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1. 異世界デビュー
町歩き 夕食と宿屋と
しおりを挟む美男美女のエルフの夫妻が営むポーション専門店を出て、宿屋の近くのお食事処を探した。夕食を摂る為に。酒の市場調査をする為に。
この世界の『一般教養・一般常識』だけでは足りない情報もあると分かったのだから、尚更に実際にこの目でも、舌でも確かめる必要がある。特にビールに関しては外せない。そういう事だ。
本当はもう1軒、ドワーフが居るお店に行きたかったけど、それは明日のお楽しみ。1日で詰め込み過ぎてしまっても疲れるし、感動は多い方がいいけど、年齢と共に、それも勢いが衰えてくる。
しっかり動いてがっつり休む。これ基本。
ぐうたら過ごしてだらだら休む。これも基本。
夜のハッスルも、今の所は諦めるつもりで居るけど、酒が入るとどう変わるか。それも確かめないと。夜だけに。確かめナイト。
……
……
だからじゃない。下らないおやじギャグなんて言ってるから外した訳じゃない。はず。
押さえてある宿、『寛ぎの宿 猫の尻尾亭』の場所を確認した後で選んだ店。名前はもう忘れた。
食事に関しては、……。
基本的に、焼く、炒める、煮る、茹でる。
素直にそのまま素材の味を活かした料理。調味料は、塩とちょっとの胡椒。時々ハーブ類。
出汁とか下味を付けるとかマリアージュ、組み合わせとか、そんな概念を感じさせない店だった。ここは値段と量を重視した店だった。
ワイルド。正にワイルドだろ? って言われても納得出来る感じ。俺の求めてたものではなかったが。
俺の中の『一般教養・一般常識』が教えてくれる。こういう店のが多いから。喜ぶ人が多いから、求められるから、必然的にこういう店が主流になっている。
勿論、様々な調味料もあるし、何なら米、醤油や味噌もある世界。あと、残念ながらマヨネーズもありました。この店には無かっただけ。この店にもか。
料理無双は難しいと思ってたんだけど、これなら余裕じゃね? って思えたけど、値段と量には勝てない世界。それがここ。
それなりに高いけど、元日本人でも満足出来る店は全国にそれなりにあるけど、絶対数が少ない。
お祝い事とか、カップルとか、ここぞって時には利用される店。それが俺が行くべき店。金もまだそれなりに有るし。
でも、まあ、これも調査。いい勉強になった。
お店選びは重要だ。本日、2勝1負。宿屋とポーション専門店は勝ち。このお食事処は、負け。いや。恐らく大概負けるのかもしれない。食事に関しては。しっかり選らばなきゃ。
雰囲気は理解したから、次はない。これを参考にすれば間違えないはず。聞けば早いか。
だが、この流れは不味い。食事は不味いとまでは言えない。掛けた訳じゃない。夜のお店選びに影響しそうだ。そして2勝2負で終わる未来が見える。
お店でかもしれないし、お店に到着する前に負けちゃうかもしれないし。人生ジ・エンド。なんてエンディング付きになっちゃうかもしれない。
酒が入って少しアルコールも回ってるけど、そこまでじゃない。でも今日は止めておこう。そんな気分じゃなくなった。
料理は、俺なら1500ジェニもあれば腹いっぱいになる。確かに安いし量は多い。味は置いておいて。
酒は、やはりエールがメイン。安酒と言えばエール。これも基本。ワインもあるけど、薄い? 若いって前に、薄め過ぎ? って感じがした。そこまで違いは分からないけど、それくらいは分かる。
エール1杯 300ジェニ。
出来立てエールが 400ジェニ。
冷え冷え出来立てエールになると 500ジェニ。
上手い事やってやがる。旨くないのに。
……
ごめんなさい。嘘を言いました。出来立てエールは、普通に美味しくて、冷え冷え出来立てエールは、やっぱりこれだね。って感じで叫びたくなる位には美味しかった。
こんちくしょう。これじゃあ、俺のビール無双が出来ないじゃないか。だから何でも有りで製造出来たのだろうか。
いいけどさ。十分凄いユニークスキルって事は理解してるから。
でも、普通にビール売ってもぼろ儲けだろうけど、こういう所で普通に飲めるビールがこの値段で飲めるなら、それはそれでいいのかな。いい所だと思う。この世界。ありがとう。
この店には人間しか居なかった。当たり前なんだけど、エルフやドワーフもこの町でそれなりに暮らしてるはずなのに、ここには1人も来なかった。俺が居る間は。
同種族の集まりとか、溜まり場になってる店があるのかな。あったら行ってみたい。1度でいいけど。経験としてってやつ。
さ。寝るか。
生活魔法のクリーンって、とっても有用で有り難い魔法。風呂は好きだけど、ぶっちゃけ、これがあればシャワーは要らない。それに、服を着たままでも綺麗にしてくれるから面倒がない。
これは素晴らしい魔法の1つに認定。まだ他をよく知らないけど、今の所は暫定1位。勿論ユニークスキル以外では。
クロックとは別の方向で素晴らしい。ん? そう考えると、それぞれにそれぞれの方向で素晴らしいんじゃない?
