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ファイチクン、ありがとう
しおりを挟むこの野郎。最後まで驚かせやがって。死んでもか。だから野郎は嫌いなんだよ。この場合は関係ねえか。
恐らく奴も異次元収納持ちだったのだろう。お決まりだからな。これを選ぶのは。
それが死ぬとこうなるのか。ありがとよ。全部ぶち撒ける事になるんだな。俺が今死ぬと、あのマンションの元住居者達と共に埋もれる事になるんだな。
……。それも考えものだな。また考えよう。
そんな事よりも。夜目が利いて助かったぜ。今はそいつに掛けるしかねえ。
勿論、白い液体じゃねえぞ。ああ。賭ける違いだったな。ゴブリン、パニクってるから間違えた。ぎゃっぎゃっぎゃっ。
頼むっ!
「……、っ!! よしっ!」
多分これだ。流石に夜目でもくっきりとは見えないが、何となくたが、薄明かりのお陰で分かる。
多分、赤と青。間違えても爆発する事はないはずだ。切断する訳じゃないし、そんな仕様の飲み物だったら嫌だな。なんてな。
「ファイチクン! これで助かるぞ!」
多分な。
キュポッ
心地良い音を立てて開けられた小瓶。そう、これはポーションだ。あくまでも多分だが、ゲームをやった事がある奴なら、こんな形の小瓶を見たら誰もがそう思うだろう。
そう、そんな形の小瓶だ。諸説あり。
色についても諸説あるが、体力、魔力、毒消し等々、効能によって様々だろうが、まずはこいつに賭けてみた。そして掛けてみた。今度は間違えない。当たってくれよ。
とぷとぷとぷ …… シュワワワワァ~~
よしっ。正解。多分だが、傷口がすげー勢いで塞がって行く。こんな時には裸ってありがたい。こんな時だけな。
そして残りの半分を口に流し込む。
口移し? そんなのする訳がねえ。俺ゴブリン。こいつもゴブリンだけど、仲間だけど、部下だけど、それは嫌!
野郎と口移しなんて、出来る訳がねぇっ!!
人間の時でも嫌だったのに、ゴブリンだぞ!
嫌だろう。いーやーだーろーうーっ。
ほら。飲みやがれ!
口の中に無理矢理小瓶を突っ込んで流し入れる。
とぷとぷとぷ
これはちんこじゃねえぞ。勘違いすんなよ。それは俺か。残らず全部注いでやるからな。なんてな。
あとは顎を上げてやればいいんだよ。気道確保の要領だ。人体の構造なんて、仕組みなんてそんなもの。
あとは重力と本能に従って飲んでくれる事を願うのみ。意識が少しでもあるのなら、生きようとしてくれているのなら。
俺はそれを信じたい。でも気管に入ったらごめんな。
あ。そもそも俺達ゴブリンだった。構造違うのかな。玉々無かったしな。今更だが、やっちまったか?
……
ちょいと遅かったかな。
まあ、ほぼ俺が悪いんだが。
「……」
ファイチクンよ。……
ここは感動の復活ってパターンじゃないのかよ。
苦難を乗り越えて、強敵を倒しての、感動のシーンが待ってるはずじゃ、……
「……」
反応がない。マジか。ファイチクン、……。
ありがとうよ。お前のお陰で倒せたよ。お前の仇は討ったからな。安らかに眠りやがれ。
ちょいとポーションは勿体無かったが、それはいいだろう。こんなもんがあるって知れたしな。それにまだあるし。
ああ、それと俺達魔物にも効果はあるって分かったのも大きいか。傷は治ったしな。逆に追撃入らなくて良かったぜ。今更だったけど。つい。
一応、埋葬ならぬ、火葬でもしてやりたいが、ここじゃ不味いよな。手段がねえし。
仕方ない。こいつも一旦収納させてもらうか。
ファイチクン。俺の第1号君だったのによお。愛人じゃねえぞ。そんなの夢物語だ。
初日でこれってよお、どんだけ激動なんだよ。人を何人も殺しといて何だけどさ。やれやれ。ゴブリンになってもこんな感情があったんだな。
ちくしょう。
あ、あれ。入らないぞ。容量がいっぱいになったのか?
いや。それはないはずだ。異次元収納のレベルを2つも上げたばかりだからな。まだまだたっぷり入るはずだ。
なら、魔物は入れられない? 魔石とかが関係してるってパターンもあるのかな?
まだこの世界の仕様は分からないからな。変動中かもしれないし。ちっ。
くそう。なら、ここに置いて行くしかねえか。運ぶのも何だし、もしかしたらリポップしてくれるかもしれないし。雑魚だけに?
……
ありえるだけに辛いよな。お互いに。
仕方ない。少しだけ様子を見るか。すまんな。
そもそも魔石なんかがあるのかの確認もしてねえや。実験的に解体してみるか?
なんて冗談だ。血も見たくないのに、敢えて自分からそれを流させる行為をしたいとも思えない。それなりの金になるなら別かもしれないが。何かと交換できるなら考えたいが。
言ってもゴブリンだしな。
……
それでもチリツモって言葉もあるしな。チリチリした雰囲気の中での『ツモっ!』。これは止められねえ快感だ。違うな。
必殺の格言、『1円に笑う者は5円に大笑い』って言うしな。こつこつ貯めて行けば、うっはうはのゴブリン生が待ってるかもしれないし。
それにファイチクンはゴブリンファイターだ。もしかしたら有用な使い道があるかもしれないな。
……
やるか、やらないか。それは俺次第だな。
「ファイチクン、……」
「へ、へい。兄貴」
「……はっ!?」
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