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動き出す
しおりを挟むこれだけ時間を掛けた訳だが、こっちの準備は整った。
周囲は、特に変わった様子はないように思われる。俺以外の魔物も居ないようだし、町も普段通りで落ち着いているような気もする。
それは夜中だからかもしれないが、それでもこんな魔物が存在しているのだから、もっと混沌としていたり、町に変化があってもいいような気もするのだが。
そもそも、俺が死んでからどれくらいの日数が経っているのだろうか。それによっても変わるのだろうが、ドラゴンなんかが暴れ回ったって言うのなら、こんなに平穏な空気が流れてていいのだろうか。俺が言うのもなんだけど。
ポリポリポリ
爪が長い。しかも尖ってて危ねえな。
これじゃあ下手したら自分のちんこ引っ掻いちまうじゃねえか。バカ野郎。俺か。
少しくらいならいい刺激になるかもしれないけど、上手くやらないとな。ぎゃっぎゃっぎゃっ。
古い平屋。
電気は点いてない。既に眠っているのだろうか。それともここには誰も居ないのか。それは入ってみないと分からない。朝から物色してた訳じゃないからな。
それでも狙うはまずはここ。大人数では居なさそうだし、若くて力のあるようなあんちゃんも居ない可能性が高い。
勿論、偏見だ。
さてさて。塀のお陰でいい目隠しになってるから、目立ち難いってのも逆にありがたい。
どれ。
がら……、がらがら……
「っ!」
おいおいおい。まさかと思ったが、田舎ならではのあるあるかよ。1発目でこれかよ。幸先いいな。ここで1発抜いとくか。ぎゃっぎゃっぎゃっ。
鍵の掛かってない平屋。最高かよ。
しかも、ご丁寧に靴が2足、揃えて置いてある。
これは年季も入ってるし、デザインから見ても老夫婦っぽいな。勿論、偏見だ。そうであって欲しいとの願いも含まれる。
外から見て不審に思われないようにしっかりドアも閉めて、早速、お邪魔させて頂きます。若い雌だったら序でに頂くのにな。ぎゃっぎゃっぎゃっ。
若いのは居なさそうだと思って選んだのにな。やっぱり思考が変わって来てる気もするぞ。これも前からか?
2DKくらいの間取りかと思ったが、やっぱりそんな感じだった。2人なら丁度いいよな。
そろ~り、そろ~り
寝起きドッキリとかあったけど、比べるもんじゃねえけど、緊張感が半端ねえな。命の遣り取りをしようってんだ。当然か。
気配遮断:LV5も意識してるけど、ちゃんと効果はあるんだよな。聞いてみえてけどそんな事は出来ねえよな。馬鹿だけど、そこまでじゃない。はずだ。
心臓はあるんだよな。すげードキドキしてる気がするのに、鼓動は聞こえない。息は荒くなってるな。興奮の質が違うが、結局は同じ事?
落ち着け。大丈夫だ。眠ってる老夫婦など、多分なんとでもなる。はずだ。本当に老夫婦であってくれよ。
すー、ーー ー
建て付けを気にしたが、しっかり手入れはされていたようで安心したぞ。こういう時には逆にデメリットだな。ありがとよ。
「!!」
マジか。いきなり人発見。
こたつの長テーブルに、並んで伏して眠っている?
そんな不自然な体勢で眠ってるのか?
老夫婦のやる事は分からんな。俺にはまだ理解できない領域かもな。
他には人は居なさそうだな。気配もない。
ダイニングの奥に、2つ程部屋があるが、戸は空いている。
なんだろうな。普通ならあっちが寝室じゃないのか?
まあいい。悪く思うなよ。これからもっと酷い事が繰り返されて行く世の中になったんだ。これはお互いにとっても悪い事じゃない。
初めての人殺しを正当化するつもりはないが、それでも最初くらいは優しく、なるべく痛くない方向で終わらせたい。お互いとってもな。
老夫婦にしても、眠ってるうちにあの世に行けるなら、それはそれで幸せだったと思える日が来てくれる事を願う。老い先短い人生の巻く引きを俺が代わりに行うってだけの事だ。
俺はゴブリンだ。
これは使命だ。
俺は人類を滅ぼす為に生まれ変わって来たんだ。
そう思いながら、ゆっくり音を立てないように近付きつつ、棍棒を振り上げる。
殺ってやるっ!
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