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1章

36.後期初日

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 六月。五月の長期休暇を終え、一年も半分が終わった。
 ちなみに、俺の休みは、課題と店の仕事で大半が消えた。とは、いえ、店の仕事は嫌いじゃないし、クラスメイトも何人か来てくれて、お昼ご飯を一緒に食べたり、喋ったり、喋り過ぎて母さんに叱られたりした。
 最後の以外は結構楽しい休みだった。遊びに行けないわけでもなかったし。
 今日から後期。教室に入ると、クラスメイトのほとんどが、長期休暇の思い出を話していた。

「はい、おはよーございます。席に座って下さーい」

 いつものように教室に入って来たクレイ先生は、休暇中の課題を集め、少し話をした後、授業を始めた。


……………………



 昼休み。

「おい、ロアン。命令だ。僕と一緒に昼食を取れ」

 あぁ。アレクの命令も久々だなぁ。
 ミゲリオさんが、

「坊ちゃん……。自分から声をかけるなんて、成長したっすねぇ」

 とか呟いてるが、成長してないぞ。命令するのをやめろっての。
 まぁ、この命令を断れるだけの理由は、残念ながら持ち合わせてない。

「はいはい。どこで食べんの?」

 まだ、友達と言うにはなんとも微妙な関係だが、遠足以降、教室内でも普通に喋るようになっていた。
 ちなみに、俺の『アレクと関わらない宣言』は、とうの昔に諦めている。もうどうにでもなれ。

「そうだな……天気がいいから、窓際の席にしよう」

 アレク、いつも窓際じゃん。
 てか、外に出よう、じゃないんだ。

「外には行かないのか?」

「外は……いい」

 ?

「まぁ、どっちでもいいけど」

 俺が椅子に座ろうとすると、『違う』と言われた。
 え?何が違うの?

「机と椅子はもっと窓に寄せるんだ」

 アレクはそう言って、机を魔法で移動させた。

「何でわざわざそんなこと……」

「こうした方が、空がよく見えるだろう?」

「空、好きなの?」

「……別にいいだろう」

 悪いとは言ってない。

「食べるか。……あれ?ミゲリオさんは、座らないんですか?」

 前期は、アレクとミゲリオさん、二人でお昼食べてたと思ったけど。

「せっかくロアン君と一緒なんす。俺は退散するっすよ。お二人で仲良く食べて下さいっす」

 いや、だから、仲良くないってば。

「どこに行くんだ?」

「教員用の食堂っす。坊ちゃん、なるべく教室から出ないで下さいね」

 そう言って、ミゲリオさんは、教室を出て行った。
 いていいのに。
 アレクは、早速弁当を広げ始めた。
 なんて豪華なお弁当。……貴族が弁当ってのは、まぁいいとして。メニューがさぁ。コース料理を詰めましたみたいな。キラキラしてるよ。

「何だ。僕の弁当ばかり見て。食べないのか?」

 そりゃ、見るよ。
 俺も、自分の弁当を広げながら言う。

「豪華な弁当だな、と思ってさ」

 俺の今日の弁当は、ハンバーグサンドだ。
 元日本人としては、米が食べたいが、この世界で米を見たことも聞いたこともない。どこかにあるといいんだが。
 そういうわけで、弁当と言えば、サンドイッチが基本だ。パスタもあるが、弁当に入ることは稀。

「それは何だ?」

 え?まさか。

「サンドイッチ知らないの?」

「あぁ。サンドイッチと言うんだな」

 嘘だぁ。庶民の食事と言えば、サンドイッチが一般的だぞ?日本で言うところの、米だぞ?米。
 ……違う。こいつ、庶民じゃない。貴族だ。

「気になるなら、ウチに食べに来ればいい」

 俺の弁当はやらん。
 金持ちは金使え。そして店を繁盛させて俺の小遣いを増やしてくれ。

「また叩くのか?」

「叩かないよ!」

 俺をなんだと思ってるんだ。

「ふっ。冗談だ。……だが、僕は平民の店のことなんて知らないぞ?」

「知ろうという気はあるんだな」

 ……成長したなぁ。すっかり丸くなっちゃって。
 長期休暇の間になんかあった?

「休暇中、家庭教師に言われたんだ。『貴族の生活と平民の生活は大きく異なるから、ちゃんと知っておけ』とな。『貴族の暮らしを支えるのは、領地にすむ民だ』と父様も言っていた」

 ほう。なかなかいいことを言う。

「店までは来れるだろ?俺が教えてやるよ。休日の……昼に来てくれ」

 ついでに俺もお昼ご飯食べればいいだろ。

「ふん。そこまで言うなら教わってやろう」

 そんなん言うなら教えてやらないぞ。

「ま、店で待ってるよ」

 大丈夫かなぁ、なんて思いながら、ふと窓の外、少し下を見ると、誰かが裏庭の方へ歩いていた。
 昼休みに裏庭って、何の用があるんだ?
 よく見ると、四人いるうちの一人は知った顔だった。

「ルマだ。何してんだろ」

「ん?何があるんだ?」

 下を見ていた俺が気になったのか、アレクも見下ろす。

「あっ」

 前の二人と間隔を開けて歩いていたルマは、後ろにいた一人に背中を蹴られた。

「悪い。俺、様子見てくる」

 そう言って立ち上がると、アレクも立ち上がる。

「アレクはダメだろ。ミゲリオさんに言われてたじゃん」

 『教室から出るな』って。

「だが、あんなのを見ては……」

「俺が行くってば。すぐ戻るから!」

 俺は教室を飛び出した。校舎は土足だから、そのまま外に出て、裏庭へ向かう。

「ええっと……」

 こっちか。この辺だ。
 裏庭には、滅多に人が入らず、人目につくことはほぼない。虐めるにはうってつけだ。
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