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1. 異世界デビュー
町歩き 初仕入れ
しおりを挟む突然現れた動機が不純な俺の言葉で、初めて会った行商人なのに、しかも今日の今でここまで信用して発展させて大丈夫かと思ったけど。正直に聞いたら教えてくれた。
「我々エルフには少し特殊な力がありましてね。見れば大体分かるのですよ。その人が信用出来る人か否かが。付き合って行ってもいい人かどうかが」
「うふふ。そうなのよ。それに、そんな風に正直に聞いてくる所も信用出来るのよ。普通の行商人ならそんな事聞いても来ないわよ。そもそもそんな面白そうな話も持って来てはくれないけど。数字の事ばかりで、何の面白味もないのよね」
だそうでした。流石エルフ。そんな能力まであるんだ。気を付けようにもどうにもならないじゃん。見ただけで分かっちゃうなんて。
フードをしてちゃ商売の話は出来ないだろうし、そんな奴は俺でも警戒するか。
そんな風に言ってくれて、嬉しいような恥ずかしいような。特に身構えてた訳じゃないだけに。美しい人達に俺の内面まで見られたようで癖になりそう?
ないか。
特にこれと言った用件が思い付かなくて、二次元のあるある情報を参考に聞いてみただけなのに。実はエルフを生で見たくて入って行っただけなのに。
それも読まれていたのだろうか。それならとっくに相手にされてないか、叩き出されてたか。エルフ語で打ち合わせはしてたけど、冷ややかな視線はなかったし。
まさかこんな展開になるとは。人生とは恐ろしい。
だからって訳じゃない。煽てられた様で居心地が悪くなったからでもない。
折角だし、値引き額を再検討されちゃう前に、お近づきの印として、さくっとそれなりの数を仕入れる事にした。俺の本業は行商人だから。
値崩れしない商品の4割引きを逃す手は無い。
品 名 数 合計数 単価
初級ポーション3種 ×50 150本 3,000
中級ポーション3種 ×30 90本 30,000
上級ポーション3種 ×3 9本 500,000
(3種:体力、魔力、状態異常回復)
450,000 + 2,700,000 + 4,500,000
=7,650,000
→4割引き =4,590,000
これを定価で売るだけで3,060,000ジェニの儲け。はっきり言ってぼろ儲け。売れればだけど。平穏に。何事もなくって条件も付けたいけど。
条件通りに在庫を勘案して、しっかり確認を取ってもらってからお互いに納得して商談成立。まさか2人もこれだけの量とは思ってなかったみたいだけど。
流石、専門店。在庫もバッチリ。それも信用の証。
俺が褒めたからじゃない。お互いに良い取り引きだったのだ。そういう事だろう。まさか追加でこんな物まで出てくるとは思わなかったけど。
やられました。そのうち買おうと思ってただけに、素直に嬉しい。ありがとうございます。
序でに、それならと、これからの事もあるからと、小型のマジックバッグ。マジックポーチと言った方が的確なポーチを、これまた格安で譲ってくれる事に。
前置きで、「まだ資金に余裕はありそうだね?」 なんて言われたけど。そんな事まで分かってしまうのだろうか。顔に出てたのか。商売人としても負けたような気がした。
他の要素は多過ぎて言いたくない。
エルフが選んだだけに、シンプルなデザインで飽きが来ない。元々そういうのが多い世界だけど。取り出しもし易そうだし、ベルトの調整も出来るから誰でも使える仕様になってます。
しかもこれ、使用者制限と時間停止機能付き。ポーションなら300本は余裕で入るのだとか。「詳しい事は使って確かめて」ですと。
全部ひっくるめて7,000,000ジェニ。
すると、マジックポーチは2,410,000ジェニって事になるけど、いいのかな。どう安く見積もっても3,000,000ジェニ以上はする代物だと思うけど。
そしたら、「これ以上びた一文まけられないよ」ですって。あら、男前。どっちでも取れるから、この表現も間違いじゃない?
今の発言は奥さんのクリスティさん。旦那さんのケビンさんじゃなかった。別にいいけど。深い意味は探る気もないけど。
計算が面倒とかじゃないと思う。恐らく、これもツンデレの一種? 俺の為を思っての事だと解釈して、素直に礼を言って受け取っておく事にした。勿論、金は払った。
残金『17,605,000ジェニ』
仕入れたポーションの為でもあるし、俺の為にもなる。ちょいと使い古されてた感もあるから、実はグリーンリー夫妻の為でもあったりして。
新商品の開発費に充てられるのだろうが。それとも全く別の用途だったりして。それはいいか。金の使い道も人それぞれ。他人がとやかく言う事じゃない。特におっさんが。
それよりこのマジックポーチ。新品もいいけど、おっさんが持つにはこっちの方が都合がいい。気持ち的に。目立たないってのも有り難い。
まだまだ入るみたいだから、温かい料理とかを入れて、それこそ異世界マジックバッグあるあるをやりながら旅しよう。行商だった。それにこれはポーチだけど。
この2人にしてみれば、そんなに量は入らないけどね。って事だったけど。その基準、価値観も人それぞれ。エルフって、こっちの方面でも凄かった。
少しでも、何処かは勝負になると思った俺が浅はかでした。どうせ浅い墓に入れられるのだろう。野垂れ死にか。魔物の餌。……
へん。
ありがとうございました。
で、今日の所は店を出る事にした。この町を出る前にもう1度寄る約束をして。
「格別の取り引きをありがとうございました。では、また3日の内には顔を出します」
「こちらこそ、お買い上げありがとうございました。それと貴重な情報も。それではお気を付けて」
「そうね。必ずまた来てちょうだいね。待ってるわよ。色々とありがとう」
人妻に言われても嬉しくないはずなのに。何故か接客態度は旦那さんの方が丁寧だよな。とか思いつつ。
その言葉と美貌は危険です。勘違いするのも危険です。俺は間違えない。
独身でそんな事を言ってくれる、俺の事を好きになってくれる可愛い女性を探すんだ。きっとそんな出会いもある。はず!
