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勝負……

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 よし。そろそろいいか。

 ずっと盾を構えてるのも疲れるだろうよ。ん? そうでもないのかな。スキル次第だし、筋力上げればどうって事はないのか。危ねえ危ねえ。簡単に騙される所だったぜ。

 だが! 俺も限界だ。緊張し続けるってのは、やっぱりしんどいぜ。これが本当の命の遣り取り。ファイチクンが居てくれて良かったぜ。

 そんなファイチクンには当たらないようにだけ注意して、

「ファイチクン! 前後の動きも入れて奴を牽制してくれ! その隙に投げる!」

「へ、へい! 分かりやした!」

 ザザ ザザザッ ザザ ザザザッ

 よしよし。いいぞ。いいよお。俺も一緒にやってやる。これでどうだ。微妙な距離だけに、迂闊うかつに踏み込んではこれまい。ゴブリンきったねえからな。舐めんなよ。


「ちっ。ちっ。ちょこまかと鬱陶しいなあ。掛かって来るならそのまま掛かって来い! くそゴブリンめ、ならばこっちから、……」

 よし。今だ!

 行けっ! 毒ナイフ!

 ほんのちょっとでもいいから毒を食らわせてやれ!

 シュッ! ……

 ドズッ!

「ぐっああっ!」

 ガッシャッン

 は? 盾を落としやがったぞ。効いたのか?

 上手い事のどに刺さってくれたみたい? 深いかも? 不快だろ?

 すげーな投擲術:LV5。筋力増強:LV3もか。

「あっ! ファイチクン! ちょっと待てっ!」

 って遅かった。少し様子を見つつ、更に毒ナイフ攻撃で削って行こうと思ってたのに、言い付け通り、ファイチクンが奴に攻撃を加えに行った。

 交互に攻撃する感じて行くぞって言ってたからか。しっかり話し合ってなかった結果がこれか。くっ。

 次に備える為に、直ぐにホルダーに意識を集中してナイフを回収する。

 すると首から血が噴き出したようで、痛みに堪えて苦しみながらも、左手で首を押さえる少年。

 これなら大丈夫かと思ったが、甘かった。

「ちっ。くっ、くっそおっ! だあぁっ!」

 ザシュッ!

「グギャッ!!」

「ファイチクンっ!」

 俺が呼び止めたのが逆に不味かったのか、少し動きが止まってしまったファイチクンに、奴の最後の足掻きのようなメチャ振りがヒットしてしまった。

 何かが飛び散ったのが見えた。ファイチクンの、……

「くっそおっ! だあぁっ!」

 思わず同じ叫び声を上げてしまったようだが、それ所じゃなかった。頭が少し沸騰したのだろう。既に奴に向かって駆けていた。

「よくもファイチクンをっ! 喰らえっ!!」

 ブンッ!! … ゴッギャッ!!

「ッが!! …………」

 ごしゃっ ……カラン

 はあはあはあ。動かないか? 死んだか?

 念の為にもう1発いっとくか。人類の敵でもあるけど、俺達の敵でもある。

 ん?

 お、おおっ! これまでとは違った感覚が全身を包む。すっげー経験値が入ったって事か? 選択者なだけに。いや。今はそれ所じゃない。これでこいつが死んだって事なら、ファイチクンを。

「ファイチクン! 大丈夫か?! ファイチクン!」

 ファイチクンの元に駆け寄り様子を見る。

 見事な切り傷が体に刻まれていた。これは、もう、……

「あ、兄貴ぃ。す、すみません。斬られちまいやした。あんな剣も避けられないなんて、……」

「ファイチクン! もう喋るな。動かなくてもいいから少しじっとしていろ!」

 くっそう。何かないか。何かないか。何かないか。ナニかないか? いやいやいや。こんな時までシモに走ってんじゃねよ。くそゴブリン。俺か!

【ゴブリン魔物特性】に、『雑食で何でも食べれば体力回復』ってあったんだ。それならファイチクンも何か食べれば回復してくれるかもしれない!

 そうだ。

「ファイチクン! ちょっとこれ食べてみろ! 食べる力はあるか?」

 拠点のマンションの元住居者の所にあったスナック菓子を口に持って行く。しまったな。こんな時に乾き物は食べ難いよな。ジュースの方が良かったか。

「あ、兄貴ぃ。すみません。か、体が寒くなってきまして、感覚も薄くなって行くようなあ、……。ははは、これって、死ぬってやつですかねえ、兄貴ぃ……」

 ちっ。ダメか。

 こんな時どうすれば! くっ! 殺してしまうのか? くっころか? このままでいいのか?

 取り敢えずジュースを無理矢理流し込もう。むせても仕方ない。どうせ死ぬなら俺の手で。違うな。やる事はやっておきたいだけだ。ファイチクン! 生きろ! 生きてくれ!

 くっそう。こんな時にペットボトルのキャップは回し難い。くそくそくそっ。早く回れ!

 はっ!?

 ぼわあっと何かが光ったと思ったら、奴だった。

 奴が倒れている場所が光ったはずだった。

 ま、まさか。

 ……。

 はあっ?!

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