* * *
次の日
これと言って何もなかったなんて言うつもりはない。初めての異世界で初めての町で初めて宿で初めての朝なのだ。それなりに思う所もあったし、それなりの感想もあった。
それもこの世界の『一般教養・一般常識』のお陰で落ち着いて対処出来たけど。
朝の天井に関する感想もあったとか無かったとか。それはもう使い込まれているから飛ばしただけの事。
いくら要点を絞った浅い読み物が好まれようとも、誤字脱字が多かろうとも、文字数が極端に少なくとも関係ない。気軽に雰囲気を楽しめればいいのだろう。お手軽な暇潰し。無料ってのも大きい。
それも時代の流れ。おっさんには付いて行けない事も多かった。だからおっさんと言われるのだろうが。
でも、皆生き急いでいるのかな。人の心情に興味がないのかな。人の振り見て我が振り直せなんて言葉は通じない世の中になっていたのだろうか。
なんて悲しんでみた事もあったけど。それももういいか。もう触れられないのだろうし。それに、俺は俺。思うまま好き放題に楽しく過ごして行ければいいか。
朝からこんな微妙な気持ちになったのは、こんなどうしようもない愚痴を発してしまったのは、このかったいパンのせい。
下手したら歯が欠けるっちゅーねん。だからスープがあるのだろうけど、このスープも肉や野菜等を煮出した汁って事なら間違ってないけど、味見はしたのだろうか。うっすいなんてもんじゃねえ。もんじゃでもねえ。
はっ!
そ、そうか。
ここは『寛ぎの宿 猫の尻尾亭』。文字通り猫人族が経営する宿屋。
見た所、宿泊客は猫人族が多いみたいだし、そういう事だったのか。人族と猫人族の味覚は違うと。
マジか。旨そうに食べてるじゃないか。食堂だけによく見える。皆まる見え。距離もそれなりに近い。
本当に見たい所はそこじゃないけど、野郎のけも耳に興味はこれっぽっちもないからガン見はしないけど。勿論、野郎に話し掛けるなんて愚行もしないけど。
普通の猫なら性別に関係なく優しく接する事が出来るのに。何でだろう。
文句も無さそうに食べてるじゃないか。皆さん。さ、流石にこれも、この世界の『一般教養・一般常識』には無い知識。やられた。
以後気を付けよう。獣人さんの奴隷といちゃラブ旅なんて、それこそ味覚の違いで楽しめないかもしれないじゃん。どちらかが我慢するなんて嫌だし、毎回2種類用意するなんて面倒だし、選択肢は消えるのか?
エアコンの温度設定がきっかけで揉めて離婚する夫婦はかなり居るって聞いた事があったけど、味覚の違いも大きいだろう。きっかけなら何でもありか。
暑がりや寒がり程度なら魔法や魔道具で何とでもなりそうだけど、味覚は難しいだろうなあ。
もふもふ、いちゃいちゃ、ラブラブ生活は。……
お、おうっ。結構なダメージ入った。朝からこれはきっついな。しかも、この宿あと2泊するんだった。はあ。
ここには野郎ばかりみたいだから、偶々だったかもしれないし、偶々と玉々を掛けても上手くない。やはり俺には旨いとは感じられない。この朝食も?
でも、そもそもその人に依るだろうし、獣人の種族も色々ある。考え方も味覚も体質も人それぞれ。もしかしたらもあるし、希望は捨てずに生きて行こう。
別に一緒に暮らさなければ全く問題無いだろうし、お店で我慢すればいいのか。そうだそうだ。俺にはまだまだ選択肢はある!
これくらいじゃ負けない!
さ。出掛けよう。
ごちそうさまでした。色々買い溜めもしておこう。
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