転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。

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1章

38.獣人さん

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 ルマの告白を聞いたアレクは、目をパチクリさせて言った。

「なんだ。そんなことか」

「「えっ?」」

「何を驚いている?」

 いや、そりゃ。驚くでしょ。
 俺は前世でファンタジー好きだったから、獣人だって、受け入れるどころか、いいなぁとすら思うけど。この世界でだって、全員が全員、獣人を差別するわけじゃないけど。

「あの、貴族って、獣人差別が激しいって聞いてたから……」

 ルマが遠慮がちに言う。
 もちろん、貴族にも平民にも、獣人に好意的な人もいる。けど、目立つのはやはり、差別的な人なわけで。貴族は獣人に酷い扱いをする、というのが、平民が持つイメージになっている。

「まぁ、僕も、そういう貴族がいるという話も聞く」

 やっぱり、いるにはいるんだな。

「じゃあ、アレクは特に獣人を嫌ってるわけじゃないんだ?」

 俺が聞くと、アレクは予想外の答えを返してきた。

「嫌うもなにも、ミゲリオが獣人だぞ?」

「「えぇっ⁉︎」」

「えっ?言っちゃうんすか?」

「ダメだったか?」

「いや、まぁいいっすけど。普通、本人の許可取りません?」

「許可?なぜだ?」

「獣人って、差別されることがあるから、隠したい人も多いんすよ」

「あぁ、そうか」

 驚く俺とルマを放って、アレクとミゲリオさんの会話が続く。
 ちょ、ちょっと。

「待って」

「ん?なんすか?」

「ミゲリオさんも獣人なんですか?」

 ルマが、獣人ってだけでも驚いてるのに、ミゲリオさんまで。
 獣人の数が少ないわけじゃないとは言え、獣人の国は人間の国とは別に存在する。人間の国にいる獣人は、なかなか珍しいと思っていたが……。

「そうっす。意外といるもんすよ。人間の国に住む獣人って」

 人型になっていて、気付いてないだけかもしれないってことか。

「ミゲリオさんって、何の獣人なんですか?」

 ルマが質問すると、なぜかアレクが答えた。

「キャットだ」

 猫獣人か。

「だから、勝手に言わないで下さいっす。キャットって、あんまり好きじゃないんすから」

「え?そうなんですか?」

 俺が聞くと、今度はちゃんとミゲリオさんが答えてくれた。

「普通のキャットは別に嫌いじゃないんすけどね。獣人のキャット種って、あんまり戦闘向きじゃないんすよ。俺はもっと派手な動きしてみたいんす」

 うーん……。日本人じゃなくて、外国人がよかった、とか、そんな感じなのか?

「そんなこと、初めて聞いたぞ」

「初めて言ったっす。それより、ルマ君は何の獣人なんすか?」

 あ、話変えた。

「俺はウルフです」

 おぉ!狼!
 獣人と言えば……みたいな、定番感あるよな。

「いいっすね。やっぱウルフの方がかっこいいっす」

「あ、でも俺、ハーフなので、獣型とれないんですよ。人間と大差ないです」

 ハーフだと獣型になれないとか、そんなのあるの?

「そういうもんなの?俺、獣人って実際に見たことないからよく分かんないんだけど」

「まぁ、これも人によるんだよ。俺は完全なウルフの姿になれないけど、ハーフでもなれるやつもいるよ」

 個人差あるんだ……。

「そういえばさ、獣人って、三種類の姿をとれるじゃん?見た目以外になんか変わるの?」

 俺の質問に、ミゲリオさんとルマが答えてくれた。

「変わるっすよー。獣人って、半獣型って呼ばれてるのが、基本って言うか……生まれた時の姿なんすけど、人型よりも身体能力が高くなるんす。……人型になると身体能力が下がる、の方が正確っすかね」

「と言っても、元々の身体能力が高いから、人型になったら人間と同じくらいだね」

「てことは、ルマは人型そのすがたで体育の成績クラス一位なんだから、半獣型になったらもっとすごいってことだろ?」

 人間と大差ないとか言ってたけど、十分大差あるだろ。

「まぁ、そういうことになるのかな」

 ルマが照れてる。いつもはしっかり者のお兄ちゃん、て感じだけど、なんかかわいい。

「獣型は?何か特徴があるんですか?」

「これは本当に種属によりけりっす。完全に動物の姿になるってことは共通っすけど。俺の場合は、夜目が利くようになったり、あとは、身体柔らかいんで、狭いところでも入れたりするっす」

 あー。ザ・猫みたいな。

「半獣型の時にも、そういう特徴は出るっすけど、獣型より弱いっすね」

 ほー。なるほど。
 そして、獣人が目の前にいるなら、やることは一つ。

「ねぇ、二人の半獣姿が見たい!です!」

「なんだ、ロアンは見たことないのか」

 ないよ!アレクと違って獣人の護衛もいないですし?

「まぁ、ここなら人も来ないだろうし、俺はいいけど」

 ルマがそう言うと、ミゲリオさんも頷いた。

「そうっすね。それくらいなら、いいっすよ」

 やった!
 心の中でガッツポーズをしていると、二人の姿が変わっていった。
 耳と尻尾が生えてきたぁ!
 あぁ、ルマの尻尾、ふわふわしてる……。ミゲリオさんのもすらっと伸びて、綺麗だな。

「……あれ?耳四つ?」

 ケモミミが付いてると、人間の耳は付いてないってのがお約束だと思ってたんだけど……。違うんだ。

「自分でも不思議なんだけどねー。どっちからでも聞こえるんだよ」

「聞こえないわけじゃないんで、特に気にしてないっすけどね」

 ミゲリオさんの言葉に、ルマが『俺もです』と同意する。
 そういうもん?本人達が気にしてないなら、まぁ、いっか。

「ねぇ、ルマ。尻尾、触っていい?」

 獣人がいるなら、もふもふしないと!

「いいけど……。ロアンは本当に俺が怖くないんだね」

 許可が出たので、早速もふもふしながら聞く。

「怖いって、何で?」

「あー、俺さ、西区に家があるって言ったじゃん?」

「うん」

「そういえば、そんなこと言っていたな」

「小さい時から、獣人は怖いって、避けられてたんだ。ほら、牙も出てくるし、爪も」

 そう言って、手を見せてくれた。確かに、少し爪が伸びて鋭くなっている。

「それが、嫌がらせとかもされるようになってさ」

 あぁ。わざわざ東区こっちの学校に通ってるのも、それが理由か。

「でも、ルマはルマじゃん。牙が生えても、爪が伸びても」

「僕はそもそも屋敷に獣人がいる。ハーフじゃないけどな」

「ハーフの人もいるっすよ。坊ちゃんが知ってる人で言えば、ナフィさんがハーフっす」

「そうだったのか。知らなかったな」

 ナフィさんが誰だか知らんが、まぁ、ルマを怖がる理由はないってことだ。

「二人共、ありがとう」

 ルマは笑ってそう言うが、別にお礼を言われる程のことはしてない。

「俺はもふもふ出来ればそれでいい」

 そう言ってルマの尻尾に顔を埋めると、

「ちょ、やめて!くすぐったい!」

 と言われた。
 仕方ない。一度離れて……。

「だから!」

 もう一回。はぁ……ふわふわだぁ。
 結局、午後の授業に遅刻しない時間ギリギリまで、俺はルマの尻尾を堪能した。
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