吠声(はいせい)

三條すずしろ

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スマイビト

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二つの影が炎天に焼かれている。



地に黒々と縫いつけられたその影の主たちは、まるでそのままの形で一つに融け合ってしまったかのように、がっぷりと四つに組み合っている。



その様は、靠(もた)れ合う巨岩が互いの自重で揺るぎもしないのに似ているが、一方、その均衡を拒絶するかのように微細な振動が絶え間なく影を震わせ続けている。



正面から抱き合うように組んだ二人は、互いに投げを打とうとしている。

一方は相手の肉体に、ごく僅かな均衡の綻びを見出そうと力を込める。

鋭敏にそれを察知したもう一方が、そうはさせじと逆方向に重心を移して真っ向から受け止める。



攻守を入れ替えながら延々そのような応酬が続き、もはや身体のどこまでが我でどこからが彼かもわからなくなっているのだ。



拮抗した力と力は行き場を失って二人の間を無限に往還し、血と、肉と、骨を苛んだ。

それでも、力が緩まることはない。

戦う理由を表すのに、「尊厳」という言葉を選ぶのは少し違うだろうか。

相撲(スマイ)とは単なる格闘技や戦士としての鍛錬に留まらず、地霊を鎮め邪気を払い、もって国家鎮護・五穀豊穣を祈る呪術としての側面も強い。

だが、はるか南国に生まれ、「隼人」と呼ばれた集団に育った二人には祈りなどよりも、ただ単純に己よりも強い相手と全力で戦い、打ち倒したいという欲求と、絶対に相手の力には屈しないという闘志があるだけだった。

だから、決して力を緩めない。

やがて、双方が勝負をかける時がやってきた。

ほんの一瞬でいい。相手の限界を上回る力をもって、このくびきから解き放ってやるのだ。
それは同時に己の限界を上回ることに他ならない。

声にならない気合いと共に、二人はほとんど同時に投げを打った。

鏡合わせのような姿で高々と両者の足が跳ね上がり、そして互いに掴み合ったまま一回転しながら、ゆっくりと大地へと吸い込まれていった。

二人の眼には、遠く開聞の岳が逆さまに映っていた。
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