贅沢は言わない。エルフじゃなくていい。けも耳じゃなくてもいい。おっさんでもいいって言ってくれれば、結構な妥協は出来る。はず。
あ。でも、体型は気にする派。ぽっちゃりは好きだけど、ぼっちゃりでっぷりは嫌。そこは譲れない。そんな趣味は無い。
お互いにやる事がある。俺とグリーンリー夫妻とじゃやる事は全然違うだろうけど。それなりにいい時間になってしまったっていうのもある。
本当はもう1軒行きたかったけど、今日の所は諦めよう。良い子は暗くなる前に宿に戻らなきゃ。なんて。
宿屋の近くのお食事処ならよっぽど大丈夫なはず。初日って事もあるから、今日はハッスルしません。するなら独りで。またしても。
そこで思い出した。商業ギルドを出て以来、身体強化も光魔法の補助魔法も掛けてなかった。つい、うっかり。
余計な事を考えてるとこうなる。気を付けなきゃな。もしかして、それもあってエルフのグリーンリー夫妻に受け入れられたのだろうか。
どうだろう。分からないけど、まあいいか。使える時には使っておかなくちゃ。そう決めたはずなのに。
暗くなってくるだろうから、注意度合いも上がる。ならば使っておくべきだ。
って事で。早速掛けてみた。
うむ。やっぱり身体が軽くなる。これが標準仕様になるといいな。年を取っても体は衰えない。逆に徐々に強化されて行ったりして。ははは。
レベルのある世界だけに、それも有り得る話。決して笑い話じゃないかも。
それなりの装備もあるし、少し位はレベル上げをする気ではいる。危なくない範囲で出来れば嬉しいけど、流石にそんなに甘くない世界。
魔物を倒すと言う事は、魔物に倒される事もある。怖いけど、まずは1から。レベルは『10』だけど、一般の大人なら標準的なんだけど。魔法の試し撃ちと、禁断のビール兵器の検証も兼ねてやる予定。殺る予定。
そして、少しでもレベルが上がってくれると嬉しいな。これは希望です。
そう言えば、勉強になったのは、厳密にはポーションにも種類があって、薬師が作るポーションと錬金術師が作るポーションには違いがあるのだとか。
そうらしい。本職さんが言ってたのだからそうなのだろう。
これはこっちの世界の『一般教養・一般常識』には無かった知識。こういう知識もあるんだなと知れたのも良かった。
やはり一般的な常識が全てじゃない。当然なんだけど、思い込んで勘違いする前で良かった。そういう意味でも、この出会いに感謝です。
違いは、若干の回復力と劣化速度。使用期限の長さ。使用後の瓶の行方。全てじゃん?
品質の良い方が錬金術師が作る方。ややこしいけど、基本的には、ポーションと言ったら薬師が作った物を言う。
聞く所に依ると、違いは1発で分かるらしい。
錬金術師のポーションは、ファンタジー的に瓶まで一緒に作られるらしい。比較すると、液体は澄んでいて、がっちり封印もされていて、使うと瓶も消えてしまう仕様なんだとか。
だからよく効くし、殆ど劣化もしないから、使用期限も長い。というか、無い?
一方、薬師の作るポーションは、言わば手作業。勿論、所々で魔法は使うけど、イメージ通り、ごりごりやったりすりすりやったり、乾燥させたり溶かしたり煮たり濾したりするらしい。
要はかなり面倒って事。魔方陣や刻印なんかで封はするけど、比較しちゃうと濁りはあるし、劣化もやや早い。らしい。
作る過程、作る人にも依るけど、当たり外れがある。何処でも買えるけど、劣化版や粗悪品なんかも出回っているので注意は必要との事。それは知っていた。
中には見習い薬師が練習で作った物もあるし、スキル持ちが勝手に作った物もあるし、素人が見様見真似で作ったそれっぽい物もある。だから買う所、店は選ぶ必要がある。
勿論、良心的にその辺の事情を説明して安く売ってる店もあるし、その逆もある。鑑定持ちならいいけど、後は色を見て判断するしかない。
前者は諸事情に依り許されてるらしいけど、場合に依っては即通報事案もある。ポーションの値段は全国一律で決まっているから。
新人の育成や、正規品の優良さをアピールする事にもなるし、折角作ったポーションが勿体無いのだろう。作った方もコストは掛かってるし、少しでも金にしたい気持ちも分かる。
それを利用して、悪知恵を働かせて儲けようとする輩がいけないんだって話。
例外はなんにだってあっておかしくない。
ダンジョン内や緊急時は除かれてるし、一応、双方合意の上での値段の上下は黙認されてるようだし。
ギルドと名の付く所。薬師の店。専門店。なんかで買えば間違いはない。それと流れの免許持ちでも比較的大丈夫。人となり、値段に注意すれば何とかなるだろう。
そもそも錬金術師が作るポーションは、基本的には国が押さえている物。たまに出回る事もあるらしいが、量も少ないし、一般の人では手に入り難いらしい。
地位のある者、貴族や組織の役職者なんかは知ってるようだけど、あまり広めたくない情報なのだろう。値段が上がる事になるだろうから。錬金術師も珍しいから。
なら、聞かなかった事にした方がいいのかな。知識としては有り難いけど。それこそ変な事案に巻き込まれたくはない。もう遅いかもしれないけど。
それこそ、一応俺はノータッチだから大丈夫なはず。一切触ってもないし。誰をとは言わないが、何処をとは聞いて欲しい?
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