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1. 異世界デビュー
町歩き 南の商業区
しおりを挟む商業ギルドを出て、次に向かうは町の南の商業区。直ぐ目の前からがそうだから迷う事はないだろう。特に目的地が無いのだから、それこそ迷うとは言わないか。
情報収集と言う名の町歩き。ただ初めての異世界の雰囲気を楽しみたいだけ。とも言う。
目的地は特に無いけど、目的ならばある。
それは、人間以外の種族とも触れ合う事。勿論、体全体を使った触れ合いもしたいけど、それはまだ? また後で。
宿屋の受付嬢みたく、可愛いけも耳ちゃんもいいけど、やっぱり実際に見てみたいのはエルフとドワーフ。
有名だし、分かり易いし、誰しも1度は生で見てみたいだろう。生で入れるのもいいけど、それは後って言った。
周りを見渡しても確認する事が出来なかっただけに、珍しくないし、何処にでも居るはずたとは分かっているのに、まだ見てない。
もしかして俺から逃げてるのか? なんて思わなくもないけど、そんな好奇心だけで動いてるから発見出来ないのかな。変な事をするでもないのに。
勿論、気持ちいい事はしたいけど。それはお互いに。であって、一方的に俺が気持ち良くなるなるだけでもいいけど、それじゃ面白くない。
折角なら合意の上でお互いに。やっぱりそれならお店に行くのが1番だけど、それは後。大事な事だから2回言った訳じゃないけど、しつこいな。
くそう。
基本的には、この国では人種差別的なものは無いとされている。奴隷は居るけど、それは法律でも認められていて、社会機能の一部として活用されている。
犯罪者の更正の為ではなく、有効活用。人的資源の再利用。
人間の業とは深いもの。簡単に棄てちゃうなんて勿体無い。懲役なんて、余計な税金を使って管理するのも限界がある。
ならば民間に広く開放して、その資源を有効活用した方が皆の為になる。
なんて考えで始まった訳じゃないと思うけど。今ではそういった見方も出来る。しっかり整えられた、一部を除いては人道的にも整備された立派な国の制度。
それだけ犯罪者が多いとも取れるのだが、それはいつの時代でも、何処の世界でも変わらないのだろう。
借金奴隷の場合は、これまた違った側面があり、文字通り命を握られた、借金の形としての保証という意味での制約って事でもある。ちょっと分かり難く言ってみた。深い意味はない。
何でもしますから! が、本当に何でもさせられる事になる。
必ず返します! なんて言葉が通じてしまうのは日本くらい。って事もないけど、この世界ではそんな甘い言葉も態度も通じない。
借金返済までは、奴隷として強制的に労働させられる。能力に合わせて働かせるのが1番だが、それでも1番手早く返済出来る手段が好まれるし選ばれる。
選択権は雇い主。飼い主、奴隷主とも言う。
男の場合は、重労働が基本。戦闘力があるのなら、それもあり。冒険者と組まされたり、討伐依頼を請けたりする事が多い。
女の場合は、言わすもがなで、やっぱりそっちの夜のお店で働かされる事になる。それに優る能力があるなら別だろうけど。年齢、容姿に拘らず、そう言ったニーズは何処でもあるようだ。
まあ、今はそれもいいだろう。それもまた別の話。後の話?
まだ夕食の時間までにはそれなりにある。ならば何処かの店に入るべきだと思ったりしている。
エルフが居そうな店。ドワーフがやってそうな店。心当たりはあるが、それを見付けるのに時間が掛かっている。
町の中心部は家賃も高いのだろうし、倹約家で自然を愛するイメージのあるエルフとか、豪快で金属と格闘してるイメージのあるドワーフとかは、やはり町の外れに居るのだろう。
なんて勝手な解釈で歩みを止めずに進む。
おっと。発見か?
葉っぱと蔦を模した看板に、『ポーション専門店』の文字。
らしくない? ここに居る可能性あり。
でも、店名は、……。特に無いのか。残念。それなりの名前を期待してたのに。それっぽいファンタジー要素のある名付けを待ってたのに。専門店だから、そこに拘りはないのかな。
まあいいか。
なんて考えつつも、そっと様子を窺うように扉を開ける。
開けてから気が付いた。用件は?
余計な事を考え過ぎるからこうなる。
エルフを生で見たくて入って来ました。よろしく。じゃ通じないだろう。叩き出されるか、冷ややかな視線と共に死線を越える事にもなりかねない?
そこまではないか。って言うか、もう遅かった。どうしよう。
「いらっしゃいませ」
俺の目は釘付け。釘は刺さってない。念の為。
いぃ~えっすっ!!
いえす、いえす、癒えす!
