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1章
37.ルマの秘密
しおりを挟む「おい、お前、ルマだろ?」
「さっきもそうだって言ったじゃん。お前達こそなんなんだよ」
「俺達は、一年二組の……」
っと。声がする。
建物の影からそっと覗くと、ルマは壁際に追いやられ、三人に囲まれていた。
一対三。そりゃねぇだろ。
「あれ?ルマじゃん。何やってんのー?」
手を振りながら、偶然通った感を装って近付いていく。
普段は人が通らない裏庭を、偶然通るなんてあるはずもないんだが。こいつらバカっぽいし、騙されてくれるだろ。
「何?お前、こいつの友達?」
三人の真ん中に立っている……あー、リーダー君と命名しよう。リーダー君が、ルマを指差しながら言った。
「あぁ。そうだけど、どうしたの?」
あくまでも、俺は偶然通っただけだ。今はどちらの味方の振りもしてはいけない。
「お前は知ってんの?こいつ、人間じゃないんだぜ?」
人間じゃない?
「どういうことだ?」
ルマをチラッと見ると、ルマの表情が曇ったのが見えた。
「ハハッ。ルマくーん、騙してたんだ?こいつはお前のこと、友達って言ってくれたのにな!」
腰巾着はちょっと黙っててくれない?話が進まない。
「で?どういうこと?」
再度問うと、リーダー君が答えた。
「こいつはなぁ!獣人なんだよ!」
獣人。獣の相を持つ者。身体能力が人間より高い代わりに、魔力を持つことはない種族。人型、半獣型、獣型の三種類の姿になることが出来る。
「ルマ、獣人だったの?」
俺は、ルマの正面に立ち、言葉に感情を込めずに問う。賞賛も、嫌悪も、何も込めずに。
「そう、だよ」
ルマは、目を逸らして答えた。
「ふーん」
獣人は、獣型、つまり、動物と同じ姿になれることから、差別の対象になることがある。『卑しい獣が』『獣の分際で人間と同じ振る舞いをするな』と。
特に貴族による差別が酷いと聞くが、平民の間にも、獣人への差別意識が広がっている。
「何で、言わなかったの?」
「……」
ルマは答えない。まぁ、言わなかった理由なんて、聞かなくても分かるけどね。
「自分が汚い獣だってバレるのが怖かったんだろ!」
「せっかく出来たお友達だもんなぁ!」
あっはっはっは、と後ろの三人が大笑いする。
ルマは何も言い返さない。基本的に、争うのが好きじゃないから、自分が言われるだけなら何もしないんだろう。
「……はぁ」
俺がため息を吐くと、ルマの肩がピクッと動き、顔を俯かせた。
「なぁ、ムカつく。殴っていい?」
俺が正面向いたまま聞くと、リーダー君が答えた。
「アハハッ。いいじゃん。最高じゃん!やっちまえ!」
あ、そう?
「じゃ、遠慮なく」
俺は拳を握ってルマに一歩近付き、ルマが身構えたのを見る。
そんで……
「ぎゃあっ!」
クルッと振り返って、その勢いのまま、リーダー君の顔を思いっきり殴ってやった。
「えっ……」
後ろでルマが驚いた声がした。
「なっ!お前、何してんだ!」
腰巾着が何か言ってる。
「何って……殴っただけ」
「なんで殴るんだよ!」
「殴っていいって言ったじゃん」
「そいつを殴るんじゃないのか!」
巾着一号に続いて、巾着二号がルマを指差して叫んだ。
は?
「俺がルマを殴る?寝言は寝て言え!友達を殴るのはケンカした時だけで十分だ!」
「……ケンカしたら殴られるのかぁ」
ルマが後ろで言うけど、ケンカしたら、ねぇ。そういうこともあるじゃん?
「……お前、そいつに殴っていいか聞いただろ」
リーダー君が起き上がってきた。
寝てていいのよ?
「いや?俺はお前を殴るって言ったつもりだったんだけど……」
ほら、たまたま、偶然、正面にルマがいただけで。
ほんと、偶然だって。ちょっと予想してた偶然。ね。
「ふ、ふざけるなぁ!」
あ、やべ。
俺ってば、殴ったはいいけど、殴られる時ってどうすればいいのか分かんない。とりあえず、目瞑る?
向かってくるリーダー君の拳に特に対処出来ず、目を瞑る瞬間、視界の端で何かが動いた気がした。
「いっ!イッテェ!」
およ?
衝撃は来ず、声が聞こえて目を開けると、ルマがリーダー君の腕を握っていた。
「俺の友達、殴らないでくれない?」
っはぁー!イケメン!カッコいい!
「くそ、離せよ!」
「お前っ!」
リーダー君が捕まったのを見て、巾着一号がルマに向かって来た。
……あれ?こっちが二号?テキトーに付けたから忘れちった。
と、そこへ、アレクがミゲリオさんを連れてやって来た。
「おい、何をしているんだ?」
『本家・偉そうな態度』って感じ。なんか、本物は違うなぁ。
って、そんなことはどうでもいいんだよ。
「おい、あれ、貴族の……」
「やべぇじゃん」
「……チッ」
三人は、アレクにビビったのか、さっさと逃げてしまった。
「ルマ、あいつの手、離しちゃったの?」
「まぁ、アレクを放ってあっちに構ってあげることも出来ないかなって」
そりゃそうか。
「なんだ?終わったのか?」
アレクは、三人が逃げてった方を見て言った。
「お前が来たからな」
「?そうか。結局、何だったんだ?」
それ、聞く?……まぁ、聞くよな。
ルマを見るが、表情は明るくない。
「あぁーっと、そのぉ」
何か、誤魔化せないかととりあえず声を発してみるが、ルマに止められた。
「いいよ、話すから」
ごめん。役立たずで。
「その、今まで黙ってたんだけど……」
ルマはそこまで言うが、その先が言い出せない。
無理もない。平民にも差別されるが、貴族のはさらに酷いという噂がある。アレクとは普通に話すようになったとはいえ、貴族に打ち明けるなんて……。
「別に、言いたくないなら、言わなくてもいいぞ?」
アレクはそう言ったが、ルマはアレクの目を見て打ち明けた。
「……俺、獣人なんだ」
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