君のを少し貰うから」
「えーー……」
緑髪のお兄さんは嫌そうな顔をしているけど、どこか諦めも入ってる感じがする。多分普段からこの調子なんだろうな。
「コーヒーのミルクとおさとうはどうしますか?」
「なしで」
「わかりました」
注文の確認をして、メモをカウンターの上に置きに行く。
とりあえず俺の仕事はこれで一区切り。背が低いのでカウンターから料理を取って運ぶのはまだ難しいのだ。断じて届かないわけではない。届く。届くったら届く。まぁ、自分で食べる物なら良いが、お客さんに運ぶ料理だ。出来るだけリスクは避けるべきだろう。
あとは、お客さんが帰った後にテーブルの片付けをするくらいかな。お皿をまとめて、テーブルを拭く。お皿はロイ兄とか、ムルカ兄とかが厨房に持って行ってくれる。
俺は手伝い始めてすぐの頃に、重ねて持っていたお皿をガッシャーンと盛大に割ってから、お皿の片付けはさせてもらえない。割った俺が悪いから文句は言えないんだが……。プライドが傷つく。俺、高校生……。
「おーい。注文いいかい?」
次のお客さんだ。
「はーい。いまいきまーす」
返事をして呼ばれた方へ向かう。
注文を聞いて、メモを厨房に渡す。お客さんが帰ったテーブルの片付けをして、また次のお客さんの注文を聞く。
俺の仕事は基本これの繰り返しだ。
まだ朝だからお客さんは少ないが、多分今日はこれからどんどん増える。今日の日替わりが、人気メニューのシウーのサンドイッチだから。朝来た人が、他の人に話して、それを聞いた誰かがまた話して……。あっという間に広がって、お昼過ぎ、早ければお昼前にはお店がいっぱいになるんじゃないか?
忙しくなるなー。ハノさん来ないと回んないぞ?メイラ姉は来るのかな?
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