エルフ万歳。
見ただけでも、軽く声を聞いただけでは男か女か分からない。どちらでも捉えられる。正に中性。両性具有者だと言われても納得してしまいそうだ。
だからと言って男とは致したくないが。
やはり耳は尖ってた。ちょっと痛そうかもって思ってしまったのはここだけの話。きっと立派で丈夫な軟骨に支えられているのだろう。
店内を見回しても、ポーション専門店なのだから、ポーションしかない。当たり前。
それなりに種類と数は並べられているが、どれもケースの中だ。安い物じゃないから、これも当たり前。
今更だけど、順番が逆だったかもしれないけど、これは俺の独断と偏見だが、エルフのお店っぽく、自然な感じの内装だ。興味を引かれた順の説明。これも当たり前。
そう。自然な感じの店内。あくまでも、感じだ。
植木鉢だけでなく、店内の至る所に花も飾られていて、緑と茶色、色取り取りの花で満たされている。毳々しく感じない範囲で。
人工的に作られた環境。これも自然と言えるのか。なんて疑問に思いつつ、漸く言葉を発する事が出来た。
なげーよ。
そこまで広くはない店内だったけど、ちょいと距離はあったけど、今更近付いて行くのもなんだし、この場で声を出しちゃった。別に、直ぐに逃げられるように。って訳じゃない。
「すいません。ここには、丸薬タイプ、錠剤タイプのポーションはありませんか?」
特にこれと言った用件が思い付かなかった。何て聞いたらいいかも分からなかった。だからこんな風に聞いてみた。
よくあるヤツ。何処かで読んだ。よく聞いた。何度も観た。なんでもいいけど、あったら便利。有用に使える継続的な効果を発揮してくれる回復薬の形。
やや効果が落ちるのは仕方ないとして、旅路でも、仕事でも、勿論、冒険中にも使える頼れるヤツ。
液状ではないから、それをポーションと言うかは別として。薬師の所に行ってくれ。なんて言われるかもしれないけど、既に聞いてしまったから遅い。
「あら。面白い事を言うのね。丸薬タイプ、錠剤タイプのポーションですって? ……。
あなた。あなた! ちょっといいかしら」
あっ。この人は女性だったんだ。そして既に結婚もしていらっしゃると。残念。
俺でどうにかなるなんて思ってないけど、どう妄想しようが俺の勝手。それくらいの夢は見せてくれ。どんな女性に対しても、は言い過ぎた。
可愛くて好みで好感が持てる女性に対しては、何時でも脈ありかどうかを考えてしまう。もしかしたらがあるかもしれない。なんて妄想するのが楽しいんだ。
こんな些細な俺の喜びを取らないで。否定してもいいけど、温かく見守ってくれなくてもいいけど、そっとして放っておいてくれ。今言えるのはそれだけだ。
「どうしたんだい。突然大声を出して」
なんて声がして、その旦那さんと思われる人が奥からやって来た。やっぱりと言うか、旦那さんもエルフだった。
同じ感じの風貌だった。比較して見ると背は高いけど。服装も、そう言われて見れば、男っぽい。のかな。
へん。別に悔しくなんかないぞ。
外見だけだけど、本当は裏では汚く罵り合ってるのかもしれないけど、こんな理想的とも言える美男美女の夫婦なんだから。そこに俺の入る余地はない。
入れられる秘地はあるのだろうけど。人妻に興味なし。人のものは人のもの。俺のものは何処?
ずっと2人で何か話していらっしゃる。旦那さんからの挨拶は無かった。これも別に悔しくなんかない。どうせ俺はモブ? 俺が質問したのにな。くらいは思ってるけど。
こんな放置プレイも悪くない。なんて気にもなれないけど。ちょっとだけドキドキしてるのは本当だ。
悪い事を聞いた訳じゃないと思うけど、どこかやっちまった感もあるけど、別におかしい事ではなかったはず。
面白い事を言うのね。なんて言ったのだから、せめて笑って欲しかった。
……
まだなのか?
どうせ2人共、年齢は見た目と違うやつでしょ。実はってやつ。週刊的には無関係。
ん? あれ? チラッと最初に応対してくれた、奥さんのエルフがこちらを見たぞ。
やはり年齢問題はタブーなのだろう。女性は何時まで経っても女性。年齢とは、永遠に語られる事のない神秘の経過時間。
何時から生命が誕生したのかなんて、それこそ神秘な物語。触れずにそっとしておく方が、お互いに限らず、皆平和に過ごせるだろう。
あっ。旦那さんの方もこっちを見てるじゃん。男でも、年齢を気にする奴は気にするか。そんな奴は大した奴じゃないけど。
違ったみたい。ご挨拶? 俺を見て、会釈してくれた。今更かい。なんて言いません。思っただけ。
「すみません。お待たせしたようで。それで、丸薬タイプ、錠剤タイプのポーションの件ですが、……」
から始まった。俺の今後の人生を若干左右するかもしれない仕出かし案件1号。スタートです。
あっ。仕出かし案件の1号は、『エリクサービール』か。
火炎、爆弾、ナパームビールもひっくるめて、1号とします。
そして、これは2号。
『丸薬タイプ、錠剤タイプのポーション』の件。
初日でこれだ。動き出したばかりなのに。
この調子なら、まだまだ増えるかも?
そんな訳ないか。
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